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ザッポスといえば、とかくユニークな経営手法ばかりに目が行きがちだが、私は動画配信事業者という立場もあって、以前からザッポスの商品動画の活用方法に興味を持っていた。つまり、企業としてのザッポスよりも、靴のECサイトとしてのザッポスの方が興味の対象なわけである。理由も非常に単純。ザッポスよりも動画を有効的に活用しているECサイトが、世界中どこを探しても見つからないからだ。5万点を超えると言われている大量の商品動画は、もはやザッポスのビジネスにとってなくてはならないものになっている。

ザッポスの商品動画の活用方法は、数年前から国内外のECサイトを運営する事業者からも注目を集め、ザッポスを真似て商品動画を活用するECサイトも最近は増えてきている。しかし、いずれも活用方法が中途半端になっていて、とても成功しているとは言えないのが現状だ。たとえば、7月4日の記事「ビームスとユナイテッドアローズ、両セレクトショップの動画活用の違いについて」で紹介しているように、セレクトショップのビームスも4月から自社が運営するECサイト上で商品動画を配信している。しかし、商品動画の本数も内容も、当然のことながらザッポスには遠く及ばない。

そんな中、ひょっとしたらザッポスに唯一対抗できるのではと思わせてくれる、ユニークな商品動画の活用方法を取り入れているECサイトが現れた。あのアマゾンが今年の5月3日に開設したばかりの、会員制ファミリーセール通販サイト「マイハビット(MYHABIT)」だ。このマイハビット、高級ブランドやデザイナーズブランドの洋服や小物類が、最大で定価の60%引で購入出来ることで話題を呼んでいるのだが、何とほとんどの商品に商品動画が用意されている。しかも、ザッポス以上にシンプルな内容。

ということで、今回はザッポスとマイハビットにおける、実際の商品動画の活用方法を紹介し、両者の共通点と違いについて詳しく解説したいと思う。

【1】 ザッポス商品動画の特長

① 商品動画を再生するための手順

ザッポスの商品動画は、ほとんどの商品に用意されているので、簡単に見つけることができる。ザッポスを真似たECサイトの多くが、商品動画を用意してある商品を見つけるのに苦労するのとは大違いだ。ザッポスが何よりも凄い点は、この商品動画の数の多さにある。早速ザッポスのECサイトにアクセスして商品動画を見てみよう。

ザッポスのECサイトにアクセスしてみるとわかるのだが、最近は靴以外のファッションアイテム(洋服、カバン、ベルト、コスメなど)もたくさん取り扱っている。ザッポスは、もう靴だけを売っているECサイトではない。

まずは、以下の手順に従って動画を視聴してみてほしい。せっかくなので、選択する商品は靴にしたいと思う。ザッポスのECサイトには、以下のURLからアクセスすることができる。

※ ザッポスECサイト ⇒ http://www.zappos.com/

ザッポスは、まだ日本語版のサイトがない。英語が苦手で尻込みしてしまうという人のために、商品動画を再生するまでの手順を図にまとめてみた。ザッポスは、インターフェースが少しわかり難いという声を時々耳にする。おそらく、商品の説明ページまで辿り着けても、動画の再生ボタンが見つけ難いからではないだろうか。そんなこともあって、今回は手順を図式化してみた。下の図の通りに進めてもらえれば、必ず商品動画に辿り着けるはずだ。

1
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② 商品動画に見られる技術的な特長

次に、ザッポスの商品動画に見られる技術的な特長を整理してみたい。まず真っ先に目が行ってしまうのが、YouTubeを使っていないということだ。ザッポスは、自社で動画配信サーバを構築して配信しているか、弊社が提供しているような有料の動画配信サービスを利用しているものと思われる。ただ、自社で配信しているか、有料の動画配信サービスを利用しているかはさておき、5万本以上の商品動画を、YouTubeを利用することなく配信しているという点が重要だ。

ただし、YouTubeは利用していないが、ソーシャルメディアへのシェア機能はちゃんと用意している。もう一度商品動画を再生してもらえればわかるのだが、動画再生プレイヤーの上部右側に、ちゃんとツイッターとフェイスブックへのリンクボタンが用意されている。フェイスブックのアカウントを持っている人は、試しにフェイスブックへのリンクボタンをクリックしてみてほしい。シェアボタンをクリックすると、フェイスブックのニュースフィードにちゃんとシェアした商品動画の内容が表示される、完璧な実装がされている。

YouTubeのようなソーシャルビデオを利用しなくても、ソーシャルメディアへのシェア機能さえちゃんと用意していればバイラルが可能だということを、ザッポスの商品動画活用方法が証明してくれている。

Photo_2

③ 商品動画に見られる制作上の特長

最後は、ザッポスの商品動画における最大の特長である、制作面についても整理しておきたい。ザッポスの商品動画における制作上の特長は、パターン化することで商品動画毎の品質のバラツキを抑えることに成功している点だろう。例えば、演出に関して言えば、ほとんどの商品動画が以下の6つのシーンから構成されている。

 

