自動車販売会社の業務とそれを支える業務基幹システム(2)~自動車ディーラーの業務領域とスタッフの役割
前回は自動車ディーラーの定義を振り返るあまり、いきなり車両販売の態様から入ってしまったが、自動車ディーラーの業務領域は決して自動車販売だけではないことはご存じの方も多いだろう。今回は自動車ディーラーの業務領域とスタッフの役割について触れてみる。
お客様が自動車を公道で乗ることができるようにするためには様々な手続きが必要である。通常の自動車なら登録(以下登録車)、軽自動車なら届出(以下届出車)という行為をもって行政への申請手続きが必要である。その際には各種必要な税金を納める必要があるし、俗に強制保険と称される自賠責保険の加入も必要となってくる。また登録車であれば登録前に当該車両を保管する車庫が確保されていることを証明しなくてはいけない。
また、自動車は所詮機械工業製品である。当然使用の仕方や経年変化に伴う消耗品の交換や補充、破損に伴う修理が必要である。また道路交通法に基づいた所定の期間ごとの検査を受ける必要がある。場合によっては自動車メーカー自身が認めた瑕疵による無償修理を行う必要もある。
この2点だけでも、自動車ディーラーに、登録に関わる一切の業務を取りまとめる担当スタッフと、整備作業を行う担当スタッフが必要であることをお分かりいただけるか、と思う。
一般的に前者を“(登録)業務スタッフ”(そのままだが)、後者を“サービススタッフ”と呼ぶ。
なお、後者のサービススタッフの中には、その店舗のサービス業務行為に責任を持つ“工場長”と呼ばれる人、お客様の応対をし、必要な整備項目等を聞き取り、見積りを行う“フロント”と呼ばれる人や、実際の整備に携わる“メカニック”と呼ばれる人等がおり、またその店舗のサービス機能の態様によっては所定の資格を持つ人が数名必要である、等の条件があるのだが、所定の資格云々の件についてはまた別の機会に触れたい。ここでは、サービススタッフ機能の中にも役割機能がある、ということをご理解いただきたい。
前者の(登録)業務スタッフの中には、こちらもその自動車ディーラーの規模や形態によっては、自動車損害保険を取り扱うための代理店業務のバックエンド一切を行うケースもあれば、あくまで登録(届出)手続きに特化する形で書類の用意や整理、登録手続に出向くことのみを行うケースもある。
また前回の通りだが、車両販売行為がある。業界の人間としては非常に残念なことだが、今、自動車は誰でも欲しがってくれる、黙っていれば勝手にお客様がやってきてくれる、という呑気な商売ができる市場環境には無い。一方で、維持費やその価格帯から、通常の値段より多少安ければ、誰でも定期的に、または衝動買いでぱっと買ってもらえるような品物でも無い。また、ここは電化製品と同様、余程あるメーカーの信奉者でも無い限り、同業他社の製品を比較して購入されるものであり、さらに同一メーカーの製品であっても、そのお客様が購入可能なエリアにある自動車ディーラーが必ずしも同じ会社とは限らない。そんな中で、いかに他のメーカーではなく、自ブランドの製品に目を向けてもらい、また、同ブランド他ディーラーではなく、自ディーラー、ひいては自拠点、および自分に目を向けてもらい、販売することができるか。そのために“営業スタッフ”が存在する。
自動車メーカー、および自動車ディーラーの規模によってかなり変化する部分では“本部機能の大小”がある。
一部の自動車メーカー系列ディーラーでは、その企業構造が店舗独立会計制になっている。すなわち全社の数値は各店舗で締めたものの積み上げ、という訳である。この時、店舗で日常取り扱う、いわゆる小口現金の他、在庫や資産といった管理も店舗単位になっているため、店舗自身に経理スタッフが存在している。このメリットは当たり前だが小さい本部機能で全社の状況が掴める、という点である。よく、いかにお客様と応対し売上・利益をあげる側の直接要員を増やして、バックエンド側の処理のみをしている間接要員を減らすことができるか、いわゆる直間比率を高めよう、ということを言っていたりする自動車ディーラーが多くあるが、店舗側に人員配置を厚くすることにより、全てのスタッフがそれぞれの役割以外の時間を電話応対であったり、来店されたお客様の応対であったり、場合によっては直接的な販売業務を行うことができる、とするならば、自然と間接要員の直接要員化が実現する訳である。
また複数の店舗展開を行っている自動車ディーラーにおいては、その店舗の経営健全性を見るために、社内的な指数を用いた独立採算制を取ったりするケースがあるが、そもそも経理が店舗単位になっていれば指数も何も関係無く測ることができる訳である。
一方言わずもがなだが、この形態を取っている場合、店舗それぞれに同一の機能を持つ必要があるので、それなりの人材確保が必要である。昨今の売り手市場の最中、仮に現在のスタッフが辞めることになった時に次の人材の確保が難しい、と聞く。また、当該自動車ディーラーの規模がそれなりに大きくなった時、逆に全店の結果集約等が、各店舗の業務遂行度に依存してしまったり、そもそも本部機能での業務集約化が実現しにくい、というデメリットがある。
本部機能を大きく持つ自動車ディーラーの場合は、前述の(登録)業務や経理機能が、本部に部門として集約されている。
ここでまた自動車ディーラー毎の戦術に対する考えの面で“販促支援部隊を大きく取るか、小さく取るか”がある。
前述のように、直間比率を高める、と言った場合、本部機能における“販促支援部隊”は直接お客様と応対を行う訳では無いので、大抵の自動車ディーラーは間接要員としている。また、どのようなターゲッティングを行い、販売活動をするか、といった面においては、当然、日々お客様と接している店舗の営業スタッフが居るでは無いか、ということで、極端な例ではあるが、あくまで“販促支援部隊”は例えば店舗へのチラシの分配やカタログの発注や成約記念品の準備等の事務作業を行うためだけ、と割り切っている自動車ディーラーも事実存在している。
一方、店舗の営業スタッフが行うターゲッティングだけでは、拾いきれないお客様達がたくさん居るはず、もっと自動車ディーラー全体を活性化する必要がある、ということで、一店舗の営業スタッフ数と同等なぐらいの“販促支援部隊”を用意し、数々のキャンペーンや仕掛けを自動車メーカー自身のCMやキャンペーンに頼らず独自で生み出すことにより、自ディーラーの特徴付けや営業スタッフの側面支援をすることに十分な成果を生み出しているケースもある。
この点はどちらが正解、という訳ではなく、それぞれの業務機能が有する役割をきちんと正しく認識して機能すればそれ相応の成果は得られるのだと思う。