なぜ、意識改革をしようとすると失敗するのか
今日は「ブログ(Web Log)」の本来の意味に則って、URLの紹介から。
「3.11 がもたらした変化と進化」という日経ビジネスの記事です。
詳細は記事を読んでいただくとして、抜粋すると、次の通りです。
震災(東日本大震災)の2カ月前、日本マイクロソフトは都内5カ所にあったオフィスを品川の新社屋に統合し、テレワーク環境を整えた。(このような働き方をMS社ではフレキシブルワークと呼ぶ)
ただ、環境整備が進んでも人や組織の習慣は容易には変わらず、出社前提/面談重視の雰囲気が大勢を占めていた。推進チームは様々な啓発活動を続けていたが、手ごたえという意味では「2割反対、8割無関心」(日本マイクロソフト株式会社 テクノロジーセンター エグゼクティブアドバイザーの小柳津篤氏)だったという。
それが、震災が起きた途端、数日でほぼ全員が在宅勤務を体験した。さらに、この体験から通勤時間や家族との過ごし方等について各自それぞれの気づきがあった。この経緯から、小柳津氏は大きな気づきを得たという。「順序が逆でした。意識改革より行動変容が先。行動と体験が変わった時にはじめて何かに気づいたり期待したり納得する。これが意識改革です」(小柳津氏)。
同時に、こうした意識改革には個人差が大きいことも知った。「早い人は数時間でメリットを実感し、フレキシブルワークを積極的に活用するようになります。その一方で、2年経っても馴染めない人がいました」(小柳津氏)。
震災によりフレキシブルワークはいったん進んだが、時間が経つにつれて以前の働き方に戻ろうとする社員が出てくる。そこで、日本マイクロソフトでは2012年に1日、2013年と2014年は3日、2015年と2016年には1週間という具合に、オフィスを強制的に閉鎖してフレキシブルワークを強く促す期間を設けた。行動を変えれば意識が変わる。そのコンセプトにより、フレキシブルワークはしっかりと根づいていった。
記事はその後、「コロナはおろか震災も関係ない時代にマイクロソフトがフレキシブルワークを推進したのはなぜか」とか「フレキシブルワークが難しいサポート部門にまでどうやってフレキシブルワークを浸透させたのか」とかの、非常に興味深い内容が続きます。
しかし、私が特に興味深いと感じたのは、上記の抜粋したところです。
人間のパーソナリティとは
これは、アメリカの精神科医であるエリック・バーンが精神療法の基礎理論のひとつとして開発した「交流分析(TA:Transactional Analysis)」の中で語られていることを、私なりに翻案したものです(そのものズバリではありません)。
- 最も内側の「個性」とは、その人が先天的に持つ傾向のことで、原則として一生のうちで変化することはほとんどありません。
- 内側から2番目の「気質」は、代々受け継がれてきた根強い文化や風習などが基になって形成されたものです。
- 3番目の「性格」は、幼児期に形成され、少年・少女期のリハーサル(何度も経験したり行動したりすること)によって強化した、意志決定に大きな影響を与える内面的な性格を指します。
- 最も外側の「社会的慣習」は、「今、ここ」にある思いで、その人の社会的役割上の性格を意味します。
そして、「個性」は「気質」に影響を与え、「気質」は「性格」の形成に影響を与え、「性格」は「社会的慣習」に影響を与えます。最終的に「社会的慣習」がその人の具体的な行動に影響を与えます。これらは、内側に行けばいくほど変わりにくく(変えにくく)、外側にいくほど変わりやすい(変えやすい)ものです。
いわゆる「意識改革」と言われる「意識」は、社会的慣習や性格の部分を指します。気質や個性まで内側に入ると、そこはもう「無意識」の領域です。
行動を変えると意識が変わる
で・・・
前述の通り、本来であれば、このパーソナリティは内側にあるものが外側にあるものに影響を与えます。だから最終的な「行動」を変えようと思うと、ついついその内側にある「意識」、すなわち社会的慣習や性格を変えなきゃ、と思っちゃうわけですね。だからマイクロソフトの小柳津篤氏も啓発活動を通して社員の意識を変え、それによって行動を変えようとした。
でも、それではうまくいかない。「意識」から変えていくのは難しいんですね。半ば強制的にでも、行動から変えていく必要があるんです。
- 行動を変えると、個人差はありますが、気づきが得られます。
- その気づきが、社会的慣習(今はこうしたほうがいい、という思い)を変える可能性があります。
- 社会的慣習が変われば、性格(こう考えるのが自分には合っている、という思い)が変わるかもしれません。
- そして性格が変われば、もしかしたら気質(元来持っている、こうしたい、こうすべき、という無意識の思い)が変わるかもしれません。
10年前と今とでは、仕事のやり方が野球とサッカーぐらい変わった
と小柳津篤氏はおっしゃっています。そこまで劇的に環境が変化した今では、その環境の変化についていくために、まずは行動から変えていく必要があるようです。