「質問の名を借りた命令」が相手を追い詰める─人の話を聴いていますか?(2)
人の話を聴くのはむずかしい。特にむずかしいのは、どんな言葉で応答するかだ。聞き手の応答のしかたによって、話し手の気持ちは大きく変化する。聞き手がうまく応答できれば話し手の気持ちは癒され、まずい応答をすれば話し手は不愉快になる。では、悩みを打ち明ける話し手に対して、聞き手はどのような言葉を投げればよいだろうか。「人の話を聴いていますか?」の第2回目。(第1回~第6回の記事は下記をご覧ください)
(1) 目の前にいる相手の気持ちに寄り添おう
(2) 「質問の名を借りた命令」が相手を追い詰める
(3) 自分の経験から決めつけてはいけない
(4) 問題を解決してはいけない
(5) 相手を客観的に評価してはいけない
(6) 自分の話をしてはいけない
質問の名を借りた命令
下記の応答例を見てみよう。
相談者「職場の同僚とうまくいかなくて......」
聞き手「上司に相談したのですか?」
聞き手の言葉は疑問形で表現されているので、相手に状況を詳しく尋ねているように聞こえるが、真意はどうだろうか?
人に指示するとき疑問形で表現することがある。疑問形にすることで語気を弱めたり婉曲的に表現するためだ。
「~しなさい」
と表現すると上から目線に感じたり、いかにも命令という形になってしまう。このような表現だと相手に拒否反応を起こしてしまったり反感を買われたりすることがある。一方、
「~したらどうですか?」
と表現すると相手に対する圧迫感が少なくなる。このような表現であれば相手も受け取りやすくなる。
しかし、その表現の裏に隠れている意図は依然として命令であることには変わりない。質問をしているが、発信した本人は「はい」を選択することを期待しているはずだ。受け取った人にとっては「いいえ」を選択するのは勇気がいることだ。立場が下の人間であれば、必然的に「はい」しか選べないであろう。質問の形を取っているが、その真意は命令なのだ。
人の相談に乗っている時にこの「質問の名を借りた命令」を使ってしまうことは多い。特に相談者が年下であったり、部下であったりすると指示をしてしまいがちになる。
最初の相談例では「上司に相談したのですか?」とあるが、その真意は「上司に相談しなさい」と理解できる。
指示したくなってもグッと堪らえよう
しかし、相談している本人は解決策がほしいわけでもなく、指示をしてほしいわけでもない。自分の話をじっくり聞いて、共感してくれることを望んでいるのだ。もし指示をしてしまったら、相談者は「自分のことをダメな人間だと思っているのだ。だから指示をして自分を正そうと考えているのだ」と受け取ってしまう。指示することは相談者の気持ちを傷つける結果となってしまう。
人の相談に乗っている時、「質問が相手を追い込むことがある」ということを意識しよう。