DX見聞録 -その5 「今、何が起きているのかを知り、自ら試す」ことの意味
デジタルトランスフォーメーション(DX)の実態について既知の話からあまり知られていないコトまで。このコーナーで連載をしています。
これまでこのブログでは、既に世の中で実施されているデジタル変革に関連した取り組みやリサーチ結果(攻めのIT銘柄、IT人材白書、DXレポート)について紹介してきましたが、具体的にDXをどのように進めていけばよいのか?を5つのポイントとして紹介していきたいと思います。本内容は、今春開催された富士通フォーラムにて大変好評だった内容をシリーズ化してご紹介するものです。
なぜ、TravelやTripでないのか
デジタルビジネスを喩えるときに、"Digital Journey"という表現を良く使います。Trip やTravelのようにゴールの定められた受託型のビジネスとは異なり、まだ見ぬゴールをパートナーとともに歩むイメージです。対等な関係のパートナーと"ともに学び、ともに創る"関係が重要だと考えています。
(図1.デジタル化は探索しながらゴールを目指す旅)
しかし、明確なゴールも定めづらいデジタルビジネスをいったいどのように進めたらよいでしょうか?ITRの内山さんは、デジタル変革のステージを4つに分けて説明しています。筆者はこの中で第一ステージの啓発・意識づけ(Why)と第四ステージの試行錯誤(How)が特に重要だと考えています。それはいずれもこれまでになかったデジタルビジネスを正しく理解し(啓発・意識づけ)、そしてその特徴である試行錯誤を正しくまわすことが重要だと考えるからです。
(図2.デジタル変革をお客様といかに進めるか?)
これらのステージを乗り越えてデジタル変革を企業や組織、そして個人で実践していくにはどのようなスタンスで取り組めば良いでしょうか?筆者は、これまで自社内での5年に渡る取り組みから以下のような5つのポイントを提唱しています。
(図3.デジタルビジネス実践の5つのポイント)
今回このブログでは、第一番目のポイントである「今、何が起きているのかを知り、自ら試す」について詳しく言及したいと思います。
デジタルネイティブ企業から学ぶ
Disruption(破壊的)という言葉も最近では、かなり頻繁に使われるようになりました。"技術は常に、利用者の利便性を高めるために、古来の業界構造を破壊し、既存の仕事を奪いながら進展してきているといっても過言ではない。"とは、まさにその通りであり、デジタル技術を活用した下記に掲げた企業の躍進振りから最近の話のように捉えられますが、決してそうではなく、人類の歴史上繰り返されてきた宿命だといえます。このスライドを紹介するときに必ず聴衆に問いかけるのは、Amazonは未だしもその他のサービスをどれかひとつでも利用したことがあるかということです。まさに今、何が起きているのかを知るだけでなく、"自ら試す"ということです。
(図4.破壊的イノベーションの波)
これらの企業はいずれもデジタルネイティブ企業と呼ばれますが、その歴史は意外と古く、Amazonにいたっては1994年の創業となっています。1社だけ日本企業がプロットされていますが、気づかれたでしょうか?そう、"メルカリ"です。
(図5.デジタルネイティブ企業から学ぶ)
これらのデジタルネイティブ企業の行動様式はどのようなものでしょうか?下記にその1例を掲げています。顧客中心は、"そんなのは当たり前だ!"という方々が日本の大企業にはたくさんいそうです。Amazonの取り組みは、言ってみれば究極の顧客中心主義。普通、新しいサービスや製品の開発は、事業部門で技術的な検討をした上で企画され設計・製造、そしてニュースリリースを作成してプロモーションというステップかと思います。彼らのサービスの開発は非常にユニークで、まず市場や顧客に向けたニュースリリースを書くことからスタートします。
みなさんが所属する企業や組織と比較してみてほしいと思います。
(図6.デジタルネイティブ企業の行動様式)
さらにこれらのデジタルネイティブ企業では、さまざまな取り組みが実践されています。ここに掲げた取り組みは既存の大企業からすると非常にユニークなものばかりです。GoogleやAmazonだからできた、できるのではと考えがちですが、実は日本企業でもほぼこのような実践をしているのが、さきほどご紹介した"メルカリ"なのです。
(図7.デジタルネイティブ企業での実践例)
UBERは何でできている?
