DX見聞録 -その6 「どのようなイノベーションを起こすのか考える」
デジタルトランスフォーメーション(DX)の実態について既知の話からあまり知られていないコトまで。このコーナーで連載をしています。
これまでこのブログでは、既に世の中で実施されているデジタル変革に関連した取り組みやリサーチ結果(攻めのIT銘柄、IT人材白書、DXレポート)について紹介してきましたが、具体的にDXをどのように進めていけばよいのか?を5つのポイントとして紹介していきたいと思います。本内容は、今春開催された富士通フォーラムにて大変好評だった内容をシリーズ化してご紹介するものです。
DXのステージを乗り越えてデジタル変革を企業や組織、そして個人で実践していくにはどのようなスタンスで取り組めば良いでしょうか?今回は二番目のポイントとしてどのようなイノベーションを起こすのかを考えてみたいと思います。
(図1.デジタルビジネス実践の5つのポイント)
時代が求めるイノベーションとは?
どのようなイノベーションを起こすかは、実はデジタルに関係のない話なのですが、スタンフォードのダッシャー先生が日本に来た時に下記のようなチャートでイノベーションについて語られていました。
左右の軸は、マーケット、すなわち市場として顕在化しているか否か。上下の軸は、実現する技術が新しいか、枯れた技術かを表しています。
この軸で見ると、左下の象限が一番わかりやすいと思います。テレビ市場は、すでに多くのプレイヤーが市場参入しており、使われる技術も汎用化されたものです。言ってみれば枯れた技術の組み合わせです。
一方、右下の象限は、枯れた技術で新しいマーケットを立ち上げた例として、スティーブ・ジョブズさんの創り出した世界を表現しています。携帯電話やMP3プレイヤーの技術ですね。
左上の象限のジェット機はご存じでしょうか?そう、ホンダジェットですね。4輪2輪のホンダさんが10年かけて飛ばしたジェット機としてテレビで報道されていました。
さて、デジタルの世界で重要な象限はどこでしょうか?
最後に残った右上の象限は、まさにこれからのデジタルの時代にチャレンジしなければならない領域です。このSquareというサービスを利用したことある方はいらっしゃいますでしょうか?大きなPOSレジがなくてもスマートフォンやタブレットで簡単に決済が出来てしまう仕組みです。最近では都内の飲食店でも利用できるところが増えてきましたが、実はサービスの生い立ちが非常にユニークなのです。何とガラス細工職人とソーシャルメディアのTwitterの創業者のコラボレーションで生まれたサービスだからです。
(図2.時代が求めるイノベーションとは?)
デジタルビジネス時代の新たな接点
これまで企業におけるITは情報システム部門が担当して事務作業の効率化やコスト削減を中心に進めてきました。しかし、昨今のデジタルテクノロジーの進展により、ITは情報システム部門だけではなくなってきました。具体的には企業の本業を担う事業部門での活用が顕著になって来たということです。建設機械を提供する製造業であるコマツさんが典型的な例だと思います。
もはや企業におけるITの活用は、情報システム部門だけでなく本業を担う事業部門に拡大しています。そしてこれからは生活者の潜在的な課題を解決するようなサービスを提供していく必要があります。先ほどの図2で最後に紹介したSquareというサービスは、まさにそのようなサービスです。
(図3.デジタルビジネス時代の新たな接点)
「共創」は利益を越えた目標(共通善)を志向
最近では、共創ということばは、イノベーションを語る上で欠かせない言葉となっています。
しかし、これまでの協業という言葉と何が異なるのでしょうか?
下記の図は、我々が議論した時の一つの解釈なのですが、「協業」はお互いの利益を追求した価値のGive&Takeのモデルであり、「共創」は各々の領域に置いて新たな価値を生むCreate&Shareのモデルだと言うことです。「共創」は、別の言い方をすると、社会全体の善としての「共通善(Common good)」を追求すべきではないかと言うことです。
(図4.「共創」は利益を越えた目標(共通善)を志向)
DXの対象領域を"両利き"で考える
ITRの内山さんは、DXによるイノベーション領域を両利きで考えています。
一つは、従来の事業・顧客層これまで成功してきた事業をより良くするという「漸進的イノベーション」で深化の領域です。製品・サービスの改良や新たな顧客体験の提供など、新しい顧客価値を創出する取り組みや品質やコストの変革や顧客サポートの変革など、社内業務のあり方を変革する取り組みが相当します。
もう一つは、新規の事業・顧客層に新しい事業や新規市場を開拓するという「非連続イノベーション」で探索する領域です。新市場の創出や新事業の創造など、新規ビジネスを創出する取り組みや顧客ターゲットの変革や収益源の変革が相当します。
この二つのイノベーション領域をバランスよく実現できている企業はまだまだ少ないと思われますが、これからDXを推進して生き残っていく企業には必要な取り組みだと思われます。
(図5.DXの対象領域を"両利き"で考える)
(つづく)