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人を動かすものは何でしょうか?様々な「座右の銘」から、それを探っていきたいと思っています

魚の好物のことを考える

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弊社のテキストは、各章の冒頭で必ず(その章で伝えたいことにまつわる)偉人の名言から始まります。

例えば、「ワークショップで鍛える!創造的発想術トレーニング」という研修では、次のような名言を紹介しています。

常識とは、18歳までに積み重なった、偏見の累積でしかない。(アルバート・アインシュタイン)

たまには踏みならされた道を避けて、森の中に入り込むのがいい。
今まで見たこともないものを発見できるに違いないからだ。(グラハム・ベル)

「できるか」と聞かれたら、いつでも「もちろん」と答えることだ。
それから懸命にやりかたを見つければ良い。(セオドア・ルーズベルト)

偶然は準備のない者に微笑まない。(ルイ・パスツール)

こういう名言は色々調べて見つけてくるんですが、残念ながら本当にこれらの人がこういうことを言ったかどうか?という裏をとることができません。本人にも聞けないしね。せめてこれらの人が書いてくださった本に書いてある、というのならいいのですが・・・中には「きっとこういう人が言ったに違いない」と後世の人が勝手に考えた名言、なんてものもあります。例えば、

「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものではない。最も頭のいいものでもない。
生き残るのは、変化に対応できる生き物だ」(チャールズ・ダーウィン)

が有名です。これ、ダーウィンが言った言葉ではありません。米国の経営学者レオン・メギンソンが、ダーゥインの残した言葉を独自解釈して、自身の論文に載せたものです。それがいつの間にか「ダーウィンがこう言った」ことになっちゃいました。

とはいえ、技術的に正しいかどうか、なんて話ではないのですから、「本当にその人がそういうことを言ったか?」ということを目くじら立てて検証することはあまり重要なことではありません。研修用テキストの冒頭に名言を書いているのは、研修の内容に興味を持ってほしいから、ということと、「昔から言われている大切なことなんだよ」と強調したいから、にすぎません。

さて、今日も新しいテキストを書くために、冒頭の名言集めから始めます。すると、非常に面白い名言をみつけました。

私はイチゴクリームが大好物だが、魚はどういうわけかミミズが大好物だ。
だから魚釣りをする場合、自分のことは考えず、魚の好物のことを考える。(デール・カーネギー)

カーネギー氏が本当にこういうことを言ったかどうかはさておき、これはビジネスを考える上で非常に大切なことです。自分の好物であるイチゴクリームを餌にしても、魚は寄ってきません。魚を寄せ詰めるためには、魚の好物であるミミズを使わなければなりません。いくら自分がこうしたいから、ということを考えても、お客様のニーズに合っていなければ意味がないのです。

一見、これと正反対のことを言っているように見える人もいます。

独創的な新製品をつくるヒントを得ようとしたら、市場調査の効力はゼロとなる。
大衆の知恵は決して創意などはもっていないのである。
大衆は作家ではなく、批評家なのである。(本田宗一郎)

同様のこと(マーケティングからは独創的なアイデアは生まれない)を、スティーブ・ジョブズも言っています。彼はスマートデバイスといえばスタイラスペンで操作をするか、または小さなキーボードで操作をする、というのが当たり前の時代に iPhone を発明しました。その時、「消費者に意見を聞いたら、『指で操作するスマートデバイス』が発明できるか?誰も使ったことがないのに!」と言った、と言われています。

しかし、これは正反対のことではありません。ジョブズが「指で操作するスマートデバイスを作ったら売れる」と確信をもっていたのは、その時代のスマートデバイスに不満を持っている消費者が多い(またはスマートデバイスは難しそうだと感じて使っていない消費者が多い)、ということを知っていたからです。つまり、

 相手のニーズ(Needs)をよく知る

     → 相手の要求(Wants)に惑わされずに独創的な製品やサービスを作る

という、時系列としては全く別の話なんです。

さて、今日も「みなさんに受講してもらえる、独創的な研修」を作るべく、がんばります。

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