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父親が働く背中

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ボクの父親は機械の整備をしています。10年前、それまで勤めていた自動車修理工場を定年退職し、妙高で農機具や除雪機の整備をするサービスを始めました。

妙高は2メートルを超える雪が積もる豪雪地域なので、各家庭に除雪機があります。この季節は、除雪機の修理依頼が数多く寄せられます。「俺が面倒を見ている除雪機は数百台ある」と、父親は言います。

そんな父親は、去年、肩の手術をして2ヶ月以上入院しました。体の自由はだいぶ利くようになりましたが、まだ全快ではありません。

秋までは仕事を休んでいましたが、毎年面倒を見ている除雪機の点検・修理の依頼は断るわけに行かず、なんとか仕事ができないものかと思っていたようです。時には、大きな部品をはずす力仕事もあるので、「お前の時間があるときだけでいいから手伝ってくれないか」と言われました。幸いボクは、以前自動車メーカーに勤めていて多少の経験があるので、時間の許す範囲で手伝うことで、この冬を乗り切ることを決めました。

「このボルトをはずして欲しい」「このベルトを交換して欲しい」―最初のころは、父親が言うように手を動かすだけでした。手伝いが終われば、自分の仕事に戻る、そんな感じでした。

雪が降るまではそれで良かったのですが、報道されているように、今年は雪がたくさん降りました。雪が降れば除雪機も壊れ、修理の電話がひっきりなし掛かってきます。父親一人の手では回らなくなることも少なくありません。

雪が降っているときに除雪機が使えない(=除雪ができない)のは、雪国の人にとっては致命的です。「明日1日、手伝ってくれないか」……このように言われるようになりました。ボクにも予定がありますが、時間の許す限り時間を割くようになりました。

きっと、多くの男性のみなさんもそうであるように、普段、父親と2人で過ごす時間などあまりありません。ましてや、話すこともありません。けれども、必然的に父親と2人で過ごし、話す時間が増えました。

「この部品をはずすためには、このボルトを先にはずすと取りやすい」「このエンジンはなぜかオイルを適量入れると調子が悪くなるからやや少なめに」マニュアルには書いてないであろう、長年の経験からくる技術者の知識と技術に触れました。

お客さんの所に一緒に行くこともありました。「この人は機械に詳しくないから、この以上は言わないほうがいい」「この人はクセがあるから、うまく話を合わせてほどほどに」「この人はきちんと内容を説明しないと納得しないから、交換した部品をとっておくんだ」父親なりのコミュニケーションの方法があることを知りました。

吹雪の中、突然の呼び出しで修理に出かけたこともありました。氷点下の中、薄い手袋で鉄の工具を持つと、手の感覚など簡単になくなります。そんな中でも「俺はこの手袋でちょうどいいけどなぁ」と言いながら、懸命に働く父親の姿を見ました。

ある日、もう、30年以上使ってるような機械の修理を頼まれました。

保守部品も流通していないので、「これはさすがに直せないなぁ」と言う父親。困るお客さん。「仕方ないから、部品を作るしかないなぁ」使えそうな部品を切断、溶接、加工して、元々のメーカー部品よりも丈夫なものを作ってしまいました。「これで、あと10年はいけるよ」。

修理が終わったとき、「こんなひどい壊れ方をしているのを直しちゃうなんてすごいね。技術者冥利に尽きるんじゃない?」と聞いたら、「別に、すごくなんかないよ。壊れたものを直す。それが、機械屋だよ」と答える父親の言葉を聞いて、ボクは、言葉にはうまくできない何かを感じました。

お客さんの生の声も聞きました。「みんな、竹内さんを頼りにしているんだから、早く体を直さなきゃ」「こんなのを修理しちゃうんだから、みんな、竹内さんに頼むわけだよ」地元の人から頼りにされていることを知りました。

機械屋という仕事は、毎日油にまみれて寒い中で働く、決して楽な仕事ではありません。もちろん、ビジネスモデルとかソーシャルなんとかみたいな話も、一切ありません。「そんな面倒なことはしたくない」どちらかといえば、そういう仕事なのかもしれません。

でも、ボクは、親父の仕事ぶりをみて、今の時代に誰かや何かに依存せず、自分の力で一生懸命働くことの強さを、さすがプロと思える技術力を、人と人とのつながり、たくさんのお客さんに信頼されている大切さを、すごく地味だけど、働くものとしての大事な生き方を学んだような気がします。

「お父さんってさ、結構格好いいよ」

本人の前ではこんな恥ずかしいことはもちろん言えません。それが、父親と息子ってものです。
(そういうときこそ言葉にするのが大切だよ?、しっ、うるさい(笑))

そんな父親は、今日も酒を飲んで寝てしまいました。

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