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IT業界のコメントマニアが始めるブログ。いつまで続くのか?

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毒を食らわば皿までということで、同じ話題を続けます。とりたてて特定個人の意見をどうこうしようというわけでもないわけですが、ブック検索の和解が意図しているのは、著作者の意思に反してでも著作物をネット利用したいから、ということでは決してありません。もし、そんなことを“意図”していたら、そもそも和解が成立しないでしょう。

ブック検索(全体の表示使用)で、「自ら除外を意思表明(オプトアウト)しない限り著作物が公開される」設定になっているのは、「著作物を公開したくない人がいないのに公開されない作品」、いわゆる“孤児作品”を利用できるようにするためです。本来、著作物は(たとえ事後であっても)許諾なしに利用することはできません。著作者(著作権者)がわかっていれば、利用のための許諾を求めることができますが、著作者がわからなければ、それすらできません。ブック検索の設定を「参加を意思表明(オプトイン)したもの」に限れば、騒がれている問題はなくなるのですが、そうすると意思を表明できない“孤児作品”を利用する道が閉ざされてしまいます。孤児作品の問題は、私が保護期間の延長に反対するほぼ唯一の理由です。

なお、日本の著作権法では、「著作権者不明等の場合における著作物の利用」(第67条)で、著作権者が不明の場合でも「相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができないとき」には、対価を供託することで利用できます。もちろん、「ネットで検索しても見つかりませんでした」程度では、「相当な努力」と認められる可能性はないでしょう。米国でも同じような法律が検討されていたはずですが、どうなったかまでは調べていません^_^;

以前、和解サイトで得られるデータによれば日本の書籍はほとんど“絶版(Out-of-Print)”扱いになっているので、「米国の流通で扱われていないからといって絶版扱いなのはおかしい」と書きました。しかし、実際には日本の amazon から輸入できるものだとしても“販売中”(Commercially available)とみなすそうです。「データが間違っていたら、申請してくれれば直す」という対応のようですから、どれだけの著者の意思が“正確に反映”できるのか大いに疑問ですが、和解管理者からの回答によれば、版権レジストリはあくまであらゆる著作者の意思を正確に反映することを意図しており、「物書きは表示使用を許諾するのがデフォルト」という考えで設計されているのではありません

そもそも、世の中にある書籍というのは、机に向かって書き記した個人の創作表現というものばかりではありません。それなりの時間をかけて調査したものや、制作にお金がかかっているものもあるでしょう。書店にいけば、“自己表現”でない書籍が山ほど見つかります。以前にも書きましたが、著作物にはさまざまな多様性があるわけですから、自らの著作物の取り扱いをもって、他者にまで「こうあるべき」ということは押しつけ以外の何ものでもありません。逆に、自分の作品がネットで読まれることが嬉しいのであれば、主に著作権切れの作品をテキスト化している「青空文庫」で公開することだってできます。

もし、版権レジストリが、あらゆる著者(著作権者)の意思を正確に反映するものとなるなら、何も問題はありません。そこにあるのは、意思表示されない“孤児作品”の活用が進むというメリットだけです。どこかの待合室の見たテレビ番組で、相続が重なって多数の所有者に所有権が分散してしまった土地利用の話題を取り上げていました。そもそも所有権を持っていることすら知らない所有者もいるという話で、そのような制度のために活用されない土地を問題視したものでした。だからといって、「土地活用を促進するため、活用の是非をインターネットで申請してください。申請のないものは公共用として没収します」という告知を新聞の片隅に出して、すませられるものでしょうか。しかも、申請の妥当性さえ検証しないのだとしたら。

疑問は、いまだ消えません。

mohno

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大野 元久

平成元年にIT業界に入って以来、開発ツールに関わり、主にマーケティング中心に活動してきました。現在はフリーランス。

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