今読むとブログ的な随筆と、今のブログの将来の使われ方(勝手論)
ここのところ、本の話ばっかり。
まぁいいじゃ無いですか。たまにはこんな展開があっても・・・。
で、このGW中に本を片付ける、なんてことをここのところ書いていたりする訳ですが、今日はその内の一冊のお話です。
椎名誠著「日本細末端真実紀行」角川文庫
この本は”例の”図書館のリサイクル資料としてもらってきたもの。いつもらってきたのかも覚えていない。特に椎名誠さんのファン、という訳でも無いのだが、例えば、買った雑誌に連載記事として載っていれば、読まない方では無いので、それで「まぁ何が書いてあるのかな?」と思いついてもらってきたのだと思います。で、たぶん1、2年ってことは無く本棚にあったままになっていたように思います。
で、この度、整理の一環でやっと手を付けました。
で、読み終えたんですが・・・。何というか、色んなことを感じさせてくれました。
まず記述の全般について。椎名誠さんの著書をたくさん読んでいる訳では無いので、あくまでこの本に限って言えば、でとらえていただきたいのですが、極めて気が抜けている、というか、普通というか・・・。あれ?これって今で言えばブログに近い。いや、本当に近いと思う。この本自身は、「るるぶ」の連載記事自身が単行本化されたものらしいのですが、(本を読む限り)椎名さんが特に誰かにテーマを与えられることなく自身が過ごしてきた旅先での色んな出会いや想いを文章に綴っている、という・・・今なら個人が色々ブログに綴っているものに近い。
もちろんところどころ文筆家ならではの表現もあるんですが、この文章に限って言えば、逆にそういうプロっぽさを極端に排除している文章に思います。強いて個人・素人ではあり得ないのは、行き先の選択、興味を持ったことには必ずその現地の人に尋ねるという取材根性、そもそもこんな自由(に振る舞えるように見える)生活なんてできるものか、という半ば諦めにも似たうらやましさを感じるぐらいでしょうか。
もう一つブログと違うこと。一テーマで記述している文面が、もちろんブログとは差にならないぐらい長いこと。これはPCの画面で見る活字よりも小さい、というだけではなく、PCではなんとなくおっくうに感じてしまうページをめくって、という動作がやはり書籍だと自然にできるので文章そのものの長さを感じない。・・・ってこれが書かれている時代を考えれば、元々そっちが当たり前だったはずなのだが・・・。
次に、これは極めて個人的なこと。文中、よく椎名さん自身の年齢が書いてある。37歳とか38歳とか。今の自分と一緒やん。ああ、今の自分ぐらいの時にこういう文章書いてたんや。今、椎名さんっておいくつ?え?今年で64歳!ということはこの文章は今からもう26、7年前、という文章だった、ということか。
自分が小学校の高学年だった頃・・・。当然個人が自由に使えるようなワープロも無い時代。ネットなんていうのがもちろん無かった頃。そもそも個人が自由に、また比較的気軽に情報発信などできなかった時代。情報は能動的に検索で探す、ではなく、何か決め撃ちで選択したものから受動的に知る時代、と自分は考えます。今、個人のブログがどんどん出てくる中、当時だって椎名さんの文章を読んで、「俺だってこんなこと書けるぞ~」とか思っていた人も居たかもしれない。それでも、結果として”思うだけ”で終わった人より、”世に出した”方が勝ちであり、また世に出すためには、気楽にPCで打てばいい、ということではなく、面倒でも長い文章をひたすら手書きで書ける人じゃなくてはいけなかった、ということかと自分は思いました(→出版関係者の人が見たら、とんでも無い事実誤認があるかもしれませんが、あくまで読み手の印象としてご了解願います)。
次に感じたこと。色んな場所が実名、およびほぼ実名で紹介されています。前述のように26、7年前だと、読み手は文章から思いを馳せ、場合によっては、自分がそこに行くことによって追体験をする、それが叶わぬ、もしくはそこまでの思い入れが無い場合、文章表現から自分なりの想像力をかき立てるしか無かったはずです。でも、今はGoogle等の検索ができる。いくらでも該当を検索することができ、結果として、「ああ、こういうところのことを言っていたんだ」ということを疑似体験することができるようになってしまった。それは”より理解を深められる”ということで良いことなのか、”想像力をより欠如させる”ということで悪いことなのか、自分は解を持っていませんが、こういうネットという道具がある今では、(椎名さんが、という訳ではなく)もし同じ旅行記を記す、としてもきっと形態が変わってくるのかもな、と思ったりしました。
そして・・・これは書籍からの引用をまずさせていただきたいです。
まいたけ(北の国ではまつたけよりうまいとされる茸(きのこ))を二袋買った。
~「飛騨高山随筆紀行ブンガク旅」項より
ここでぼくはまた旅における時間と料金の関係という問題をすこし考えてしまうのだった。
