楽観的に考えるとうまくいく ──説明スタイル
ITエンジニアには悲観的な人が多い
システム開発プロジェクトは不幸の連続だ。仕様が変わる、スケジュールが短縮される、人が足りないなど、プロジェクトの進捗を阻む出来事が頻繁に発生する。そのような出来事を数多く経験しているため、私たちITエンジニアは悲観的な人間が多いように思う。私自身もかなり悲観的な人間だ。新しい開発プロジェクトに参画するときは「きっと残業が多いんだろうな」と推測するし、新しい人がプロジェクトに加わると聞いても「優秀な人が来るわけないよな」と邪推してしまう。
悲観的であれば先を考えて行動できたり危険を避けることができたりできるので、決して悪いものではないと思う。しかし、悲観的になり過ぎるのは問題だ。仮に、未来を予測しても必ずしもその通りになるとは限らない。参画する新しいプロジェクトについて悲観的に考えてもプロジェクトが変わるわけではない。新しくやってくるメンバーについて悲観的に考えてもメンバーのスキルや人柄が変わるわけではない。であれば、将来については楽観的に考える方が得策ではないだろうか。また、悲観的思考は仕事の生産性を落としたり、心身の健康を害したりするといわれている。必要のない悲観的思考はやめるべきだ。
楽観的に考えるクセをつける
アメリカの心理学者マーティン・セリグマンによると、楽観的な人間には成功者が多いとのことだ。セールスマン、スポーツ選手、学生など、成績が高い人ほど楽観的思考を持つといわれている。楽観的思考であれば笑顔でいられる。笑顔であれば人が集まってくる。人が集まればいい知恵がうまれる。また、楽観的思考であれば悩まない。悩まなければ健康でいられる。健康であれば楽しむことができる。つまり、楽観的思考は自分や周囲の環境を好転させ、良い循環を生み出すことができるのだ。良い循環を生む出すことができれば、結果として成功を収めることができるにちがいない。良い循環を作るためには悲観的思考ではなく、楽観的思考を持つことだ。
とはいえ悲観的思考が身についてしまった人間が楽観的思考を持つのはかんたんなことではない。どのようにすればよいだろうか。セリグマンによると、人が持つ説明スタイルによって、人は悲観的になったり楽観的になったりするようだ。であれば、説明スタイルを変えることで、楽観的に考えるクセをつければよい。説明スタイルとは起こった出来事の永続性、普遍性、個人度のことだ。以下、詳しく説明していこう。
永続性とは、出来事が「永続的」か、あるいは「一時的」かということだ。何かあったときに「この状態がずっと続く」と考えている場合は永続的にとらえている。一方、「この状態はすぐ終わる」と考えている場合は一時的にとらえている。
普遍性とは、出来事が「普遍的」か、あるいは「限定的」かということだ。何かあったときに「いつもこうなる」と考えている場合は普遍的にとらえている。一方、「たまたまこうなったのだ」と考えている場合は限定的にとらえている。
個人度は、出来事が「内向的」か、あるいは「外向的」かということだ。良い出来事があったときに「自分のおかげ」と考えたり、悪い出来事があったときに「自分のせい」と考えている場合は内向的にとらえている。一方、「自分の力ではない」、「条件(環境)がよかった」と考えている場合は外向的にとらえている。
楽観的な人の説明スタイル
悲観的な人は、悪い出来事が発生したときは「私が悪いのだ。この状況はずっと続くだろう。このせいで、私は何をやってもうまくいかないだろう」と考える。良い出来事が発生したときは「たまたま今回は運がよくうまくいったが、この状況は長くは続かない」と考える。悪い出来事があったときは永続的、普遍的、内向的な説明スタイルになり、良い出来事があったときは一時的、限定的、外向的な説明スタイルになるのだ。
一方、楽観的な人は、悪い出来事が発生したときは「状況がそうだっただけだ。この状態はすぐに終わる。それに人生にはほかにもいろいろ楽しいことがある」と考える。良い出来事が発生したときは「自分には力がある。この状況は長く続くだろう。そしてこの先もまた良いことがあるだろう」と考える。悪い出来事があったとき一時的、限定的、外向的な説明スタイルになり、良い出来事があったときは永続的、普遍的、内向的な説明スタイルになるのだ。
以上の内容について下記に表でまとめてみた。
楽観的思考 | 悲観的思考 | ||||
観点 | 良い出来事 | 悪い出来事 | 良い出来事 | 悪い出来事 | |
永続性 | 永続的 | ● | ● | ||
一時的 | ● | ● | |||
普遍性 | 普遍的 | ● | ● | ||
限定的 | ● | ● | |||
個人度 | 内向的 | ● | ● | ||
外向的 | ● | ● |
悲観的思考が強い人に、いきなり楽観的になれといっても難しい。永続性、普遍性、個人度のうち、変えやすいところから変えてみるとよいだろう。例えば、悪い出来事が起きたら「これは自分自身が原因ではない。自分以外の誰であっても同じ結果になった」、「大変なことになったが、この苦しみが一生続くわけではない」、「今回はこのような結果になったが、いつも同じ結果になるわけではない」というように、楽観的な人が考えるスタイルを真似すれば良いのだ。
下記に『楽観的説明スタイルを作る言い聞かせ』を記載するので、自分に言い聞かせてみよう。こんなもので楽観的になるものか!? と思うかもしれないが、繰り返して口にしているうちに自然と楽観的思考ができるようになる。
『楽観的説明スタイルを作る言い聞かせ』 | |||||||||||||
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ところで、悪い出来事を「自分のせいではない」と考えるのは楽観的思考だと説明したのだが、ここで言いたいのは、自分の力でどうしようもできないことを自分の責任と考えてはいけないということであり、何も努力をせずにできなかった原因から目を背けろということではない。テスト前に勉強もせずに落第したら、それは自分自身の責任である。くれぐれも楽観的と無責任を混同しないように。
最後に、セリグマンの『特性診断テスト』*1を載せたのでチェックしてみよう。
(*1 セリグマン著「オプティミストはなぜ成功するか」より抜粋)
説明スタイルについて詳しく知りたい人は、マーティン・セリグマン著の『オプティミストはなぜ成功するか』をお読み下さい。