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文章力を高めるための5つのステップ・その4

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「文章力を高めるための5つのステップ」と題した記事の4回目。

プロセスのステップは、次の通りでした。

  1. プランニング
  2. 情報収集
  3. 構造設計
  4. 執筆
  5. 推敲

今回はプロセスのステップ3番目、構造設計についてお話しましょう。
この構造設計はとても重要なので、今回のブログはちょっと長文です。

構造設計

文書の中に盛り込むための情報が集まったら、次は文書全体の構造を設計します。
これは、まさにプログラム設計、モジュール設計に近いものです。

文書に仮タイトルをつけ、目的を明確にする

どんな文書にもタイトルがあります。タイトルはその文書の内容を1行に要約したものです。構造設計の最初にすべきことは、

  この文書には、イシュー(問い)への答えが書いてありますよ

ということを明確にするための、仮タイトルをつけることです。ただし、「報告書」や「提案書」というような、どんな内容の文書にも当てはまってしまうようなタイトルは、タイトルとはいえません。必ず、文書の内容がひとめでわかるようなタイトルをつけます。定型フォーマットで文書のタイトルが「報告書」などと決まっている場合は、文書の内容を要約した副題を設けるようにしましょう。良いタイトルは、読み手がそのタイトルを読むだけで「何が書いてあるか」、「何のための文書か」ということを認識できます

ここでつけるタイトルは、あくまでも仮のものです。最初にタイトルをつけるのは、書き手であるあなたが、文書を書いている途中で迷子にならないようにするための道しるべとするためです。最終的にもっとふさわしいタイトルにつけなおすことを考え、この段階のタイトルはカッコよさよりもわかりやすさを重視しましょう。多少長いタイトルになっても構いません。新しい開発環境を買ってもらうことを上司に進言するための文書だったら、

〇〇プロジェクトにおける開発環境に求められる要件の報告と、それを満たす新たな開発環境の調達に関する承認のお願い

みたいな感じの(長い)タイトルで構いません。

内容の順番

次に、内容の順番を考えます。わかりやすい順番には、ある法則があります。

まず結論から(ただし条件つき)

読み手は、大きく2種類のスタイルに分けられると考えられています。それは、「結論重視型」と「詳細重視型」です。これはある心理学に基づいた話なんですが、その心理学に関する詳細は別の機会で。

この2種類のスタイルの両方を安心させる文書構造が「まず結論から」というやりかたです。この結論を先に書くというやりかたは、一般に「PREP」といわれます。

  • Point (はじめに結論を明確にする)
  • Reason (その結論に対する明確な根拠、理由を提示する)
  • Example (わかりやすい具体例を挙げる)
  • Point (最後に結論を再度強調する)

この「PREP」、ネットで検索したらいっぱい出てきます。とってもメジャーなやりかたであるといえるでしょう。

「結論重視型」の人は、その名の通り結論を先に欲しがります。そこで、文書のはじめの部分で「私の考えはこうである」とか「結論はこうである」などと断定し、「結論重視型」の人を安心させます。一方「詳細重視型」の人はそれだけでは納得しません。明確な根拠や理由が必要です。そこで、結論のすぐ後に「なぜならば、〇〇だからである。」と根拠や理由、具体例などを挙げ、結論の正当性を補完します。

結論とその根拠を示す文章はできるだけ近づけます。根拠を示す文章が結論から離れてしまうと、詳細重視型の人が不安になります。また、その根拠がどの結論に関連するものなのか、わかりにくくなります。

条件を満たす場合、PREPを避ける

しかし、結論を最初に書くことが望ましくない場合があります。それは読み手の考えを改めさせることが目的の場合です。読み手の考えとは異なる結論を書く文書において結論を先に書いてしまうと、読み手がその文書を真剣に(あるいは中立的な立場で)読んでくれなくなる可能性があるのです。

tempsnip7.jpg例えば、「A案とB案のどちらが良いか」という問いがあり、読み手の心がほぼA案で固まっていたとします。しかしあなたはB案のほうが優れていると考えており、論理的な根拠も持っています。そこで、相手に「B案が良い」と思わせる目的の文書を書くことにしました。

このようなシチュエーションにおいては、文書の冒頭で「A案よりB案が良い」と断言してしまうと、「A案が良い」と思っている読み手は、自分のA案という意見を否定されたように感じてしまう可能性があります。人によっては。自分自身が否定されたように感じてしまうこともあるでしょう。そのような感情が一度でも芽生えてしまうと、その文書を中立的な立場で読めなくなってしまいます。もしかしたら後に続く論理的な根拠や具体例を読んでもらえなくなるかもしれません。

ですから、相手の考えを改めさせることが目的の文章において、PREPを使うのは望ましくないのです 。

このような場合は、冒頭でイシューを提示し、どのような問いを発し、どのような論点で考えたか、ということを明らかにします。そして結論に至るまでの道筋を論理的に明確に説明した上で、最後に結論を述べます。

