DX見聞録 -その7 「イノベーションを生み出す仕掛け・仕組みをつくる」
デジタルトランスフォーメーション(DX)の実態について既知の話からあまり知られていないコトまで。このコーナーで連載をしています。
これまでこのブログでは、既に世の中で実施されているデジタル変革に関連した取り組みやリサーチ結果(攻めのIT銘柄、IT人材白書、DXレポート)について紹介してきましたが、具体的にDXをどのように進めていけばよいのか?を5つのポイントとして紹介していきたいと思います。本内容は、今春開催された富士通フォーラムにて大変好評だった内容をシリーズ化してご紹介するものです。
DXのステージを乗り越えてデジタル変革を企業や組織、そして個人で実践していくにはどのようなスタンスで取り組めば良いでしょうか?今回は3番目のポイントとしてイノベーションを生み出す仕掛け・仕組みについて考えてみたいと思います。
(図1.デジタルビジネス実践の5つのポイント)
イノベーションを生み出すための土壌づくりー
最近、コンサルティング活動の中で、よく聞かれる声は、"わが社はレガシー企業なのですがイノベーションをどのように起こせばよいでしょうか?"といった相談や"経営トップがAIでわが社も何かできるのではないか? といった妄想を持っているのですが..."といった悩みを打ち明けられるケースです。
DX、即ちデジタル変革を既存企業で起こすにはこれまでの企業文化や仕事の仕方ではかなり難しく、下記に示すような行動様式や考え方が必要になってきています。
(図2.イノベーションを生み出すための土壌づくりー)
イノベーションを生み出す仕掛け・仕組み
何のスポーツでも同じですが、"デジタル"という全く新しい競技を始めるにはそれなりの仕掛けや仕組みが必要になります。下記は、筆者が4,5年前から取り組んできたイノベーションを起こすための取り組みです。
ここでプログラムというのは、人材の育成や新しいアイデアやサービスを創発させるための取り組みです。アイデアソンやハッカソンは、今でこそよく知られた取り組みですが、当時は "どこかのサイトをハッキングするの?"といった今では考えられないような誤解もありました。
"場(ba)"には、2つあると考えています。1つは、アイデアソンやハッカソンなどを開催するようなリアルの場です。もう一つはネット上に作られる場で、別の言い方をするとコミュニティーとも言えます。リアルの場は、最近ブームで様々なベンダーやお客様企業でもこのようなスペースを機会が増えています。
このようなプログラムや場を運営する上で重要となるのは会社そのもの変革です。組織や制度、権限の変革も必要になりますが、非常に重要なベースとなる考え方としてデザイン思考を受け入れられるかがポイントだと感じています。これは欧米の先進企業やスタートアップの成功例を見ても、明らかだと考えています。
単なるブームでデザイン思考を齧ったレベルではなく、本気でフィロソフィーとして取り組めるかが鍵だと考えています。これは、変革の根幹をなすと言っても過言ではありません。
(図3.イノベーションを生み出す仕掛け・仕組み)
世の中の動向を理解するためのメディア
震災の翌年から開始したユニークな取り組みがこれらのオウンドメディアです。自社の製品やサービスの紹介は企業ホームページが担当し、こちらのサイトは社会や企業、そして生活者との対話の場として開設されています。いずれのメディアも社内のエンジニアが自らテーマを選定し、リサーチをしてフィールドワークに参加することで記事化しています。
このような活動を通して受託型だけではなく、自ら問題意識や課題認識を持ち、調べ、社会や企業に働きかける姿勢が培われると考えています。同様の活動を他の企業で模倣される場合も出てきましたが、重要なのはこれらのメディアはコマーシャルメディアではないということです。
(図4.世の中の動向を理解するためのメディア)
イノベーションを実現する共創の"場(ba)"
ハッカソンやアイデアソンに積極的に参加し始めた頃は、自社には適切な"場"がありませんでした。最初は、アウエーの状態で他社のイノベーションスペースに"ハッカソン戦士"を送り込み、他流試合をしていました。
やがてオープンイノベーションや共創がブームになる流れで下記のような場所を社内の様々な部門から、それこそマグマのような胎動が始まり、求める動きが出始めました。
その中心とも言える蒲田のPLYは2016年度のGOOD DESIGN AWARDを受賞しています。決して装飾や照明が華美な場所ではありません。なぜ、受賞できたのかは是非自ら体感してほしいと思います。
(図5.イノベーションを実現する共創の"場(ba)")
DXに向けた組織体制のパターン
共創の"場(ba)"創りに加えて重要となるのがDXを牽引・推進する組織作りです。問題は、DXを牽引するこのような組織をどこに創るかです。下記は、考え方を整理したものですが、どれが正解というものではなく、その企業の文化、そしてトップの方針に強く左右されます。
最初のひと転がりの壁を越える特区戦略
このようなDX推進組織を考える上で最近注目されているのがイノベーション特区という考え方です。いわゆる"出島"戦略です。DXをビジネスの種にするベンダーだけではなく、お客様企業の中でも経営トップの直下にこのような組織を作るケースが増えています。運営する上でのポイントは、情報システムと事業部門との関係を緩やかに保ちながらもトップと同期をとり、社内変革を大胆に進めることだと考えています。
(図7.最初のひと転がりの壁を越える特区戦略)
制度や権限:投資に関する考え方
実際に既存の企業の中でこのような組織の立ち上げに携わり、難しさを感じるのが、制度や権限に関する慣習やルールです。例えば、試行錯誤を前提としたDXでは、"途中でやめる場合もある"し、"すぐに効果が出るとは限らない"のです。そのような中で古いしきたりやルールのままでイノベーションを起こせというのは、とても酷なものでナンセンスです。
(図8.制度や権限:投資に関する考え方)
トップは、どこまで本気でやれるか?
様々な企業でDXに関する取り組みがムーヴメントになって来ていますが、一番気になるのはトップのコミットメントです。本気で取り組むなら表面的な流行を追いかけるのではなく、一度や二度の失敗でリングアウトさせるのではなく、トコトン任せて挑戦させてほしいところです。
いま日本企業の経営者に求められるのは実はガマンかもしれません。近視眼的な取り組みではなく、若い世代や社員を信じて中期的な視点でDXに取り組まなければその企業のミライは無いと思います。
(つづく)