(中略)
そこでぼくはまたすこし考えてしまった。さきほどのエレベーターで六〇〇円というのはエレベーターに乗る料金というわけではなく「展望料」ということなのだろう。それはわかるのだ。しかしそうなると今日のように雨が降っていて外の視界がほとんどきかないような日も、あるいは快晴で東京の街はもちろん遠く東京湾からうしろは秩父、筑波の山なみまでクッキリとのぞめるような日も同じく六〇〇円という料金では少々問題があるのではないだろうか。クッキリの快晴が六〇〇円とするとぼんやり薄日薄ガスミ視界七〇%というようなときは四二〇円、曇天強風視界八〇〇メートル波たかし、というようなときは二三〇円、というような区分が必要なのではなかろうか。ましてや今日のように雨天視界ほとんどボンヤリごく一部、というようなときは五〇円ぐらいでいいんじゃないだろうか・・・・・・。
~「雨降りだから高層ビルに登った」項より
そして「つぎの人は泳いではいけません」という項目を見ているうちにまたなんとなく妙な気分になってしまった。
「つぎの人は泳いではいけません・・・・・・心臓病、腎臓病、血圧の高い人、肋膜炎、中耳炎、痔疾、肺尖カタル、寒気のする人、膀胱カタル、リウマチ、てんかん、淋疾、胃腸カタル、糖尿病、筋肉のけいれんする人、脳貧血、脳充血を起こしやすい人」
(中略)
ここまでいろんな病名を具体的に挙げられていると、あまのじゃくに「それじゃここに出ていない、アレルギー性瞼結膜炎とか急性化のう性歯ずい炎のヒトは泳いでいいわけか、エッ!」などと言ってみたくなってしまうではないか。
こういうのがすなわち役人表記というやつなのだろう。こんなことをグダグダと大上段にふりかざして言われるまでもなく、肺尖カタルの人は気分が悪くておそらく泳ぐまいよ、と思うのである。筋肉のけいれんする人もつらくって泳ぐまいよ、と思うのである。
~「幕張へ人工海岸をみにゆく」項より
東亜国内航空羽田発七時三十分、女満別行きを予約し、こんなに早いのではたまらないからと前の日は空港前の東急ホテルに泊った。このホテルには初めて泊ったのだけれど、夜更けに空港の見えるレストランでコーヒーをのんだらなかなかいいムードであった。ちょっと外国っぽいのである。
~「網走は今日もさむかった」項より
もう察しの良い方は自分が書くまでもなくおわかりかもしれませんが、もう少しお付き合い下さい。
要は改めて26、7年前を振り返れば、
・「まいたけ」は今ではそこいらのスーパーで簡単に手に入るものではなく、恐らく味を知っている人も少ないようなものであり、
・(高層ビルの項は池袋のサンシャイン60のことを指しているのですが)当時から展望台へ上がる料金が600円であり、逆に言えば、今の620円は消費税分を転嫁してもどちらかと言えば値下げになっている、ということがわかり、
・当時としては”役人表記”はもっともだが、現在では「書いてないこと」=「やったらいけない、とは書いてないでしょう?」との開き直りがされるケースが多々ある、むしろ書かなくてはいけなくなるケースが大半になってしまう、人の常識に頼れない世の中になってしまっており、
・東京人では無い自分からすれば、数年前に取り壊された羽田の東急ホテルが「なんであんな中途半端な場所に立っているんだろう。誰も利用しないんじゃ無いの?」と思っていた所に元々羽田空港のビルは存在していたらしい
ということである。
もちろん、東亜国内航空に食いつく人もいるかもしれませんが。だって、日本エアシステムに変化後、日本航空と統合するなんて”まさか”という感じもありましたから・・・。
自分の勝手論で言えば、当時のことがよくよく記されている随筆、というのは、そのディティールが細かければ細かい程、その時の歴史の証人となり得る、ということです。逆に現在のブログで言えば、一人が細かく書かなかった、としても、あるテーマ、ある内容について、それぞれがそれぞれ詳しく、かつ同一のものを示している、というリレーションさえ誰かなりITサービスなりが取っていれば、これもまた後世の人から見れば歴史の証人となり得る、ということです。そういう意味では(自分はまさにその類なのですが)自分自身の定性情報をひたすら記録で残すよりも、他に対する定性や定量情報をもっともっと記述していった方が本当は世のため人のためになるのかもしれないなぁ、と思いました。
それでもきっと個人の定性情報は書き続ける、と思いますが。
追伸:ちなみに高層ビルのくだりで、今回の勝手論に直接関係の無い、「展望料」を考えれば眺望の可能度合いによって価格を変えたらどうだ?という椎名氏の意見部分は余計なのですが、とても納得してしまったので、是非ご紹介したく同じく引用させてもらった次第です。
【参考情報】サンシャイン60展望台 営業時間・料金
http://www.sunshinecity.co.jp/sunshine/observatory/info.html