米国電話会社の目まぐるしい統廃合
先週は米国の寂しいブロードバンド事情について書いた。ISPを飲み込んだ電話会社も、分割、再統合、買収などと目まぐるしい動きを見せた。紙面に限りがあるので、ここでは掻い摘んで要点のみを記述する。
1984年以前、米国の電話事業は、中堅のGTE(筆者はこの研究所に研究員として勤めた経験がある)や多くの零細な電話会社を除けばすべてAT&Tによって牛耳られていた。独占禁止法訴訟を巡る司法省との長い闘いの後に、AT&Tは分割を受け入れ、1984年に7つの地域ベル会社を放出して、自身は長距離電話会社として再出発した。他の長距離電話会社にはMCIやSprintがあった。
この7つの地域ベル会社は以下の通り。
- Ameritech(シカゴなど中西部)
- Bell Atlantic(フィラデルフィアなど東部の中部)
- BellSouth(アトランタなど南東部)
- NYNEX(ボストン、NYなど北東部)
- Pacific Telesis(PacBell - SFなど西部)
- Southwestern Bell(SBC - ダラスなど南部テキサス)
- U S West(シアトルなど北西部)
AT&Tはその後ケーブル会社を手放したり、無線電話で失敗したりで経営状態が悪化した。一方、地域ベル会社の中でもBell AtlanticとSouthwestern Bellが大きく成長して、他のベル会社を食い始めた。
Bell Atlanticは、1996年にNYNEXを買収した後2000年にはGTEも買収して、Verizonと名前を変えた。有線電話ビジネスの停滞は世界の趨勢で、それに対し無線が大きく伸びていた。VerizonはVodafoneと合弁で無線ビジネスに乗り出し、Verizon Wirelessは全米で利用者数8900万人、トップに立っている。2位はAT&Tの8250万人で、大きく引き離されたSprintが4830万人だ。
SBCはPacBell(1997年)やAmeritech(1999年)を買収した。筆者はPacBellの地域に住んでいたが、公衆電話がPacBellからSBCに変わったのを覚えている。さらに2005年、SBCは元の親、AT&Tを買収して、社名をAT&Tに変更した。ちなみに、SBCはDSLのサービスを開始するにあたってインフラ部分は自社が担当したが、その上の部分はYahooが担当した。このためAT&Tとなった今も未だにサービスによってはxxx.yahoo.sbcglobal.netというドメインを使用している。
その後BellSouthはAT&Tに買収され消滅(2006年)、US WestはQwest社に買収されて消滅した(2000年)。
AT&Tの独占を防ぐために分割したのに、21年後に分割会社のひとつであるSBCが親だったAT&Tを買収した。この分割は一体何だったのだろうと思う。国民の税金で建設した莫大なインフラをあたかも自分が建設したかのように振舞う電話会社。アクセスとインフラを切り離すという法律の成立後も、DSLの機器の搬送を妨害して自由な競争を妨げてきた電話会社。確かに1984年以前のような1社による独占はなくなったが、電話事業は現在2大電話会社によって牛耳られている。Sprintは無線電話事業に特化しようとしているが、非常に業績が悪くてこの2社の敵にはなりにくい。
ところでインターネット アクセスだが、ISPが華やかなりし頃、ISP専門雑誌を見ていて、北米大陸を縦横無人に走るファイバー回線に心が躍ったことを思い出す。そのISPが電話会社に買収されて行く。自由闊達なISPが、規制に守られて保守的な電話会社によって買収されて行くのを見るのは心が痛んだ。しかし、絶対的な資本と莫大な量のインフラをベースにする電話会社には勝てない。
翻って日本はどうなのだろうか。NTTの分割と言っても米国同様インフラを独占しているわけだから、普通の企業は競争できまい。データセンターにしても圧倒的に優位に立っている。その辺は東條氏の「東京めたりっく通信物語」という本に良くまとめられており、米国と同じような戦いがあり結末があったことを実感した。
最後に、最近スマートグリッドを調査しているが、インターネットよりも大きいと言われる電力網は将来的にはインターネット・電話網と合体するのではないかという予想も聞かれる。電力会社は電話会社のように規制と独占の市場に長く置かれてきた。インターネットの自由な環境を縛るのだけは止めて欲しいと切に願っている。