「イマドキの若者は」と嘆いていないで、感じさせればよい、そして、教えてやればよい
数年前(たぶん、5-6年前)にある企業の人事の方からお聞きした話です。
その企業では、入社早々、新入社員の合宿研修があり、宿泊先には、大浴場があったのだそうです。
就寝時間後、館内を見回り、最後に人事の方も、ゆったりと大風呂につかろうか・・・と、大浴場に足を踏み入れて、驚愕!
大嵐が通過した跡のように、洗面器や椅子、シャンプーなどが散乱していたといいます。
「なんじゃこりゃーーーー」と驚き、せっせと片づけたそうです。
翌日の朝礼時。
「昨日、大浴場に行って驚きました。かくかくしかじか」
「きれいに片づけてから、お風呂を後にするように」
・・・
これで、この日から、きちんとするようになったとのことです。
人事の方いわく、
「彼らは、知らないんですよね、きっと。銭湯の経験も少ないでしょうし、家族旅行でもホテルなんか泊まっちゃうと部屋にお風呂ついているし、修学旅行も最近はホテルでしょう? 大浴場の振る舞いを体験せず、大人になってしまっている人、多いんだと思うんです。だからね、叱ってもしょうがなくて、教えてやればいいんです。教えたら、”あ、そういうマナーとかルールがあるんだ”と初めて知って、知ればちゃんとできるんだから」
「風呂場散乱」と聞けば一瞬、愕然としますが、経験がなければ、片づけるということがわからないかもしれません。 また、散乱している様子に対して、感度が鈍っていると視界に入っていても何も気にならないという人もいる可能性はあります。
先月、ある企業で新入社員研修を担当した時のことです。
研修室の出入り口は、木製の扉で、普通に手を放して自然に閉まるのを待つと、「ばったーん」とかなり響く音を立てるタイプでした。 研修室の10数人が休憩時間に出たり入ったりすると、ずーっとその「ばったーん」「ばったーん」が響き続ける。
私は冒頭から気になっていたのですが、彼らは気にするそぶりも見せず、「ばったーん」「ばったーん」「ばったーん」。
従来であれば、すぐに「扉は静かにしめましょう。なぜならば」と教えてしまうのですが、昨日書いたように「ルール」で縛るより、考えさせたほうがいいという方針なので、数日様子を見て改善されないことに、一歩踏み出すことにしました。
昼休み後、ある男性に声を掛けました。
「○○さん、教室からいつも通りに出ていってみてくれますか?」
「え? 私が、ふつうに、ですか?」
「そうです、いつも通りに。たとえば、トイレに行こう、と思って出ていくかのように」
「わかりました」
・・・・「ばったーん」
「はい、ありがとうございます。戻ってきてください。では、もう一度出て行ってもらってもいいですか? 今度は扉にそっと手を添えてみてください」
「はい、こうですか?」
「そうです。」
・・・ し~ん。「かちゃり」
「はい、戻ってきてください。2回もありがとうございました。さて、みなさん、今のことで何か感じましたか?」
「閉める時の”音”ですよね」
「そうです」
「どう思います?」
「ばったーん、というのはうるさいな、と」
「でしょう? 私、ずーっと気になっていたので、体験していただきました。」
「どうしたらいいか、もうわかりますよね」
「(全員が)はい」
・・・おそらく、私に指摘されるまで、「ばったーん!」が騒音だとも、他の部屋にまで響いていることも気付かずにいたのだと思います。
アンテナの感度は人によって異なります。
「なんで、気づかないんだ?」
「気づく人になってほしい」
「気配り、大事」
「もっと周囲に目を向けて」
というのは簡単なのだけれど、これは、「私が気づいてほしいこと」を相手が「気づかない」だけであって、彼ら・彼女らも、別のことで気づいていることは多々あるわけです。
私が「ドアのこと」を気づいてほしいと思っても3日経過して、だれも気付かないことを確認できたため、上記のようなアプローチをとってみました。
「ドアは静かにしめましょう」と言うのは簡単ですが、それでは、きっと感度は磨かれなかったと思うのです。
でも、
「二つのドアの閉め方の違いは?」
と問われ、初めて、「音」に対する感度が高まったはずです。
だから、それ以来、きっと他人がドアを閉める音にも敏感になったに違いありません。今まではそこにアンテナが反応しなかったけれど、今はもう反応するアンテナを持つようになって。
・・・・
こういう話をすると、「そんなことまで教えないといけないの?」と嘆く方もいらっしゃるかも知れませんが、どんなことでも「私の期待」と「相手の振る舞い」は一致しないものだと思って、他者と接することは大事だろうなあ、と思っています。
もう半世紀生きている私だって、上司から見れば、「そんなことも気付かないの?」と思われるような振る舞いをしている可能性は大です。ただ指摘されないだけ、で。
若者はつい目立つので、非難されたり、嘆かれたりしやすい存在です。
もっとおおらかな目で見守っていこうではあ~~りませんか。