「させていただき」まくりな書店員さんのお話
先日、ふと見知らぬ街の書店に入った。
帰りの電車で読むための本がなくなり、文庫を1冊買おうと思ったのだ。
文庫コーナーをくまなく歩いていると、エプロンをした書店員さんが一人の女性に一生懸命説明している場面に出くわした。
「このように、作家名ごとに整理させていただいております。たとえば、池波正太郎と言う風に札を出しており、ここには、池波正太郎の作品を並べさせていただいております。」
「作家名は、あいうえお順に並べさせていただいております」
「作品数が少ない作家の場合は、”歴史小説”と札を出しておりまして、はい、こちらのように、全部を並べさせていただいております。」
「・・・させていただいております」を連発しているこの書店員さん。案内している女性は、「取次」とか「出版社の偉い人」なんだろうか?といぶかしく思った。
だって、「させていただいている」と連発するからには、相手に「させていただく」と言わねばならぬ、何らかの力関係がありそうではないか。
上記に再現した以上の回数、あらゆる棚の説明において、「させていただいております」をおそらく10回以上言ったであろう書店員さん。
最後は、
「ほかにもご不明点がありましたが、またお声がけください」
と言い、レジのところに戻っていった。
ん?
はたして、案内されていた女性は単なる客だったのだ。
状況から考えるに、「歴史小説ってどこにありますか」と尋ねられたのだろう。
「作家別に並べさせていただいております」と案内していただけだった模様。
うーん、不思議な言葉づかいだ。
「作家別に並べております」
「作品数が少ない作家の場合は、”歴史小説”という分類にしてあります」
これでいいはずだ。
「させていただく」理由が全く分からない。
「させていただく」を連発するのは、仕事のプレゼンなどでもよく見かける光景なのだが、なんとなく、自分という主体が存在しないような、言い訳がましいような印象も与える言葉遣いだ。
丁寧に言っているつもりなんだろうけれど、潔さが微塵も感じられない。
「しています」
「です」
と言い切ればよいのに。
そのほうがすっきりさわやかに意味も伝わるというものだ。