モノづくりのイノベーション ~スパコン世界一奪還報道に思う~
連休最後の日本経済新聞の一面に『スパコン世界一奪還への 20年稼動「京」の100倍速く 文科省』の記事が掲載されたのをご覧になられた方も多いのではないだろうか。
文部科学省は2014年春から、世界最高性能の次世代スーパーコンピューターの開発に着手し、2011年に世界一の計算速度を達成した理化学研究所のスパコン「京」を100倍ほど上回り、2020年ごろの稼働を目指すという。
スーパーコンピュータの計算処理速度ランキングは、国の科学技術力の指標となるほか、産業競争力を左右すると言われています。
理化学研究所のスパコン「京」は、富士通が開発に参加したこともあり、今回の報道については少し思うところがあります。
スーパーコンピュータ 「京」(弊社ショールームにて撮影)
2014年春から開発を着手する次世代スパコンはまず防災に活用するという。性能が京の100倍になれば、地震や津波、局地的な集中豪雨などを精度よく再現でき、都市で起きる被害を予測して住民に最適な避難経路を提示できるようなになるとのこと。
実は、2011年に世界一を獲った京は震災で被災した企業の力があってこそ獲得できたことをご存知だろうか。
プロジェクトのリーダーにスポットライトを当てた「挑む力」(日経BP社刊)では、「京」の開発にあたって被災した企業との具体的なやり取りについての記載がある。
事業仕分け、ライバルの台頭による性能強化。それよりも大きな関門が、その後に控えていた。東日本大震災だ。
3月11日の前にも、ケーブルを製造する工場のある宮城県では、大きな地震が起きていた。伊東はそのとき、工場へは「大変でしょうけれど、よろしくお願いします」と電話を入れていた。しかし11日には、電話がつながらない。
2日ほどして連絡が取れるようになると、そこの社長に言われた。
「わかってますよ、6月でしょう。私たちが足を引っ張るわけにはいきません。それに、この状態から世界一になれば、それが復興への足がかりになります」
また、とかくスパコンの世界では、最先端の技術の粋を集めたような研究開発が行われていると想像しがちだが、実は非常に多くの日本の会社のエンジニアの創意工夫と努力が活かされているということを強調しておきたい。実際「京」の開発には1,000名以上の人が携わっており、「挑む力」には以下のような意外な側面も紹介されている。
2009年5月。開発を進めてきたCPUの動作実験が、川崎工場で行われた。発熱を抑えるため、水冷装置を使用した。
「とは言っても、秋葉原で売っている、パソコンマニアが使うような装置です」
この実験では水を使うので、万一のことがあって、設備にダメージを与えてはならない。
「洗濯機の下に敷くパン(受け皿)を買って来て、それを机の上に並べて、その上にCPUを乗せました」
世界一を目指すスパコンのイメージとはかけ離れた、手作りのの試験場現場で、意外なほど順調にCPUは動いた、と吉田は言う。
今回、再び世界一を獲得するためにチームJAPANとして日本の様々な会社のエンジニアがスクラムを組んで知恵を出し合い、何としても栄冠を奪還して欲しいと思う。
そして、日本の独自の技術で豊かな世界を作って欲しいと思う。