こんな研修の依頼の仕方をしていませんか?「とにかく"コミュニケーション力"を上げてください!」
研修講師をしています。講師として教室にいるのが年間120日くらいでしょうか。それ以外は、教材開発をしたり、お客様と打ち合わせをしたり、後輩講師の育成に立ち会ったり、販促チラシ作ったり、様々な仕事をしています。
最近、熊本大学の「インストラクショナルデザイン」やら東大MOOC「インタラクティブティーチング」やら、"学び"についていろいろ考える機会がより一層増えて、そうすると、研修の提供以前に、スタート地点に課題があるケースが多いかもしれないなぁ、と思うようになってきました。(これから述べることは、今までも十分課題だと思っていたのですが、IDなどを勉強していくとより一層強く"課題"として認識するようになってきたのです)
たとえば、研修を企画しようというとき、社内の人材育成部門に相談をすることがあるかもしれません。相談相手がいないので、自分で見様見真似で研修を考えてみるという場合もあるでしょう。人材育成部門であれば、私たち研修を生業としている者のところに相談を寄せてくださることもありますね。
そういう時、実は非常に漠然としたオーダーであることが多いのです。
たとえば、「中堅社員のコミュニケーション力を上げてくれませんかね」といったような。
だから私たちは、いろいろなことをお尋ねしていきます。
●中堅社員とは何歳、あるいは、何年次くらいを指していますか?
●どういう仕事に就いている方ですか?
●コミュニケーション力と一言でおっしゃいますが、どんな場面でのどういうコミュニケーションを指していますか?
●「上げてください」ということは、現状は「下がっている」という認識ですよね。具体的には何が問題なのですか?
●その状態から、研修終了後は、どの状態にまで変わっていればよいですか?
●そもそも、この話は何がきっかけで出てきたものでしょうか?(たとえば、お客様からのクレーム、顧客満足度調査の結果、現場の声?おかみの声?・・などなど)
・・・・・
・・・こういう質問をしながら、要件を明確にしていくのですね。
そして、具体化できたところで、何等かの研修を提案します。
場合によっては、最初の相談とは異なる提案をすることがあります。
「中堅社員のコミュニケーション力」の問題というより、その「上司の指導力」が課題だと思い、「上司へのアプローチ」を提案するといった場合がこれにあたります。
実際に以前あった例ですが、「リーダー候補として考えている30代の覇気がなくて困っている。これでは次世代リーダーとして託せない」という相談が部門長から舞い込みました。お話を伺っていると、30代の問題かもしれないけれど、それよりも、部門長や部長のあり方に課題がありそうに感じました。そこで、「皆様の接し方を少し工夫すると、30代の方たちのふるまいも変わってくるかもしれないと思ってしまったのですが、いかがでしょうか?」とおそるおそる切り出しました。
やっぱり?という顔をなさって、ご本人たちもうすうすは感じていたことだったようでした。とても素直な方たちで、「あ、やはり、僕たちに原因がありますか。じゃあ、僕たちに研修を」となり、結果的には「マネージャ向け部下とのコミュニケーション」(みたいな)研修を実施したことがあります。
研修をしようと言うと、つい、「どうやって教えようか(演習が多いほうがいいよね)」「どんな内容にしようか(こういうスキルを盛り込んで)」とコンテンツやHowに目が向きがちですが、「誰」を「どこまで持っていきたい」のかを最初に明確にすることが大事です。
「インストラクショナルデザイン」では、このあたりを非常に明確にしていくので、研修の企画設計がとてもシンプルに見えてきます。
「入口」・・・学習者はどういう人なのか。何ができて、何ができないのか。(これが「前提条件」とか「前提知識」です)
「出口」・・・その学習者をどこまで持っていきたいのか。何がどれだけできるようにしたいのか。(ここに相当するのが「学習目標」ですね)
この「入口」と「出口」が研修のスコープとなり、その中をどう設計するかと言う話になった時、「コンテンツ」とか「How」について初めて考え始めればよいのです。
「グループワーク付きで、コミュニケーション力を上げましょう」というだけでは、なかなか効果的な研修にはなりません。
「どこからどこへ行くのか」を明確にすることがまずは大事です。
=======================
ちょっと宣伝です。 2年くらい前から開催している「インストラクショナルデザイン」の講座があります。
私が講師をします♪ので、内容にご興味がある方は、ぜひお越しくださいませ。
私たちのように研修を提供する側も知っておくべき知識とスキルですが、人材開発担当の方、人事・研修企画担当の方も勉強することで、よい研修を社内に提案することができることと思います。