DX見聞録 -その9 「デジタルジャーニーを実践する」ためには?
デジタルトランスフォーメーション(DX)の実態について既知の話からあまり知られていないコトまで。このコーナーで連載をしています。
これまでこのブログでは、既に世の中で実施されているデジタル変革に関連した取り組みやリサーチ結果(攻めのIT銘柄、IT人材白書、DXレポート)について紹介してきましたが、具体的にDXをどのように進めていけばよいのか?を5つのポイントとして紹介していきたいと思います。本内容は、今春開催された富士通フォーラムにて大変好評だった内容をシリーズ化してご紹介するものです。
DXのステージを乗り越えてデジタル変革を企業や組織、そして個人で実践していくにはどのようなスタンスで取り組めば良いでしょうか?今回は5番目のポイントとして「デジタルジャーニーを実践する」ことについて考えてみたいと思います。
(図1.デジタルビジネス実践の5つのポイント)
デジタル化は探索しながらゴールを目指す旅
なぜ、デジタルジャーニーなのでしょうか。ゴールの見えた決められた旅程をこなすトリップやトラベルではなく、定かでないゴールを探索しながら、時には今来た道を戻りやり直す試行錯誤を繰り返しながら旅を進めるイメージがジャーニーです。試行錯誤を繰り返すDXの推進は、正にジャーニーそこものではないでしょうか?
(図2.デジタル化は探索しながらゴールを目指す旅)
デザイン思考を会社経営の前提にする
ジャーニーを進める上で拠り所となる考え方がデザイン思考です。デザイン思考については、既に様々な所で解説や実践が進められており、改めて解説は不要だと思いますが、一点だけコメントしておきたいと思います。一過性のブームでデザイン思考を売り物として捉えているケースが多々見受けられますが、本質はフィロソフィーや行動規範のレベルで捉えなければ何も変わらないと言うことです。
(図4.デザイン思考を前提にする)
トリップやトラベルではなく"デジタルジャーニー"を進むには
お客様の望むものをデザインし、テストし、届け続けるにはどうしたらよいでしょうか?イノベーションに取り組んだ経験のある方は、トップからの価値創造のプレッシャーに押しつぶされそうになったり、中身のない会議やバラバラのチームメンバーにうんざりするケース多いでしょう。また期待された目玉プロジェクトでトップを忖度して現場の事実を無視して失敗してしまったという経験をした方も多いかもしれません。
(図4."デジタルジャーニー"を進むには)
ビジネスの検証にビジネスモデルキャンバスを活用する
行動の規範としてデザイン思考が根づけば、DXが進められるのでしょうか?最近筆者が見直している概念がビジネスモデルキャンバスです。日本には2012年ごろ上陸したこのフレームワークは、翔泳社さんから発売された書籍が絵本のような体裁で注目を集めました。あるビジネスをスナップショットの如く捉えビジネスモデル全体を俯瞰できるユニークな手法です。
日本に上陸した当初、生い立ちや背景の異なる様々なビジネスモデルを共通のフレームワークで比較できることに斬新さを感じた記憶があります。今春久し振りに進化したビジネスモデルキャンバスの世界を再認識することになりました。
(図5.ビジネスの検証にビジネスモデルキャンバスを活用する)
バリュー・プロポジション・デザインを活用する
続編である「Value Proposition Design」をあの「ストーリーとしての競争戦略」の著者である一橋大学大学院教授の楠木健先生が、"「アイデアの原石」を洗練された価値提案に磨きあげる"と評していました。
(図5.バリュー・プロポジション・デザインを活用する)
そのサービスは、顧客にとって価値あるサービスか?
この書籍では、ビジネスモデルキャンバスの中心的テーマである価値提案(Value Proposition)と顧客セグメント(Customer Segments)にフォーカスを当てています。
(図7.そのサービスは、顧客にとって価値あるサービスか?)
「実行」より「探索(デザインとテスト)」が重要
ビジネスモデルキャンバスおよびバリュー・プロポジション・デザインは、スイスのローザンヌ大学のイヴ教授とその教え子のアレックスさんの論文からスタートしたといわれています。アレックスさんがかつてTwitterで下記のようなつぶやきをしていましたが、まさにその通りだと感じています。それなりの予算をかけて"もうプロトタイプを作ってしまったからもう後には引けない"、といった言い訳を盾にデスマーチを突き進むケースが多々あります。
今春六本木のアカデミーヒルズで7年ぶりに開催されたイブ教授とアレックスさんのセッションでは、デザイン思考とリーン・スタートアップの概念がふんだんに盛り込まれ、お金をかけずに迷ったときはまず市場に問いかけることを奨励していました。
ある学生ベンチャーがドローン技術を軸に農業生産性を高めるソリューションの開発をしていたらしいのですが、現場でヒアリングを重ねるとドローンは必要ないことが解ったと。実は農地を定期運航する飛行機にカメラをつければ必要なデータが得られることに気が付いたそうです。
(図8.「実行」より「探索(デザインとテスト」が重要)
日本はものづくり企業の文化のためか、取り敢えず作ってしまうというケースも多いかと思います。そんな時には、"そのサービスや商品、本当にお客様にとって必要ですか?"と自問するだけでなく、市場やお客様に問いかけてみる必要があります。
そう、お金をかけずに。
(つづく)