神戸の夜。
先日神戸に参りまして、「神戸と言えば、神戸牛でしょう!」と張り切って、ホテル内を徘徊したのですが、そりゃ、1万円くらいするわけで、「夜景の見える素敵なレストランで一人で神戸ステーキ」というのは、わびしいような気もして、だから、結局は、地面に近い、ふつうのレストランに入ったのでありました。
平日の18時過ぎ。まだ食事客は入っていない時間帯。たぶん、夕食では一番ノリだったようです。
「どれどれ?」 メニューを眺め、「これにしよう」と2000円はしない「フィレステーキ」ってのを注文しました。
すると、店員さん。
「こちらをお選びいただくと、ブッフェがついていますので、どうぞお取りください」とお店の中心部を指さしました。サラダ、ごはん、なぜか、カレー、デザート、ドリンクといった品ぞろえ。
ほほぉー、と思いきや、その後に続く言葉に一瞬、ひるみました。
「あちらのブッフェからお取りいただいたものは、食べ残した場合、有料になりますので、ご注意ください」
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「サラダ&その他バー」が「無料」でついているメニューだけれど、お皿に取りすぎて、残したら、その途端に「有料」だかんね! 宣言です。
ふむぅ。
「はい、わかりました」と苦笑いしつつ、立ち上がって、そのバーに近づくと、そのバーの台にも何枚もの貼り紙が。
「残したら有料です」「残したらお代をいただきます」
すごい。
「神戸牛ステーキだ!」るんるん♪ という気分から、一転して、
「残してはいけない、残してはいけない。食べられるだけ取るのだ」という義務感に心は支配されたのであります。
食事を楽しむよりも、「残してはいけない」ルールに頭の中が満たされてしまうという・・・。
サラダでも何でもこじんまりとお皿に取りました。
しかし、しかし、しかし。
サラダバーにおいてあるレタスは多分、昼からのもの。切れ端は茶色くなりつつある。
スティック野菜は表面が乾燥している。
ごはんは、さすがに炊き立てだったけれど、隣にあった味噌汁は鍋の内側にたくさんの輪の線がついていて、これまた昼からのものだとうかがわれる。
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ふむ。ふむ。
ここへ来て、再度考えてしまいました。
「残したら有料だかんね」「ちゃんと食べたら無料でサービスするかんね」というルールは、お店が設けたもので、ま、そりゃ、何をルールにしてもよいのだけれども、私に「残すな!」ルールを提示するということは、「味は保証する」が前提にないと成り立たないのではないだろうか?
「味は保証する」「新鮮さも保証する」「ちゃんとしたものを出している」。だからこそ、客が多めにとって残したりしちゃダメよん。というのであれば、まだフェアな気がする。
乾燥した野菜も煮詰まった味噌汁もとりあえず取ってしまったので、全部残さずいただきましたけれども。
こういうルールって最初からあったわけではないと思うんですね。
たぶん、無料ブッフェにしたところ、なんだかわからないけど、大量にとっちゃう人がいる。「食べきれないだろう」というほどお皿にてんこ盛りにして、挙句の果てに全部残して帰る。
店としては、残されてはたまらない。
食べられるだけ取ってくれないと、商売あがったりだ。
そんな風に考えた末のルールなのだろうと思います。
でも、でも、それは、本当にいいルールなんだろかなぁ?
少なくとも、すべてのリスクを客側に預けているわけですなぁ。(味の保証がないものに対する「食べきらなければならない」というプレッシャー、「残したら有料」というプレッシャー、そういうプレッシャーを感じ続けながらの食事時間・・・)
お肉はおいしかったんですね。焼き加減もよくて。だからよけいになんだかもったいない。
経営者が決めたルールなんでしょうねぇ。アルバイトと思しき店員さんは、そのルールを口にしているだけ。
ところで、こういうとき、つい専門でもあるので「言い方」を考えてしまうのですが、「残したら有料だかんね」より、「食べられる分をお取りくださいね」とか「何度でも取りに行けますから、ちょっとずつお取りになるといいですよ」とか「みなさん張り切っててんこ盛りにしちゃうんですけど、おなかの具合と相談しながらお取りになってねん」といった、何か別の言い方もあるのかなあ、などと思いました。もちろん、ルールは撤廃したうえで、やんわり「残さない方向へいざなう」表現。
・・・この話を翌日、お客様先の役員の方にしましたところ、
「そこ、流行ってました?」と開口一番に問われました。
「いえいえ、そうでもないような。とりあえず、私の後にお客さんは入ってきませんでした。」
「そうでしょうなぁ。人間って、今の目先の利益を考えて、大きな利益を見失うことってありますなあ。」
「確かに、そうかもしれませんね。そういえば、最近、食事処での相席って減りましたよね。」
「相席にして出来るだけ大勢を押し込み、短期的な利益は上がるかもしれないけれど、その結果窮屈な思いやら、場合によっては、客同士のトラブルを招いたりすることを考えたら、席をきちんと分けて、リピーターになってもらう、という大きな利益のほうが大事だ、ということに店側も気付いたってことでしょうなぁ」
「なるほどです」
小さい利益と大きな利益。
短期の利益と長期の利益。
短い付き合いと長い付き合い。
店のリスクと客のリスク。
大事なことは何か。
そんなことを考えた神戸での出来事でありました。
それにしても、ルールがあるだけで、ものすごくスリリングな食事になりますね。笑