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第1話:他人に何と呼ばれるか? … 「呼称」問題

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本日2013年12月2日より、毎週月曜日は、「コラム」を掲載します。これは私が2009年から2010年に書いていた週刊コラムを転載するものです。初出などの情報は、文末に入れました。

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第1話:他人に何と呼ばれるか?・・・「呼称」問題

買い物をしていると、お店の人に「奥さん、奥さん」と呼ばれることがある。
つい先日は宅配便のお兄さんにも、「奥さん」と言われた。いや、奥さんじゃないのだが。

男性も同じだろうか。「旦那さん」とか「ご主人」とか、知らない人に声をかけられているのか。

三十代以上は、「結婚している」かも知れないし、「結婚していない」かも知れない、というビミョウな年代だけれど、こうして声をかける側は往々にして五十代六十代だったりするので、全く悪気はないのだろう。その世代であれば、三十代以上は、ほぼ「奥さん」か「旦那さん」かに決まっていたに違いないからだ。



「いいえ、奥さんではありませんけど」などとまともに応対して相手を気まずくさせていけないので、「はい」と返事はするものの、何か別の呼びかけ方はないのか?といつも思う。

海外なら「マダム」など呼ばれるのだろうが、日本では、そういう気の利いた呼び方もない。「お姉さん」「お嬢さん」などと呼ばれることもあるが、これは、明らかにお世辞である。いわゆる〝みのもんた〟方式だ。

歳相応だからといって、「おばさん」「おばちゃん」と呼ばれると、他人に言われる筋合いはない、と思ってしまうし。

男性だって、「ボクはもうおじさんだから」と自称する分には問題ないだろうが、他人から「おじさん」と言われたら、多少、ココロに引っかかりを感じることだろう。



呼び方といえば、家族内でも、こんなことがある。

夫婦で互いに「パパ」「ママ」と呼ぶ。他人すら「お宅のママ」「お宅のパパ」などと呼ぶ。

何かで読んだことがあるのだが、日本は、その場にいる一番年下の人間を基準に呼称が決まる傾向があるそうだ。

その証拠に、「パパ」「ママ」「お父さん」「お母さん」だった人に孫ができると途端に「おじいちゃん」「おばあちゃん」「じーじ」「ばーば」となっていく。

弟や妹ができた男の子は「お兄ちゃん」と呼ばれる。女の子は「お姉ちゃん」だ。しかし、年下のほうは、「弟」とも「妹」とも呼ばれない。他人には「うちの弟が」と言うが、本人に「弟」とは言わない。

つまり、年下に対する呼称は三人称として以外に使われない。

会社でも同じだ。

「先輩」とは呼ぶが「後輩」とは呼ばない。
「おい、後輩」なんて、ふざけている場合を除いて、フツウは呼ばない。
「その場にいる年少者を基準に呼称が決まる」というのは、面白い方式である。


話は変わるが、新入社員の頃、OJTで育成を担当した同僚がいる。
三~四歳年下の彼が、数年前、四十歳を目前に結婚した。「新人の頃から世話になっている先輩」として、お式と披露宴に招かれた。

普段から彼の母上のこともよく聞いていたので、この日、初めてお目にかかれることも楽しみにしていた。
お開き後、やっと母上とお話できるチャンスが巡ってきたので、近づいていきこちらから挨拶した。

「本日はおめでとうございます。私、田中と申します。○○さんが新人の頃から一緒に仕事をしてきました。」

母上は、満面の笑みでこうおっしゃった。

「ああ、田中さん!…お局様の。○○が新入社員の頃、〝お局様が〟〝お局様が〟と申しておりましてね。本日はありがとうございます。」

アラフォー息子の結婚がよほど嬉しかったのだろう。本来なら当人には言わないはずの「お局様」を連呼された。

あまりのほほえましさに、私もつい
「はい、そのお局様の田中です。いいお式でしたね。」と返した。

名前を知らない他人をどう呼ぶかを考えるのも難しいけれど、知り合いに対して、陰で使っている呼称は、あくまでも本人にばれないように気をつけなければならない。

実はこちらのほうが重要なのかも。

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このコラムは、日経BP社「日経朝イチメール」サービスで2009年7月から2010年7月まで配信された週刊コラムです。その後、日経BPストアより『コミュニケーションのびっくり箱』として出版されましたが、販売停止になりましたので、このブログで順次公開していきます。日経BP社の許可は得ています。

★初出: 2009年7月15日配信

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