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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

第15話:頑張れ!新入社員

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2ヵ月くらい更新を休んでしまいました「コミュニケーションのびっくり箱」(日経BPストア、廃版)の再録を再開します。これまで通り、可能な限り、月曜7-8時くらいの時間帯で。



4月は、新入社員研修花盛り。かれこれ20年ほど各社の新入社員研修を担当している。これまでおそらく数千人という新入社員に出会ったが、最も衝撃的だったのが「遅刻は悪いことですか?」だ。



忘れもしない1997年4月。「遅刻することがどうして悪いのですか?」と真顔で講師に尋ねた新入社員がいた。「人に迷惑を書けることは悪いこと。遅刻しても研修は遅刻した人を抜きにして時間通り進行しているし、誰にも迷惑はかけていないと思うから、遅刻が悪いこととは思えない」、そう彼は言った。

「遅刻がいけない理由」を説明したらすぐ納得したので、単に「ソボクな疑問」だったのだろう。彼ももう35歳は過ぎたはず。今頃、「今年の新入社員は扱いにくい」などと嘆いているかも知れない。

こういうオドロキの発言もさることながら、新入社員ならではの微笑ましい会話もよく聞こえてくる。



以前、新入社員同士がこんな会話をしていた。

「オレ、今、新聞の練習をしているんだ」
「え? 新聞の練習ってなんだよ?」
「新聞をさあ、おじさんが小さく畳んで読んでいるじゃん、電車の中で。あれが、カッコいいなぁと思って、真似してみたいんだけど、案外難しいんだよ」
「へぇ、あれ、難しいんだぁ」
「うん、簡単に見えるじゃん。だけど、やってみたら、まっすぐ小さくは畳めないんだよ。オレがやると、どんどん大きくなってっちゃっう」
「そっか、それは練習のしがいがあるなぁ」

2005年ごろのことだ。今では、通勤車内で新聞を小さく折り畳み読む人自体が少なくなってしまったが、当時はまだ縦に横にと小さく折り、最低限の空間だけ確保して熟読している人がいたものだ。

その姿に「ビジネスパーソンの先輩」として憧れを抱き、自らも練習しているというわけ。「なんでもお父さんのマネをしたがる幼児のようだな」とくすっと笑ってしまった。



別の新入社員。時は1月末。

「お前、朝飯、食ってる?」
「食ってないけど、なんで?」
「オレも食ってなかったんだけど、今年から食うようにしているんだ」
「ふーん」
「そうしたら、違うんだよ」
「何が?」
「朝飯食ってから会社に来るとさ、朝からエンジン全開って感じになるんだ」
「ふぅ~ん」
「朝飯食ってなかった時って、午前中は力が出なくてさ、昼飯食ってようやく調子が出る感じだったんだけど、今は午前中からシャキッとして仕事もはかどるんだ」
「へぇ~、朝飯だけでそんなに違うんだぁ。オレも食ってみるかなぁ」
「うん、そうしろよ。いいよ、朝飯」



新聞の読み方研究。
朝ご飯で人体実験。

「え?そんなこと?」と先輩としては思うものの、彼らは大真面目に思考錯誤をしてみている。自分で気づいたこと、自分からやってみようと思ったことは長続きしやすいことだろう。新入社員はそうやって少しずつ成長していく。



新入社員時代、私が最初に先輩にした質問は、「先輩! FAXが送れません。何度送信しても戻ってきます」。

就職して人生で初めて目にしたFAXなる機械。仕組みもよくわかっていない。「これを送って」と先輩に指示された文書をセットし、送信ボタンを押す。何度押しても原本が戻ってくる。オカシイ。

「あのね、この書類がそのまま相手先に飛んでいくと思ったの?」と先輩は笑いながら教えてくれた。

機会に疎くたって、考えてみればそんなはずはないことくらい分かるはずだ。先方には同じ文書が何枚も到着したことだろう。迷惑をかけてしまった。



同じ部署に配属された同期の一人は、電話を取り次ぐ際、先輩の名前を呼ぶはずが、オフィス中に響く声で、

「お母さぁ~ん!」

と叫んでしまったことがある。

「お母さぁ~ん、電話!」と自宅でしょっちゅう言っているのだろう。この時は、先輩が「どこにお母さんがいるんだよ!」と突っ込んだため、周囲も笑いをこらえるのに必死だった。



仕事をしていれば数々の失敗も経験する。恥ずかしい想いをすることもある。楽しいことだってあるけれど、苦しいことや悔しいことのほうが最初は多いかも知れない。理不尽なことだって絶対にある。(何年勤務しようが、これは絶対にある!)

でも、そういう経験を通じて段々と「オトナ」になっていく。

きっと誰だってそうだったはず。ひとつひとつ乗り越え、「ああ、自分でもなんとかできそうだ」と自信もついてくる。「みんな悩んで大きくなった」のだ。



普段は忘れているけれど、自分もかつて多くの方に大目に見ていただいた。今は自分が大目に見る番だ。

採用数が減少傾向にあるとはいえ、新卒新入社員が入社してきた職場も多いことだろう。今年もおおらかに彼らを迎えたいと思う。

もちろん、指導すべきことはびしっと言うけれど、愛情を持って新入社員と向き合っていきたい。

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「日経BPケイタイ朝イチメール」(もしくは、『コミュニケーションのびっくり箱』(日経BPストア、廃版)の再録です。

初出は、2010年4月です。 年齢、日時、数字などは掲載当時のままです。
言い回しのみ、多少手を加えてあります。


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