さて、みなさんはこれまでどんなデジタル体験をしてきたでしょうか?写真は、筆者が先日訪問したシリコンバレーでのひとコマ。サンフランシスコ市内から空港までのUBER体験です。利用したことある方は、お判りだと思いますが、明朗会計に加え、いま自分がどこを走っているかも手元のスマートフォンからわかります。運転手によってはとってもフレンドリーで日本の個人タクシーのような個別のサービス(飲み物や飴をもらったこともあった)を提供してくれる車もあります。
(図8.UBERのUX体験は楽しい)
当然のことながらUberはクラウドでできています。職業柄、やはりインフラ部分に目が行く人も多いと思うが、これからの世界ではインフラは汎用化して限りなく無料になる世界です。それよりもその上でどんなサービスを実現できるかが重用だということに早く気づくべきです。
(図9.Uberはクラウドで出来ている)
増殖するAmazon.com
先ほどの年表のデジタルネイティブ企業でもっとも古い歴史を誇りながらも今なお進化し続ける企業がAmazonです。生活者に向けたマーケットプレイスは、ほとんどの人が利用したことがあると思うが、最近では企業向けのサービスに加え、消費者向けのデバイスの投入が盛んです。
(図10.増殖するAmazon.com)
特にその中でも音声アシスタントは、Googleの日本市場への投入にともない、Amazonもいよいよ2018年末から展開を始めています。その戦略も急激に拡大し、いまでは"一家に一台"ではなく、"一部屋に一台"の勢いで端末が開発・市場投入されています。
(図11.我が家のAlexa)
Harvard Business Review 2018年11月号 にユニークな論文が掲載されていました。これまで消費財メーカは消費者に対して宣やプロモーションで直接アプローチをしていましたが、消費者がAmazonECHOやGoogleHomeなどAIアシスタントにアドバイスをもらい、その意見をとりいれるようになると消費者や消費財メーカの関係に変革をもたらすことになると言うのです。
(図12.AIアシスタントとAIプラットフォーム)
最近のトレンドとしてさらに興味深いのは、バーチャルの世界で本屋を始めたAmazonがリアルの店舗をオープンし始めていることです。Amazon booksは、その魁ですが、AmazonGoは、まるでコンビニエンスストアです。このリアル空間での商品の認識やカウント方法、課金の仕組みなど、非常に興味深い取り組みばかりです。
(図13.Amazon Go / Amazon books)
日本企業の取り組み
日本の代表選手として先ほどメルカリを紹介しましたが、お正月のお年玉をはじめ何かと話題を呼んでいるのがZOZOTOWNです。無料で採寸スーツを販売?し、下着やジーンズなどオリジナル商品の展開を始めました。しかし前沢社長によるとこのスーツによる採寸は今後行わないというコメントを2018年の決算発表の場でコメントています。これまで集めたデータをもとに身長、体重、年代、性別をいれると適切なサイズを提案する新たなサービスに移行すると発言しています。
(図14.日本のZOZOTOWN、採寸スーツを開発)
さて、我々はどうすべきか?
シリコンバレーのデジタル企業の取り組みを聞く度に、日本企業はこのままでだいじょうぶなのだろうか?という思いを強くするのは筆者だけではないだろう。
しかし、デジタルトランスフォーメーションは下記のスライドにあるようにまだまだ前哨戦で始まったばかりというのが筆者だけではなく、業界の識者の意見だと思う。これまでのさまざまな業種や業務の経験を踏まえ、デザイン思考をベースとした豊かなアイデアと発想によって日本企業もデジタルネイティブ企業にも負けないサービスを世の中に生み出すことができるのではないだろうか。"百聞は一見にしかず"といわれるが、新たなサービスは是非自ら試して感じ取る努力が我々には必要だと思う。
(図15.現在はその入り口)
(つづく)