IT人材への投資で紡ぐ未来:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) IT人材への投資で紡ぐ未来

業界トップが企業システムの変革に挑戦する「次世代ITリーダー」にエールを送る

 はじめまして、日本オラクルの新宅正明です。「次世代ITリーダー」をテーマに、日ごろ考えていることを1週間書いていこうと思います。よろしくお願いします。

 さて、最近私がよく考えるのは、「人材への投資」ということです。福岡県に「高度IT人材アカデミー」(AIP:http://www.npo-aip.or.jp/)というNPOがあり、平成15年1月の設立当初から関わってきたのですが、受講生を集めるのに苦労してきました。ここ3年くらい、日本の企業もITベンダーも技術者が新しい技術を習得することに対して投資を最優先にしてこなかった影響かもしれません。

 ハードウェアやソフトウェアには積極的に投資をして、価値を上げてきたのかもしれませんが、反対に最も下落してしまったのは人の価値だと感じています。ハードウェアの価値は時間とともに下がります。人のスキルも同じで、常にアップデートされた知識やスキルを持っていれば価値を発揮できますが、そこを怠ってしまったのではと感じています。私の立場でも収益が悪くなればやむを得ず会社の教育費を見直そうと思うかもしれません。ですから、ほかの会社がそのような投資方針を採択することを理解はしています。

 AIPのコースは30日から40日くらいかかるため、企業もITベンダーも優秀な人材を受講させるのをためらってしまうようです。「余裕がない」で済めばいいのですが、人の価値を劣化させていくリスクがそこには潜んでいます。

 技術者も教育の機会を得て、ほかのチームと接し、いろんなことにアンテナを張ることによって、「ああ、そうか」と納得できるわけです。日本の優れた職人と同じです。ここしばらく、そういう人材の育て方をしてこなかったのではないでしょうか。

 厳しいプロジェクトに入り、OJTだけでいいというのは間違いです。OJTで技術を習得しても、それがもう使わないような古いアーキテクチャーだった場合には、新しい技術から取り残されているかもしれません。仮に最新の技術書を読んでいたとしても、現在自分が取り組んでいる技術と全く関係がないこともあります。プロジェクトが開始してから「BPELって何ですか?」となったらたいへんなことになってしまいます。やっぱり適切な時期に次のための教育を実施していかないと、せっかくの優秀な人材の価値も劣化してしまいます。

 そして、ユーザー企業ほど、ベンダーの最高の人材の仕事を理解し、評価してほしいと思います。理解ができなければ、チェックし、監査ができないからです。ユーザー企業で最も重要なのは、こうしたチェックや監査機構です。ここはアウトソースできません。アクセンチュアやIBMに頼む話ではないのです。

 この3年は、経済環境も厳しく、人材への投資どころではなかったかもしれませんが、それどころじゃないというのが、一番それどころではなくなってしまいます。

 IT業界の真の活性化のためには本当にいい<ピカピカ>の人材が入ってこないといけません。ピカピカが入ってくるというのは、この業界の社会的な位置づけが上がるということであり、活況を作っていく上でとても大切なことです。こうした人材をどんどん登用してこの業界の位置づけを上げ、ひいては企業の中にいるITの人たちの位置づけも上げることができるのです。

 企業のIT部門で働く人もITベンダーで働く人も、ITや技術者の重要性をますます高めていってほしいと思います。自分がコミットしている業界が世間でとても重要なのだと日々誇りを持って切磋琢磨していくことを願っています。

 昔からITは素人には分からない「ブラックボックス」とされ、不可解ながらも重要だと思われてきました。しかし、もはやそういう時代ではありません。経営者、プロジェクトマネジャー、最新技術のデザイナー、システムの監査役、そしてビジネスモデルクリエーターとして、実際の仕事の中で存分に能力を発揮していってほしいと思います。

 明日もIT専門職について書いてみたいと思います。

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新宅正明

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日本オラクル社長兼CEO
「次世代ITリーダー」をテーマに、日ごろ考えていること、特に高度なIT人材へ の投資や今後のIT専門職がどうあるべきかを1週間書き綴ってみました。

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