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サービス化時代の潮流、ビジネスモデルを探る。週末はクワッチ三昧!

シリコンバレー見聞録―その20 シェアリングの現在

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シリコンバレーと呼ばれるベイエリアはまさにデジタルビジネスやオープン・サービス・イノベーションのメッカです。既知の話から日本ではあまり知られていないコトまで。このコーナーで連載しています。

おかげさまでこのシリコンバレー見聞録もいよいよ20回目を迎えました。節目の今回は、シェアリング・エコノミーに関連した話題です。

既存企業をDisruptするユニコーン企業の代表的なビジネスモデルがシェアリング・エコノミーでUberやairbnbがその代表選手ですが、シリコンバレーでの現在の状況について簡単にレポートしてみたいと思います。

■生活の一部になりつつあるシェアアリングサービス

サンフランシスコなど、ベイエリアと呼ばれる地区に行くとUBERやLyftなど、タクシー業界を破壊(Disrupt)したサービスはもはや生活者にとって欠かせない足になりつつある。また、ラグジュアリーなホテルではなく、家主とのコミュニケーションや新たなUXを志向するairbnbもシリコンバレーだけでなく、全米、全世界に広がりつつある。普及期に入ったこれらのサービスのいまを探るべく様々なサービスを実際に使用し、識者に意見を聞いて見た。

Uberの最大のライバルであるLyftは、Uberのドライバーが兼ねているケースも多い。Uberばかりで手配していてもわからないのでLyftで車を呼んでみた。多くのドライバーが二つのサービスを契約しているようでフロントガラスに下記のように二つシールを貼っているケースも多い。はじめてLyftを利用するお客には20ドルのキャッシュバックがプロモーションされてきた。一回乗るたびに4ドルLyftが負担してくれる。またドライバーに聞くとUberよりもドライバー自身へのマージンも高いと言っていた。

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《UBERのライバル会社のLyftに乗ってみた》

■拡大するモビリティサービス

ここ数年、ベイエリアを訪問して感じるのはタクシーの代替手段だけでなく、様々な移動手段としてシェアリングサービスがスタートしている。大手自動車メーカのフォードが提供するFordGoBikeは、サンフランシス市街地のあらゆるところにステーションを設けていた(写真左側)。一方、電動スクーターのScootは、独自の電動スクータでヘルメットの格納やスマホの収容スペースなど工夫されたデザインが印象的であった。

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《FordGOBikeと電動バイクのScoot》

余談だが、広大な敷地を誇るGoogleやFaceBookは、そのキャンパスの移動手段として自転車は欠かせない。しかし、その自転車の前カゴに掲げられたメッセージが両社のスタンスを如実に現していた。"この自転車守ってね!"というGoogleに対して、Facebookの方は、"我々はあなたの脳を採用した。どうかヘルメットを着用してほしい"とウィットに富んでいた。

■目指すのはホスピタリティ企業

とかく、IT業界の目からみると昨今のデジタルディスラプターは、IT企業と呼びたくなってしまう。しかし、実際にはITは手段でしかなく、当事者はその意識がないケースもある。

数年ぶりに訪れたairbnbではまさにそれを実感した。彼らのライバルは、IBMやGoogleではない。目指すのはホスピタリティー企業だという。特に最近力を入れているのが、ホストによる様々なユーザー体験の提供だ。

詳しくは、書けないがこの二年間でこのオフィスも取り組みも格段に進化していると思う。特に最近の注力は、お客様に対してホストがさまざまなエクスペリエンスを提供しているということ。早速、宿としての評価も高く、オプショナルでディナーの体験もできる宿に泊まってみた。

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《進化したairbnb本社》

■airbnbの5つ星の宿

これまで素泊まりでairbnbに泊まったことはあるが、いずれもホストと対面でお会いすることはなかった。今回折角なのでairbnbの利用者の評価も高く、さらにオプションでディナーのサービスを提供してくれる宿をセレクトして泊まってみた。

