同僚や部下のメンタルヘルス不調のサインを見つける ──事例性
同僚が出社しない......
ある日、同僚が常駐先の現場に出社しなかった。いつもならメールで連絡があるはずなのに、その日は連絡が来なかった。こちらからメールをしても返信が来ない。おかしいなと思いつつも仕事が忙しくてそのままにしておいたら、夜になって会社から連絡があった。メンタルヘルス不調のため長期的に休むことになったと聞かされた。
突然の報せに驚いたと同時に、なぜ早く気づいてあげられなかったのだろうと申し訳ない気持ちになった。同僚は少しずつ体調を崩しながらも、それをまわりには見せないように努めていたのだ。そばで仕事をしていたのに、わたしはその苦しみに気づかずにいたのだ。
メンタルヘルス不調は突然やってくる!?
わたしたちの業界ではメンタルヘルス不調になる人が多く、突然、会社に来れなくなってしまう人がいる。少しずつ体調を崩しているはずなのだが、本人は無理して表情や態度に出さないように努めているので、まわりの人には気づかれにくくなってしまう。そのため、突然「その日」が来てしまうのだ。
もし同僚がメンタルヘルス不調になりそうだとわかれば何かできたかもしれない。何か声をかけたり、仕事を手伝ったりすることができたはずだ。しかし突然会社に来なくなってしまってからでは手遅れだ。
「いつもと違う」様子に気づく
日頃から同僚や部下の調子が悪くなる兆候を感じ取ることが大切だ。そのためには「事例性」という視点で観察することが必要だ。事例性とは「いつもと違う」発言、態度、行動のことである。例えば、「いつもは冷静なのに、最近は感情的になることが多くなった」、「いつもは上司に忠実なのに、最近は命令に従わなくなった」、「いつも遅れずに出社するのに、最近は午前中に来なくなった」などである。
このときに注意しなければならないのは、他の人との違いを見つけることではないということだ。「普通の人なら遅刻はしないが、あいつは遅刻ばかりする」、「多くのひとは怒らないが、あいつはすぐ怒る」というのは個人の特徴であって、事例性とはいわない。
事例性(=「いつもと違う」)の例
わたしが今までのプロジェクトでメンタルヘルス不調によって突然来れなくなった人の予兆(当時は予兆としては認識できていなかったが、後になって思い当たる言動、態度、行動)には以下のようなものがある。
例1 チームリーダーのAさん
Aさんは20名ほどのメンバーを抱えるチームの責任者。チームを代表してお客さんに説明や報告をする機会が多く、ほぼ毎朝、お客さんと会議を行っていた。しかし、大事な会議であるにもかかわらず、連絡もなしに会議に来ないということが少しずつ増えてきた。最初は「Aさんでも遅刻することがあるんですね」とまわりも笑っていたのだが、少しずつ頻度が多くなっていった。そしてある日を境に会社に来なくなってしまった。
例2 ベンダーマネジメントのBさん
Bさんは元請け会社のSEで、多くの協力会社メンバーに指示を出す立場にあった。しかし、協力会社との考え方や文化の違いから、うまく指示を出すことができなかったり、協力会社メンバーが指示通り動かなかったりすることがたびたびあった。普段なら根気よくていねいに相手に説明をする人柄なのだが、ある時期から相手を怒鳴ったり、電話が終わると受話器を叩きつけたりするようになった。そのような状態が1か月くらい続き、その後、長期の休職をしてしまった。
例3 プロジェクトマネージャーのCさん
前任のプロジェクトマネージャーに変わって新しくプロジェクトのマネージャーになったCさん。いつも素敵な笑顔が印象的で、誰もがその人がらに惹かれていた。しかし、新任であるためわからないことや難しいことが多く、その魅力的な笑顔を見る機会が徐々に減っていった。やがて、人と話す時に手や唇が震えるようになり明らかに緊張している様子が伺える。徐々に笑顔がなくなり顔色も悪くなり、とうとう会社に来なくなってしまった。その後、どうなったかわからない。
「いつもと違う」一覧
以下に、『職場における心の健康づくり(厚生労働省)』にある「いつもと違う様子」の一覧を記すので、同僚や部下のメンタルヘルス不調の予兆の参考にしてほしい。
○ 遅刻、早退、欠勤が増える
○ 休みの連絡がない(無断欠勤がある)
○ 残業、休日出勤が不釣合いに増える
○ 仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する
○ 業務の結果がなかなかでてこない
○ 報告や相談、職場での会話がなくなる(あるいはその逆)
○ 表情に活気がなく、動作にも元気がない(あるいはその逆)
○ 不自然な言動が目立つ
○ ミスや事故が目立つ
○ 服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする