第7話:質問にはどこまで答えるべきか?
こちらの質問に答えてはいるのだが、「それでは答えになっていない!」と思うことがたまにある。
質問している側は、何か尋ねたい主題があるはずなのに、そこへまで考えを及ぼさず、自分に向けられた質問の字面にだけ「素直」に答えてしまうのだ。
通っているスポーツクラブで聞いた話。
ある日、シニアな男性がランニングマシンで走っていた時、脇を通ったスタッフを捕まえて、こう質問したそうだ。
「今日は、いつもより汗が出るんだけど…」
スタッフは、「運動すれば汗が出るのは当然ですよ」とにこやかに答えてしまい、その方に叱られてしまったという。
「そういうことを言っているんじゃなくて、いつもより、室温が高めになっていないか、って言っているんだ!」
まあ、このケース、質問者も「汗が出る」などと遠回りな言い方をせず、「室温が高くないか?」といえばよいわけだし、スタッフが「暑いですか? 室温のことですか?」と、ちょっと行間を読み取って対応すれば別の展開もあっただろう。
▼
ある時日、同僚が他社にかけた電話を切った後で、ひとこと「不親切だなぁ」とつぶやいた。
翌週の打ち合わせの件で電話を掛ける。
「○○さんは、いらっしゃいますか?」と尋ねると、「○○は、25日まで不在です」と電話に出た相手はそう答えただけで、こちらの反応を待っていたのだという。
確かに「いらっしゃいますか?」という質問だから、「不在です」が”答え”してはOKなのだけれど、本来なら、「戻ってきたら電話させましょうか?」とか「出先に連絡を取ることはできますが、お急ぎでしょうか?」などともう一押し欲しいところである。
▼
こんな例もある。
季節物のセール時期の話。「あ、これ、いいな。でもサイズが…」と思って定員さんに声をかける。
「これの●●サイズはありますか?」
返ってくる答えに多いのが、「出ているだけです」だ。
「出ているだけです」=「あなたが探してないのなら、ないのでしょう?」という、あなた任せ(お客任せ)な答え方だなあと思う。
忙しい時期というのはもちろん理解する。でも、「出ているだけ」だから何だと言うのだ!? もうちょっと親切な答え方もあるような…。
「出ているだけしか在庫がないので、そちらに置いてない場合は、●●サイズは品切れです」とか。「一緒に探せたらいいのですが、手が離せなくて。ご覧になって、無い場合はもうありません」とか。
セールの季節、一人のために探し出してくれとまでは言わないから、せめてそのくらいの言葉はあると嬉しい。忙しいのに親切な店員さんだと思う。
質問の「言葉」だけを見ず、質問者の意図、つまり、本当に聞きたいことは何かに思いを巡らせて答えることが大切なのだ。…とまあ、ここまではお約束のコミュニケーション講座。
▼
〝質問者の意図に思いを巡らせて答えること大切なのだ〟。”大切なのだ”が、実生活ではいつもそれが正しいとも限らない。
「これ見積りって、定価ですか?」と尋ねられた営業担当者。
『いつも高いと言われてしまう。今回も他社より高いと思われたのかな』などと頭の中でぐるぐる考え始めてしまった。
その挙句、「はい、定価です」とシンプルに答えればよかったものを、つい「ええ、高いってよく言われるのですが、それは理由がありますし、それに、まだ定価で提示しただけなので、これから勉強することもできますから」と一気にまくし立ててしまった。
墓穴を掘ったのだ。深読みもまた危険である。
▼
帰宅したら、「今日は遅かったのね。どうしたの?」と軽く言われただけなのに、「いやあ、実は課長に呼ばれて、急にミーティングってことになって、その後さらに他部署のヤツに相談に乗ってくれって、またつかまって…」
饒舌に説明しすぎて浮気がばれるというケースもある。
相手が何を意図して質問しているのか?
私はどこまで答えるべきか?
とりあえず、慎重に慎重。
よくよく考えてから答えなければ。
状況によって正解は変わる。
====================
日経BPケイタイ朝イチメール再録です。中に登場する日付などは、掲載当時のままとしています。
★初出: 「朝イチメール」第5話 (2009年8月12日配信)