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前回のエントリで取り上げたとおり、新しいTLDが登場したところで、人々はレガシーなTLD、とくに.comドメインを登録し続けている。8500万ものドメインが.comで登録されていることだけでも、「ドメインの登録数が増えたのでTLDが足りない」という事実はないことがわかるだろう。実際、ほんの5文字を使うだけでも6000万以上の組み合わせがあり、上限の63文字まで使えば無限に違いドメインが登録できる。

もっとも、セカンドレベルの“名前”にこだわりたいというのも人情であり、.com をはじめとするレガシーなTLDでは空いていなかった名前が新TLDで登録できる可能性もある。そして、それ(だけ)が新TLDの魅力でもある。「良い名前が空いていない」ことから、そうした名前を探すのに ccTLD まで広げていくことがあった。ccTLD とは国別トップレベルドメインのことであり、本来は国や地域ごとに割り当てられている TLD だが、これを別の意味に置き換えてその国以外からの登録を受け入れるようになっていたのである。日本では、.to(“と”と読む)や .tm(“トレードマーク”の略称として)のように、ccTLD から空いている名前を探す例が散見された。

本格的に ccTLD をビジネス化して成功したのが .tv(ツバル)だ。人口約1万人、海抜5mという島国で、地球温暖化などでも取り上げられるツバルは、自国に割り振られた .tv の権利を dotTV 社に売却することで、国連への加盟費用を支払った(その後、VeriSign が買収)。.tv は、television の略称という意味づけから始まったが、今では比較的広く使われている。.tv の登録費は比較的高いものの、"TV" という呼称とともにうまくブランディングされたことや、drugs.tv(5万ドル/年)、finance.tv(2万5千ドル/年)のように単語系のドメインの登録維持費を高額に設定することで収益を上げている。.tv は日本でも使われている例が見られるが、その後に登場した .cc(ココス)や .ws(サモア)のような ccTLD で、.tv のような成功を収めているものはほとんどない。.cc を運営する eNIC が、やはり VeriSign の傘下となり、いくらか知られている程度である。もちろん、日本の ccTLD である .jp は日本のウェブサイトにとって重要であり、これらと同列に扱うものではない。

このようなマイナーな ccTLD を「空いているから」といって使うことにどれだけ価値があるだろう。そもそも、.comドメインも登録せずに「インターネットいえばドットコム」と思う人すらいる中で、このような ccTLD をドメインの一部と認識してもらえるかすらあやうい。ブランディングのために「良いドメインを使う」理由は、スペルミスしにくく、簡単に覚えてもらうことである。たとえば、広告に http://www.example.cc/ という URL を書いても、それを見た人は http://www.example.com/ をアクセスしてしまうかもしれない。もし、http://www.example.com が人々にあまり好ましくないサイトだったらどうだろう。.ws ドメインを使うなら、「.ws は website の略称です」などと説明を追加するのだろうか。ブランディングを考えれば、そうしたマイナーな ccTLD に手を出すべきではないのだ。

さらに、ccTLD は登録費が安くないものも多い。eNom というレジストラのリセラーアカウントでは、.com や .net のような gTLD が $7.95 で登録できるのに対し、.tv は $39.95 もかかる。さらに“ラジオ向け”と宣伝される .am や .fm は $99.95 もかかる。あるいは先の .tv のようにプレミアムな名前、短い名前には高額の維持費を課しているものもある。維持費が高いからこそ空いているものを見つけやすいことが多いともいえるのだが、この先5年、10年と維持しようとするサイトを作るのであれば、毎年$100を維持費に払うより、最初に$1000払ってでも価値あるドメインを入手し、維持費は年$10で済ませる、という方がよいのではないだろうか(価値あるドメインの探し方は、別に取り上げる予定)。

もうひとつ問題なのは、ccTLD はブランディングの問題という以上のリスクがあることだ。かつて .np(ドットニッポン)というサービスがはじまったことがあった。.np は、ネパールの ccTLD だが、ネパール国内で使っている .com.np や .mil.np をそのままにして2文字のセカンドレベルドメインに関する権利を確保して、日本向けに登録を受け付け始めたのである。ドットニッポンは1年半後に幕を閉じた。報道では「ネパール情勢の悪化」が理由とされているが、本来の .np ドメインが今でも通常どおり運営されていることを思うと(http://www.google.com.np/ など)、ビジネスを維持できるほど登録数がなかったのだろう。さらにお名前.comのニュースによれば、自由に登録できていた .cn の登録条件が厳しくなり更新できなくなる恐れがあるという(すでに新規受付は停止されている)。このように、ccTLD の運営が停止してしまったら、サイト運営上の大きな問題になることは言うまでもない。

そのような ccTLD なのだが、大企業が手を出した例もある。popfly.ms というドメインは、Microsoft が Silverlight というブラウザ用のプラグインの技術力を示すために、Web ベースの開発プラットフォームとして使われていた(現在は閉鎖)。(当時は関係者でもあったので)このドメインを見たときには少なからず驚いたのだが、その後 popfly.com を使うようになっていった。また、かつて NTTレゾナントは BROBA という動画配信サービスのために broba.cc というドメインを使っていた。NTT は .net や .org などもすべて broba 名を登録していたが、broba.com が登録済*1だったために、あえて .cc を使ったのだろうと思う。これも現在は goo.ne.jp 以下のサブディレクトリで運営されている。ウゴウゴルーガのオフィシャルサイトは今でも ugougo.cc である。

また、最近急速に成長しているのが短縮URLサービスでは、かなりバリエーションに富んだ ccTLD が使われている。TechCrunch の記事に「Twitterでのトップ100URL短縮サービス」というリストが掲載されているが、中には 2文字.2文字、あるいは1文字.2文字というドメインも使われている。ccTLD によっては1文字名を登録できるので、ピリオドを含めても4文字という最小のドメインが使えるのである。ドメインを心配するより先にサービスそのものがなくなってしまう恐れもあるが、あまりよい傾向ではないと思う。昨年は1文字 .biz ドメインの登録が認められて、その登録が sedo のオークションにかけられた。実際にオークションのようすを見ていたが、1文字.bizを数千ドル程度で落札されていた。ピリオドを含め5文字のgTLDであり、.com よりも登録が少ないとはいえ7年の歴史を持つ gTLD である。落札費用は高くても維持費は$10以下なのだから、ビジネスの将来を考えたら、ccTLD を使うよりも、ずっとよい選択肢だっただろう。

*1:なお、当時から今までずっと for sale になっている

※本エントリは、個人ブログからの転載です(多少、改変しています)。

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平成元年にIT業界に入って以来、開発ツールに関わり、主にマーケティング中心に活動してきました。現在はフリーランス。

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