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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

第13話:理系はつらいよ

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「ああ、ちょうどいいところに来た。あなた、理系でしょ。TV直せる?」
「お、ココにいたよ、理系の人が。ねぇ、パソコンの調子が悪いから見てくれない?」
「理系のアドバイスを聞いてみよう。デジカメを買うならどれがいい?」
などと頼んだ覚えはないだろうか?

「理系」と言ったって、物理学、数学、化学、生物学、工学、その他、実に多岐にわたっているはずだが、なぜか多くの人が(特に、「ノン理系」の人が)「あなた、理系でしょ?」とひとくくりにする傾向があるようだ。

私は完全な「文系」であるが、文系のケースで考えてみる。

「ああ、ちょうどいいところに来た。あなた、文系でしょ。文章直せる?」
「お、ここにいたよ、文系のヒト。ねぇ、この習字、上手に書けないから見てくれない?」
「文系のアドバイスを聞いてみよう。辞書を買うならどれがいい?」
なんて言われたことはない。仮に質問されても、「専門家じゃないからわからない」と言えば済んでしまう。

義弟は「理系」である。学生時代の専門は「航空工学」だったそうだ。彼にインタビューしてみた。

●質問 「理系」として身内から依頼されることは何ですか?

1. パソコン関係のことはとにかく沢山聞かれます

「ワープロソフトの使い方を教えて!」「文字を大きくしたいんだけど」「この表をグラフにするには?」「どうやって印刷するの?」「添付ファイルというのを開きたいんだけど」

どの家庭にも一台以上のパソコンが導入されているからだろう。この手の質問が増えているそうだ。問題は、電話で応対する場合。なんせ、素人に対して言葉だけで説明しなければならない。

「画面の上の方に、「ファイル」、「編集」、「表示」…と出ているから、「ファイル」を選ぶと、あ、選ぶというのは、マウスをあてて…。

え? マウスってのは、手に持っているヤツ…。「プルダウンメニュー」が出てくるので、えっと、プルダウンっていうのは…」とできるだけ丁寧に説明する。

専門用語はいちいち止まって「それは何かと言うと」と言い添えるようにもする。しかし、相手は自分から質問の電話をかけてきた割に、途中でメンドクサクなるのか、「あぁあぁ、だいたいわかった。もういいや。ありがとね」と説明を遮って電話を切ってしまうことが多いらしい。「でも、おそらく、わかっていないと思う」

ああ、質問した側の気持ち、わかる。義弟の言う通り、きっとわかってないだろう。細かい説明を聞いている内に理解できない自分が情けなくなり、それがイラ立ちに変わり、ついつい説明者にその気分をぶつけちゃうのよね。悪気はないんだけど。

2. 家にある電気・機械関係の質問も多いんです

「家電が調子悪いので見て」「動かないからなんとかして」というタイプの依頼。「見て」と言われるものがこれまた広範囲。TV、ラジオ、時計、はては、洗濯機、エアコン、さらには、自動車まで…。

「理系でしょ。ちょっと見てくれない?」と笑顔で言われるが、言外の意味は「このくらい当然直せるよね、だって理系だもんね」だそうだ。

わかるものは対応するが、後日再び何かあった際、自分たちで対処できるよう「この〝取扱説明書〟に書いてあるから、まず、このページを読んで、ここに書いてある通りにやってみてね」とアドバイスしても、「はい、はい」と気のない返事をする。

たぶん、聞いていない。はなから自分でどうにかしようという気がないようだ。
「取説はそのためにあるんだよぉ」と彼は思うらしい。

・・・耳が痛い。「取説」、一応読んではみるのだ。だけれども、一文に3個くらい意味不明な用語が出てきてお手上げになる。その繰り返しが拒絶反応を生み出す。私の場合は。

3. かなり無理な質問の類もたまにあります

たとえば、「自然科学系」。「夕方空が赤くなるのはなぜなの?」「蜃気楼はどういう仕組み?」。壮大な質問をされることがある。

わかる範囲で答えようとするが、自分の専門外の場合は、答えられないこともある。

そもそも、説明しても、最後まで聞いてくれる人は少ない。「何度も言うけど、自分から質問しておいて、なぜ?といつも思う」と言う。


●質問:最後に、「〝理系〟としてのお願い」があれば教えてください。

1.「直して」「ちょっと見て」と言われたら出来る限りのことはするけれど、専門外で手に負えなかった時、「理系のくせに」という目で見ないでほしい

2.質問するなら、ボクの説明を最後まで聞いてください

・・・。はい、スミマセン。

そういえば、正月に会った際、「このワインオープナーはどういう仕組みなのかしら?」などと思いつきの質問をしていた。彼は丁寧に解説してくれるが、途中でわからなくなり(説明は上手なのだが、こちらの理解能力に限界がある)意識が朦朧としてしまった。

いやあ、あの時は大変失礼いたしました。

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「日経BPケイタイ朝イチメール」(または、電子書籍『コミュニケーションのびっくり箱』再録です。日時、場所などは掲載当時のままにしてあります。文章は一部加筆修正しています。)

*初出:2009年7月~2010年7月

 

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