オルタナティブ・ブログ > 田中淳子の”大人の学び”支援隊! >

人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

品のよい人とは・・・内田樹さんの本から

»

内田樹さんの本は好きでよく読みます。新しいものだけでなく、ずいぶん前に出たのも見つけては買って、楽しく読みます。

何が好きかというと、「ああ、そういう考え方があるのか」「そういう切り口があったのか」といつも「私には思いつかなかった」視点・捉え方を示してくれるからです。かなり厳しい文章を書かれるので、賛否両論ありそうですけれど、とにかく、私は好きな書き手のお一人です。

さて、そんな内田樹さんの『疲れすぎて眠れぬ夜のために』(角川文庫、平成19年初版)を読みました。初版(ハードカバー)は10年ほど前みたいです。

「ああ、そうかー」がたくさんあって、普段あまりやらない「ドッグイヤー(dog ear)=ページの角を折ること」を何ページにもいたしました。

そんな一つ。この一文。

「品のよい人というのは、節度を知る人のことです」

とあります。

前後を要約すると、こうなります。(以下のブロックは私が要約しています)

「人は生きていると様々なトラブルに遭遇する。たとえば、人を怒らせたり、自分が攻撃されたり。そういうリスクを最小限にとどめるのに有効なのは、”らしくふるまう”ことである」

「らしく」というのは、たとえば、「葬式に参列する場合」は「葬式にふさわしい恰好をすること」であって、「自分らしさ」と銘打って「派手なドレス」を着るようなことじゃない。「自分らしく」振る舞ったつもりでも参列者は、「ありゃなんだ?」と不必要に気分が乱されるし、下手すると、怒らせたりするかも知れない。そういうリスクをあえて取る必要はないだろう。もちろん、自分で判断すればよいことだけれど」

「節度を知る、とは、無用のトラブルを避けるための上手な方法」

「子供が”礼儀正しくしろ”としつけられるのも同じ理屈。子供からしたら、周囲は大きな人ばかりで、一番か弱い存在が子供。その子供がちゃんと礼儀正しくしていたら、誰も攻撃してこない。だから、それは、ディフェンスを固めることになり、リスク回避になるのだ。これも子供が「こどもらしく」することの意味」


と、まあ、そんなことが数ページにわたって書かれています。

そして、

「自己裁量で使用できる資源を使う優先順位とさじ加減をつねに意識している」ことが大事」
と言うのです。

なるほど、なるほど。

この”「らしく」生きる”はそれだけで1章を割いていて、およそ40P(文庫で)ありますので、興味ある方はお読みいただくとして、これを読んで、はた!と思ったことがあります。

新入社員の髪型や服装の指導で苦労している方がいます。

昔?の中学校みたいに、スカートは膝上○cmまで、靴下はふくらはぎのど真ん中で止める、など細かいルールで縛るのはどうかと思いますが、それでも、たとえば、接客業だったら「茶髪は禁止」とか「前髪が目にかからないように」とか、色々指導したい点はあります。

でも、若者の中には、それが受け入れられない人がいるのですね。

人事の方やOJTトレーナーは、「注意しても注意しても、本人が納得しないから、うまくいかない」「モトに戻ることがある」「だからといって、”ダメなものは駄目”なんていう指導は、現代の若者に通じないし」と困り果てている。

そんな時、よく「ビジネスマナーの教科書」に書いてあるような言い方、つまり、

○おしゃれは自分のため、身だしなみは他人のため

という言い方すら通じないことがあります。


でも、内田樹さんの言う「らしく振る舞う」ことは、「自分の被る可能性があるリスクを最小限にするものだ」というのは、すごくわかりやすい。

「あれはなんだ?」と他人に余計なエネルギーを使わせないためにも「節度を守ること」が大事で、そういう人が「品のよい人だ」というのは、「なるほどー」と思ったのでした。

(いや、これを言われても、件の若者には通じないかも知れませんが、指導する側のよりどころとしてわかりやすいと思ったのです)

服装を例に挙げましたけれど、言葉づかいや表現でも同じことが言えます。

「節度を守る」表現、言い回し、伝え方といったものもあるはず。

「礼儀正しくすることが結果的には自分のディフェンスを固めることになる」ってのは、本当にそうだと思う。

丁寧にしていたら、・・・誰に対しても丁寧に接していたら、必要以上に攻撃されることも突っ込まれることもない、と内田さんは書いているのです。

服装や言葉づかい、それ以外にあらゆる振る舞いで「節度を守る」ことは、「相手に余計なエネルギーを使わせないため」にも「自分が被るリスクを最小限にする」ためにも、大事なことなのだなあ、・・・。


・・・・としみじみと学んだ一冊でした。

他にも「DVはなぜダメなのか」とか「むかついという理由で相手に暴力をふるうという行為は、本当に利己的か」(←この解説は、膝を打ちます)とか、どれもこれも「へぇ」「ほぉ」が続々出てきて、また機会があれば、ここで紹介したいと思います。


Comment(2)