自分の経験から決めつけてはいけない─人の話を聴いていますか?(3)
人の話を聴くのはむずかしい。特にむずかしいのは、どんな言葉で応答するかだ。聞き手の応答のしかたによって、話し手の気持ちは大きく変化する。聞き手がうまく応答できれば話し手の気持ちは癒され、まずい応答をすれば話し手は不愉快になる。では、悩みを打ち明ける話し手に対して、聞き手はどのような言葉を投げればよいだろうか。「人の話を聴いていますか?」の第3回目。(第1回~第6回の記事は下記をご覧ください)
(1) 目の前にいる相手の気持ちに寄り添おう
(2) 「質問の名を借りた命令」が相手を追い詰める
(3) 自分の経験から決めつけてはいけない
(4) 問題を解決してはいけない
(5) 相手を客観的に評価してはいけない
(6) 自分の話をしてはいけない
自分の経験から決めつけてしまう
下記の応答例を見てみよう。
相談者「最近、朝起きるのがつらいんですよ」
聞き手「それは年齢的に衰えているからですよ」
聞き手は起きるのがつらい原因は「年齢的な衰え」だと指摘している。自身の体験から、年齢を重ねるにつれ起きることがつらくなるという経験則があるのかもしれない。そして相談者が朝起きるのがつらくなる年齢になっていることから、年齢的な衰えと判断したのだろう。また、その経験則を「知らない相手に教えてあげよう」という気持ちがわき起こったのだろう。その結果、このような応答をしたのだと考えられる。
ひとりひとり特別な問題なのだ
しかし、このような応答では相談者は自分の悩みを軽く扱われたという気持ちになってしまう。自分の悩みは特別な問題だ。今までに経験したことのないつらい問題だ。それを「年齢的な衰え」という世間一般の言葉で括られてしまうことに残念な気持ちになってしまう。たしかに年齢的な問題なのかもしれない。しかし、相談者が伝えたかったのは、経験したことがないつらさに苦しんでいるということなのだ。
相談者「最近、朝起きるのがツラいんですよ」
聞き手「ツラいのですね。どれくらいツラいのですか?」
この応答であれば、相談者の悩みの大きさに関心を寄せていることが伝わる。どこにでもよくある問題ではなく、その人にとって大きな問題で、それがどれくらい大きな問題なのか、どれくらいつらい悩みなのかに焦点を当てていることが伝わっている。このような応答であれば相談者も気分よく話を続けることができる。
聞き手は話し手の問題を特別な問題として扱わなければならない。どこにでもよくある問題だと決めつけてはいけないのだ。