このような順番での記述法を「IREP」といいます。

  • Issue (問いは何か、どのような論点で考えたか、ということを明確にする)
  • Reason (そのイシューに即した根拠、理由を提示する)
  • Example (わかりやすい具体例を挙げる)
  • Point (最後に結論を再度強調する)

このIREP、インターネットの世界ではメジャーではありません。下手に検索すると全く別の会社が上位に検索されてしまいますから、ご注意を。

述べたい内容が多く、構造が複雑になる場合は、ツリー状の論理構造にすると良いでしょう。以下はその例です。

tempsnip9.jpg

PREP 構造が良いか IREP構造 が良いかは、読み手の状況によって異なります。そのため、文書を書く前に「読み手は誰か、どのような状況にあって、どのような反応を期待しているか」ということを明確にする必要があります。つまり、プランニングですね。

章立てと階層構造


全体の構成が決定したら、次に詳細な内容を考えます。どんな短い文書であっても、章立てと階層構造を意識するようにしましょう。文書は、次のような階層構造をとります。

tempsnip8.jpg

一般的な文書になぞって「章」、「節」、「項」という名前をつけています。

章は、読み手に知ってほしい内容の最も大きな括りです。その中の要素として、節や項があります。

例えばこの記事では、

構造設計

が章、

文書に仮タイトルをつけ、目的を明確にする

内容の順番

が節、

まず結論から(ただし条件つき)

条件を満たす場合、PREPを避ける

が項です。

しかし、この「章」、「節」、「項」という名前はさほど重要ではありません。重要なのは、章立てが階層構造をとる、ということです。

章立てのポイント

文書の階層構造を考える際の重要な点は、次の3つです。

  • 概要と詳細を明確に区別する
    「結論重視型」の読み手にとっては、結論がわかればそれで充分です。詳細を知る必要が出てきた時に、初めて詳細に目を通します。一方、「詳細重視型」の読み手は、詳細をはっきり理解した上で、結論を読み解こうとします。
    どちらのタイプの読み手にもわかりやすい文書にするためには、通読されるべき部分と、可能であれば読んでほしいと思う部分とは明確に区別します。

  • 項目は多くても5つ以内(理想は3つ)
    「マジック・ナンバー」として「項目は7つ以下」と教えている人もいますが、私の経験上、7つでは多すぎます。章の下の節、節の下の項は、よほど特殊な事情がない限り5つ以内にするのが良いでしょう。理想は3つです。また、各節、項の粒度(細かさ加減)を揃えるのも重要です。

  • 見出しをつける
    仮タイトルと同様に、章・節・項のそれぞれに対して、項目名(見出し)をつけます。これも、この時点では仮のもので構いません。
    タイトルや見出しは、後に続く文章の先行案内の役目を果たします。書き手が文章を書く時の、読み手がその文書を読む時の目印になるのです。箇条書きの項目名も同様です。

章立ての順番

章立ての順番にもこだわりましょう。基本は「読み手の近くから順に説明する」ということです。

「読み手の近く」とは、読み手が理解できるもの、または、読み手が興味を持っているもの、という意味です。具体的には、次のような順番で文書を記述することで、読み手のキャッシュをあふれさせることを軽減できます。

  • 最初に読み手が興味を持っているものを説明し、その後で周辺の詳細を説明する
  • 最初に結論を説明し、その後で根拠を説明する
  • 最初に読み手にとって既知の情報から説明し、その後で未知の情報を説明する

例えば、

  1. 現在抱えている問題(興味の対象)
  2. その原因(その詳細)
  3. 解決策の提案

とか、

  1. 我々は海外進出をすべきである(結論)
  2. 身近で起きている問題を我々は解決できる(既知の情報)
  3. 身近で起きている問題は実は世界中で起きている(未知の情報)
  4. 世界中で起きている問題を我々は解決できる(まとめ)

といった順番を考えます。1番目の例では第3章の「解決策の提案」のところで PREP を用いることになりますし、2番目の例では文書全体が PREP になっています。

この章の終わりにひとこと

A4用紙1ページに収まるような短い文書の場合は、「章立てを設計する」というと大げさに感じるかもしれません。その場合でも、文書全体の大きな括りは必要です。

また、段落に関しても同じことがいえます。1つの段落には1つの内容だけを含めるようにし、内容が変わる時には段落を分けるようにします。この記事の構造設計も参考にしてくださいね。

今回は長かった!おつきあいいただきまして、ありがとうございます。

はいよいよ最終回、執筆と推敲です。


今回お話している内容は、弊社の次の研修で詳細に説明しています。

文章能力養成講座 上級 ~ロジカル・ライティング~

興味がありましたら、ぜひお問い合わせください

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