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これまでのエントリが前振りだったわけでもないが、そもそも“よいドメイン”とは何だろうか。それはドメインに限らず、会社名や商品名を考えたり、新しいサービスを考えるときに、どんな名前がよいだろう、と考えるのと同じである。言うまでもなく、短くて覚えやすいものがよい。ドメインについては、できれば商品やサービスを即座にイメージできるものがよいと言えるが、amazon が OnlineBookStore のような名前だったら、今ほどの成功をなしえたか疑問ではある。

ドメインの場合、営業内容や商品目的ごとの分類がほとんどないので、異なる分野の名前が競合することが多い。たとえば、「あさひ(asahi)」という名前は、朝日新聞や朝日放送、テレビ朝日、アサヒビール、旭硝子、アサヒシューズ、ASAHIネットなど、さまざまな会社で使われている。異業種で使われている限り問題はないが、ドメイン名は、それほど細かく分類されていない。企業であれば公式サイトは.comや.co.jpを使いたいと思うだろうし、そうあるべきだ。いくら新しいTLDが登場しようと、この点は変わらないだろう。実際、asahi.comは朝日新聞が使い、asahi.co.jpは朝日放送が使っているのだが、その他の企業もtv-asahi.co.jp(テレビ朝日)、asahibeer.co.jp(アサヒビール)、agc.co.jp(旭硝子)、asahi-shoes.co.jp(アサヒシューズ)、asahi-net.jp(ASAHIネット)といった具合である(ちなみに、asahi.ne.jpはアサヒデンキという会社が、asahi.or.jpは千葉県旭市が使っている)。
※大手の企業が名前を変えてでも.co.jpを使っていることにも留意してほしい。企業は、新しいTLDなど欲していないのである。

もっとも、会社名や組織名のためのドメインを登録するなら、日本では属性JPドメイン(.co.jpや.or.jpなど)を使えばよい。属性JPには1組織1ドメインなどの取得条件があり、誰もが自由に登録できるわけではない。かつては .co.jpでも不正登録と認定されたものはあったが、上記のように競合するような名前でなければ空いているものも多い(JMailという無料メールサービスが.co.jpでよいドメインを大量に登録したことはあったが、その権利を利用して汎用JPが先行登録されることはなかったようだ)。とくに日本向けの会社を運営するのであれば.co.jpドメインが必要かつ十分な条件であると言ってよいだろう(逆に、今では売買を目的として.co.jpが登録されることもほとんどないので、登録されているものを入手できる可能性は低い)。いずれ世界を目指すとか新たなサービスを始めるなど、属性JP以外のドメインを使おうとすると、汎用JPやgTLDの出番となる。

以前取り上げたGoogleのように造語だからダメというわけではない。Microsoftだって、造語の社名である。実際、CNetが使うnews.comや80万ドルで取引されたというdrugs.comなどもあるが、よく知られたサービスでは、むしろamazonやYahooのように“インパクトのある単語”が使われているケースが多い。これは、それぞれの時代でドメインが取りやすかったということもあるだろうが、ブランドとして確立させるのに都合がよいという面もある。

そして、本来googleのようなスペルミスドメインはあまり好ましくない。googleはgoogolのスペルミスであるが、googolがあまりポピュラーな単語でないからよかったようなものだ。人々は、まず正しいスペルを思い浮かべるものなので、スペルミスでブランドを確立しようとするなら、そのスペルミスをドメイン以外の手段で訴え続けなければならない。また、正しい綴りの単語でブランドを確立した場合、スペルミスドメインを「不法使用」で訴えることはできるが、スペルミスドメインでブランドを確立した場合に、正しいスペルのドメインを「不法使用」で訴えることは難しい。そもそも紛争処理もタダではない。gTLDでWIPOを通じて訴える場合でも1500ドル(ドメイン名が1~5個の場合)、.jpドメインで地財仲裁センターに依頼する場合は18.9万円(1~3個の場合)以上かかる(弁護士料は含まれていない)。本格的に裁判に訴えるなら、より高いコストがかかるだろう。

また、以前紹介したiPhone.comやMercury.comのように、ブランドが確立されてからドメインを取得しようとすることは、結局高くつくことも多い。キャラクター風の名刺ガジェットで知られるPokenは、当初DoYouPoken.comというドメインを使っていたが、昨年poken.comを7.5万ドルで購入している。取引は水もので分からない部分はあるが、pokenという単語は、さほど人気のありそうな名前でもないので、設立前だったら、ずっと安く入手できていただろう。逆に、duet.comというドメインはsedoというサービスを通じて4万ドルで取引された(2006年)。直観的にはpokenよりずっとよいものだが、現在Microsoft OfficeとSAPを連携するソフトウェアの公式サイトとして使われている(所有者名義はSAP)。

ドメインに気を遣うべきなのは大企業ばかりではない。むしろ、ベンチャーであるなら余計に気を遣うべきだ。大企業なら、どんな名前であろうと、「その企業がはじめた」ということがニュースになるので新しいサービスを知らしめることができる。ベンチャーは、そこに最初のハードルがあるのだから、「空いているから取れる」というような名前を使うことは好ましくない。成長著しいTwitterにしても、「Twitter.comは空いていないからSiteTwitter.comにしよう」とは思わなかったのだ。もちろん、よいドメインを使うだけでブランディングが終わるというものではないが、ブランディング確立にかける費用の一部は「まともなドメイン」に割り当てるべきである。

何もToys.comに510万ドルを出したToys R Usの真似をしろということではない。これほど取引価格が高騰するのは極めてまれなドメイン、かつ例外的なものである。日本円で数万~数十万程度もだせば、それなりのドメインを入手する機会はある。ほとんどがプロどうしの取引であるため安めの値段になっているということはあるが、以前にも紹介したDN JournalのDomain Salesを見ていると、意外に安く取引されているドメインは多い。とくに金融危機以降、割安と感じられる取引は増えている。専門の事務所を通じて特許をひとつ登録しようとすると50万くらいかかるそうだ。専門家の手を借りるのだから当然のコストだろうが、将来利益になるかどうかわからないものにそれだけのコストを費やすなら、インターネット上のブランドになるドメインにも相当のコストをかけてよいはずだ。

※本エントリは、個人ブログからの転載です(多少、改変しています)。

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大野 元久

平成元年にIT業界に入って以来、開発ツールに関わり、主にマーケティング中心に活動してきました。現在はフリーランス。

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