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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

こんな本を読んだ:『失職女子。』と『億男』から考える幸せってなんだっけ?なんだっけ?

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西原理恵子さんの「毎日かあさん」を読みたいというだけの理由で毎日新聞を購読し続けています。毎日新聞は、真ん中あたりにある特集とか連載とかがなかなか面白いといつも思っているのですが、勝間和代さんのクロストークという欄もなかなか興味深いテーマを扱っています。毎回、何かについて勝間さんが問題提起をし、その後読者からの意見を紹介するという構成です。

先日のテーマが「若者の貧困は自己責任か」でした。毎回添えられている瀧波ユカリさんの4コマ漫画もいつも面白く、記事より先に読んでいたら、中に『失職女子。』という本とその著者のことが書かれていました。

何だか興味をひかれたので、さっそく、この『失職女子。』をリアル本屋さんで購入。(どの棚にあったかというと、「キャリア・人事」みたいなところでした。いいのか?)

筆者は大和彩さん。はっきりと年齢は書いていないものの、アラフォーのようです。大学を卒業した後、就職するも身体壊して退職、転職して倒産、身体壊して療養、派遣などでしのぐも「正社員になって自活する」と就職活動をしても、100社近くからNGをもらう・・・(手元に本を置きながら書いているわけではないので、このあたりは、順不同です)

身体も壊しているなら、いったんは自宅療養などもふつうは考えるのかもしれませんが、両親からDVを受けているため、実家とは縁を切り、どこに住んでいるかも知らせていない。

で、なんだかんだいろいろあって、だんだんとお金も無くなり、自助が難しくなり、公助に頼ろうと生活支援を受け始めるのですが、最初に受けたものは、「困った人にお金を貸し付けてくれる」という制度。これも借金ではあるので、最後の最後に「生活保護」を受けるにまで至るのです。

現在は、生活保護を受けながら、執筆活動を細々と続けている、ようです。

瀧波ユカリさんの4コマ漫画(先ほどのリンク先で公開されています)によれば、『失職女子。』著者大和さんに対しては、応援メッセージも多いながら、「働け!」「甘えるな!」といった誹謗中傷も一定数あるとのこと。きっとこの本を読んでいない人が、表面に見えている事象だけを見て、妬みやっかみ攻撃しているのだろうと思いました。 中には、「本を出したのだから印税で暮らせるだろう」的な攻撃も多いのかな、と、これは大和さんのTwitterコメントを読んでの推察。

(いやあ、私も何冊か本を出していますので、わかりますけれど、印税で暮らせるのは、たぶん東野圭吾さんとかです。マジ。 印税ってたいていの人が10%と思っていると思いますが、いや、私も思っていましたが、最近は、8%とか6%とかです。しかも相当の売れっ子じゃなければ、初版1万なんてありえないので、3000部とか5000部くらいからスタート。仮に初版5000部、1000円の本で印税6%だとします。ということは、1冊60円×5000円=30万円です。これで、生活しろと言われてもせいぜい2か月じゃないでしょうか。)

ま、それは置いといて。

『失職女子。』を読んで、空恐ろしいなぁ、と思ったのは、大学も出た。けれど、最初についた職業や最初に入った会社で、その後の人生がかなり影響受けてしまうこともあるということ。

大和さんの場合は、若いころに「キャリアを積む」というか「経験値を増やす」ということがどうもできなかったようなのです。倒産とか病気とか様々な要因によって。でも、ただひたすら自活することを目指して、「何でもいいからやります」状態。 で気づけば35歳を超え、「35歳過ぎると途端に仕事が見つけづらくなるのよね」とハローワークの人にも言われてします。特に女性だから、ということも影響しているのかもしれません。

生きるか死ぬかという状況まで追い詰められて、でも、DVのことがあるから家族に頼れない。天涯孤独で女1匹40代。 

いつ自分の身に降りかかるかと思ったら、本当にぞっとします。

勝間さんのクロストークは、「若者の貧困は自己責任か」というタイトルですが、このテーマについては多くの方が同じように「自己責任論で済ませるな!」と訴えているのを耳にします。

自己責任、自己責任、なんでもそう言ってしまえば簡単だけれど、個人の問題では済まないのですよね、実は。

働きたい人がきちんと仕事を得られ、そして、きちんと納税もして、それで社会の動いていくはず。

何だかなぁ、と思ってしまった1冊でした。

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ところで、同時に川村元気氏の『億男』という小説も読みました。これがまた両極端な話。

主人公は、日中は図書館で、夜はパン工場で働き詰め。なぜかといえば、家族の借金を背負ってしまったから。借金のことで妻とも不和になり、別居。子どもも妻についていき、孤独にただ働いている。

身体壊すほど働き続けているなか、3億円の宝くじが当たってしまう・・・。

これですべての問題が解決する。

「お金さえあれば、お金さえあれば何でも叶う。問題も解決する」

と思うのだけれど、本当にそうなの?ということを考えさせられる小説です。

大和さんの場合、とにかく、生きるためにまずはお金が必要、という最低限の生活に陥ったわけですが、この小説の主人公は3億円があれば何でもうまくいく(かも)と考えている。3億円あたってから訳あっていろんな金持ちに会いに行くのですが、「お金だけが幸せではない」ということも深く考えさせられる。

お金がなければ生きていけないが、
お金だけで幸せになれるわけでもない。

・・・この2冊は、もしかすると同時に読んでみるといいかも、と思った本たちです。


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