建築関係のお仕事をするご主人と料理やアートに造詣の深い奥様が提供する宿に2泊させていだいた。

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《サンフランシス市内の素敵なお家と地元のラム肉を豊富な香辛料で煮込んだ一品》

初日の夜に追加料金を支払い、宿泊者以外の人間も呼んで宿でちょっとしたディナーを催した。交渉は、airbnbのシステム上のコミュニケーションの仕組みを使い、どのような食事がよいか?など事前に交渉する。

これまでイメージしていたairbnbとは異なるユーザー体験をすることができた。やはりその土地の人と土地のものを食べなら会話する醍醐味は、体験してみないとわからないと思う。

料理がおいしかったのは勿論だが、何よりもホストの二人との対話が楽しかった。もともと人が好きなのだろう。料理や趣味についてやどんなお仕事しているのかなどワイン片手に遅くまで対話が途切れなかった。このような体験は、普通のホテルや宿では絶対"体験"できないことだと思う。

■シェアリングの未来

現地で意見交換をしたあるコンサルタントが言っていたことが象徴的だった。数年前までは"シェアリングビジネス"のコンサルタントはいたが、最近ではそのような肩書きで活躍する人は少ないらしい。

これは、一部のユニコーン企業を除き、シェアリングだけではビジネスが成り立たないことを示しているようにも思える。シェアリングは、提供するサービスの一形態ではあるが、目指すところははもっと広い共通善を実現することにあるという。その意味で最近話題のSDG'sなども絡めた戦略が必要なのだと思う。

かつてシェアリング・エコノミーという言葉が登場した際にSHAREとあわせて話題となった「The Mesh」(リサ・ガンスキー著 徳間書店)という本がある。今回、幸運にも著者のリサ・ガンスキーさんと会話する機会を得た。彼女は、米国で最初の商用WebサイトGNN(のちにAOLが買収)や写真共有サイトOfotoなどを立ち上げ、シェアリング・エコノミーの母と呼ばれているらしいが、現在でも電動バイクのScootの社外取締役も努めている。

シェアリング・エコノミーとは呼ばずになぜ「メッシュ」と呼ぶのか?彼女は著書の中でこんなコメントをしている。

なぜこのビジネスを「メッシュ」と呼ぶのか?メッシュ=網というイメージがこのビジネスにはぴったりだからだ。網の結び目からさまざまな方向に糸が伸びて行くように、ネットワークがほかのネットワークと結びついてどんどん広がって行く、というのがメッシュビジネスのイメージである。

「メッシュ」は、情報を基本とするサービスの新しい局面全体を表現するのにふさわしい隠喩(メタファー)だと言う。なるほど単にモノやサービスのシェアという概念に止まらず"メッシュ"の方がより社会やビジネスを包括的に捉えている。そのメッシュ・ビジネスを特徴付けるものとして以下の4つを掲げている。

1.核となる提供物が、製品、サービス、あるいは原料を含めて、1つのコミュニティーや市場、価値連鎖の中で「シェアされる」こと。

2.進化したウェブとモバイルデータネットワークを利用して、利用状況を追いかけ、顧客データや製品情報を集計すること。

3.シェアできる有形のモノに重点が置かれていること。取り扱われるモノには、地域内の流通サービスを利用した製品で利用者を増やすことや、中古品の再利用や部品のリサイクルによって価値を高めることも含まれる。

4.商品内容、ニュース、お勧めなどは口コミで伝えられ、ソーシャルネットワーク・サービスによってより広範囲に伝達される。

現存するさまざまなサービスでは、これらの特徴の全てを網羅するものはまだ少ない。本当の意味でので情報を基本とする新しいサービスの普及はこれからだと思う。

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《シェアリングの母との対話》

彼女に日本版の著書を持参すると大変喜んでサインをしてくれた。その末尾は、こんなメッセージで締めくくられている。なんの為にメッシュビジネスをするのか?を示唆するメッセージだと思う。

"Here's to making our world a better place"

(つづく)

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