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30年に渡って関わってきた米国のITの出来事、人物、技術について語る。

今年は何が流行るか

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年末年始には恒例の「次に何が流行るか」の報道があちこちから聞こえてくる。公平を期しては面白くないので、独断と偏見そして我田引水で述べてみよう。

人は自分を取り巻く状況を全体の状況と勘違いしがちだ。それを承知で敢えて好き勝手なことを書く。まず米国では、株価の上昇や家の売買が動き始めたことを捉えて景気回復かと騒ぐ人もいるが、とてもそうは思えない。Linkedin経由やメールで直接、解雇された知り合いから職探しの依頼などが結構寄せられる。雇用が安定しないと景気の回復は感じられない。

新年早々暗い話ばかりではまさに「景気が悪い」ので、元気なところを探してみよう。まずどこに金があるかというと、それは政府だ。景気刺激政策で大規模な資金が用意されている。筆者は現在、エネルギー省と環境保護庁からグラントが出る2つのプロジェクトへの応募書類に名前を貸している。どちらもエネルギー効率を上げて消費を抑えようというネタだ。Green ITに関して言えばまず定義がはっきりしないことも手伝って、どうもまだあまり金が民間で流れ始めているように見えない。この政府の金を民間が追いかける図がしばらくは続くだろう。

他にもあるだろうが、ここでは2つの分野に焦点を当ててみた。この2つはどちらもエネルギー消費削減や効率化に関連する。1つはもちろんCloud Computingで、もう1つはSmart Gridだ。Gartner社のハイプ曲線によれば、Cloud Computingは現在一番注目を浴びている。2009年には数多くのCloud Computingのコンファレンスや集まりに参加したが、どれも同じような感じだった。まとめると大体次のようになる。

  • Cloud Computingに多少とも勘のあるIT関係者の少ないコンファレンスでは、もの凄いことが起こっていると煽る
  • Cloudの定義を延々と述べる
  • セキュリティとベンダーによる囲い込みの問題を延々と述べる

パネルセッションでは、定義の議論が半分以上を占めている。ひどい時はそれで終わってしまう。Cloudの専門家と称する人間も急増しているので、誰が本物で誰がいい加減なことを言うのかの見極めが困難だ。こういう時は、既に自分が信用できると判断した人経由で行くしかあるまい。そういう経路で数人の本物の専門家に聞いたところ、Cloudを技術として捉えるのではなく運用のひとつの形態とみなし、Cloudがビジネスに及ぼす影響を考慮してビジネス プロセスを変更することでビジネスを改善することが肝要、というのがコンセンサスのようだ。現在これを語れる人は稀だ。専門家のひとりは、彼の差別化として、「Cloudのビジネスに及ぼす影響」というワークショップを企画中だ。

Smart Gridも関心を集めている。発電、送電、配電のインフラとその制御ということで、関連分野が広すぎて全体像を捉えることがなかなか難しい。この概要について1月15日に講演をすることになっている。残念ながら、スペースの関係で申し込みは既に締め切られているが、詳細についてはここを見て欲しい。(注:今からでは参加できないので悪しからず)

内容は次の通り。

  1. アメリカのIT業界の最新動向(Cloud ComputingとGreen ITを中心として)
  2. Smart Grid登場の背景
  3. Smart Gridの概要
  4. Smart Grid実現に必要とされる技術
  5. 米国での進捗状況
  6. 米国での問題点
  7. 日本の中小ITベンチャーの参入チャンス
  8. 今後の展開予想

日米のSmart Gridを比較すると、米国のSmart Gridが電力網すべてにわたるものであるのに対して、日本のSmart Gridは配電から家庭の、いわゆる下流に限定されている。つまり、電気自動車と家の屋根に設置される太陽光パネルだ。

米国の電力網は古くてかなりの部分が手動で管理されている。一般に発電所から変電所までは幾分ネットワーク化されているが、変電所から家庭に至る部分はネットワーク化されていない。ネットワーク化するには、家庭にSmart meterを設置することが必要で、そのため現在はSmart meter市場がバブル化している。変電所から家庭までがネットワークで繋がれれば、発電・送電・配電のすべてでネットワークを介して自動的に管理を行うことができる。自動で瞬時に電力消費量が分かれば数%の電力消費削減につながることが幾つかの試験的なプロジェクトで報告されている。

電力供給に問題が発生するのは、夏の暑い日や冬の寒い日に、通常の発電による供給を上回る需要が発生した時で、これに対処するためにスタンバイ発電所や発電機を運転する必要がある。こうした状況では天然ガスが使用されることが多いが、それを調達する費用が馬鹿にならない。また、このピーク時だけに使用される発電所や発電機を確保しておかなくてはならないというのは実に効率が悪い。ここで発想を変えて、需要が供給を超えた場合、供給を増加させるのではなく、需要を削減したらどうだろう。個々の家庭が電力会社と契約を交わし、電力不足の場合、電力会社が家庭の電気製品への通電を停止したり、エアコンの温度を上下することで需要を下降させる。これが「電力要求と応答」と呼ばれる分野で、Smart meter設置の後はこれが次の熱い分野だと予想されている。

ITはテレコム技術と共にSmart Gridには不可欠だ。電気を通すだけの「智」のかけらもない電力網に「智」を与えるのがICT(Information Communication Technology)だからだ。今後も、ICTに関連してSmart Gridを取り上げていきたい。

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