 -1. スタッフが商品を手に持って、全体を見せながら商品が何であるかを伝える
 -2. 靴の場合は必ず履いたイメージを伝えるために足元を見せる
 -3. もう一度全体を見せながら特長を説明する
 -4. 機能や耐久性をアピールする。商品によっては、叩いてみたり折り曲げたりする
 -5. 最後にもう一度商品の良さをアピールする
 -6. スマイルを忘れず、爽やかに退場する

商品よって多少の違いはあるが、演出に関して言えばまずこのパターンでまず間違いない。2番目の足元を見せる演出と、4番目の機能や耐久性をアピールする演出は、絶対に含まれている。特にサンダルなどの商品は、必ずと言っていいほど折り曲げて耐久性をアピールしている。是非、いろいろな商品動画を視聴して、上記のパターン通りか確認してみてほしい。

他にもパターン化されている部分がたくさんあるので紹介したい。まず、効果音や音楽が使われている商品動画が多い。商品を回転させたりひっくり返したりする時に、効果的な使い方がされている。次に、商品の説明は必ず自社のスタッフが行っている。タレントやモデルを起用しているパターンはまだ見たことがない。背景は必ず白を使っている。倉庫やオフィスを背景に使った商品動画もまだ見たことがない。最後、尺は長くても60秒。一番多いのは30~40秒くらいだ。

ザッポスは、以上の演出や制作工程をパターン化することで、大量の商品動画を継続して提供し続けることに成功している。

Photo_3


【2】 マイハビット商品動画の特長

① 商品動画を再生するための手順

マイハビットは会員登録制のため、商品動画を見るには会員登録を行う必要がある。もし面倒でなければ、是非会員登録をして商品動画を見てもらいたい。マイハビットは、冒頭でも触れたように、5月3日に開設したばかりの新しいサービスだ。よって、ザッポスのようにほとんどの商品に商品動画が用意されているわけではない。それでも、最近の商品に関して言えば、ほとんどの商品に商品動画が用意されているので、ザッポス同様商品動画を見つけるのに苦労はしないと思う。

※ マイハビット会員制サイト ⇒ http://www.myhabit.com/

Photo_4

② 商品動画に見られる技術的な特長

商品動画の配信には、ザッポス同様YouTubeは利用していない。自分たちで配信しているか、有料の動画配信サービスを利用しているかのどちらかだと思われる。また、動画再生プレイヤーの内部ではないが、ちゃんとソーシャルメディアへのリンクボタンも用意されている。実際にフェイスブックにシェアしてみたが、ちゃんとニュースフィードに表示された。

③ 商品動画に見られる制作上の特長

実際に見てもらえればわかるのだが、マイハビットの商品動画はザッポス以上にシンプルだ。選択した商品(洋服)を着たモデルが、正面から向かって右回りにゆっくり回転するだけという、何の演出もない内容になっている。尺もわずか10秒前後。ただ、尺が短いので何度でも見てしまう。洋服の商品動画は、ある意味これで十分なのではないだろうか。

あまりにもシンプルなため、特にそれ以上の演出はない。ザッポスのように効果音と音楽も使われていない。また、商品を着てモデル役を務めているのは、スタッフではなくプロのモデルだと思われる。

【3】 ザッポスVSマイハビット、商品動画の活用方法における共通点と相違点

以上のように、ザッポスとマイハビットにはいくつかの共通点と相違点がある。簡単に下の図にまとめてみたので、参考にしてほしい。結論から言えば、いくつかの相違点は確かにあるが、YouTubeを利用していない、ソーシャルメディアへのリンクボタンが用意されている、商品動画の制作工程がパターン化されているといった、重要なポイントが共通点となっている点に注目したい。

Photo_5

ザッポスに関して言えば、日本でもかなり認知度が高まってきており、商品動画を上手く活用している事例としていろいろなメディアでも取り上げられるようになってきた。ただ、そのザッポスの商品動画が、技術的にどんな特長があるのか、また商品動画の制作過程にはどんな特長があるのかといった、ECサイトの運営に携わる人達が本当に知りたい情報に関しては、ほとんど論じられてこなかったのが実情であった。

よって、今回のザッポスの商品動画に関する記事は、かなり踏み込んだ内容になっていて、参考になる部分が多かったのではないかと自負している。また、マイハビットは今後要注目の会員制サイトだ。シンプルな商品動画は、他のアパレルのECサイトや会員制サイトもすぐに真似ができる。動画の活用方法を検討しているブランドは、導入を検討してみるべきだ。

個人的には、ザッポスもマイハビットも、YouTubeを利用していないという点にヒントが隠されているような気がしている。なぜザッポスもマイハビットもYouTubeを利用しないのか。この問題については、近日中に記事にしてみたいと思っている。

商品動画は、アパレルはもちろん、アパレル以外のECサイトにとっても導入する価値のある動画の活用方法だ。導入にあたって、質問や疑問などがあれば遠慮なく問合せいただきたい。

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伊藤 靖

伊藤 靖

株式会社リトルウイングス代表取締役。
青森県弘前市出身。大田区蒲田在住。
企業のメディア戦略、コンテンツ戦略、モバイル戦略の構築と実行をサポートするサービスを提供しています。

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