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通信業界特殊偵察部隊のモノゴトの見方、見え方、考え方

Beyond 5Gという素敵な言い回しが表現する関係各方面の深い悩みに思いを馳せてみる

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最近よく聞くBeyond 5Gと、その周辺の話。

実はかれこれ10年位はそれほど遠くない所にいるので色々思うところはあるんですが、そして通信業界に足を突っ込んだ翌年の2005年くらいから数年前までずっと通信事業は無線までを含めた伝送路(通称として土管と呼んでいたりしました)とその土管の中を流れる(=使われる)各種サービスの分離、言い方を変えるとレイヤーで言うところの上下分離するべきだ論を持ってたんですが、最近は「それは無理だろうな」って思い始めたりしています。

予備知識なしに下手にかいつまんで話をすると逆に誤解を受けるので細かくは説明はしませんが、鉄塔を含めた物理的に無線機とアンテナを設置する場や施設の共用は条件が揃えばアリだし今でも有るのですが、問題はその先です。百歩譲ってRAN(Radio Area Network:通信サービスネットワークの中の無線周りの事でLocal Area Networkとは次元が違う概念です)回りの共用はあるかもしれないとは思っていますが、その直ぐ後ろからは全てがサービス品目と品質に直結するので、少なくともMNOが何かしら共用したり統合したりとかは個別のチューニングを否定することになるので無理だろうなと改めて思い始めています。

各方面にご迷惑をかけない範囲でのお話ですが

因みにローミングやMVNOで貸し出される設備と提供されるサービスの内容や状況については貸出元と借りる事業者との間の契約次第ですからなんとも言えないですけれど、有る一定の状況は担保しますが自前でMNOが運用している内容や細かいチューニングがローミングやMVNOで入ってくるユーザーに対してどこまで有効かなどは一概には言えない話ですし、これは今でもそんな状況ではあります。

そんな通信サービス、ことに無線通信サービスのためのネットワークは今は4Gと5Gが「過渡的に共存」していて、それが今後5Gに集約され、更にはBeyond 5Gの世界へと変わっていくという話が出るわけですが、色んな方がモヤッているように実は5Gとそれ以降でなにかブレイクスルーがあるかと言う話を具体的な夢を持って話できる人って、居ないんですよね。正確に言うと4Gと5Gの違いの部分でもそれは結構あって、実際のところCore Networkまで全部見ると4Gと5Gって全然発想そのものの次元が違うというレベルで別物なんですが、その先の絵が実は無いんですよね。

Beyond 5Gじゃないと出来ないことの絵を誰も描けない。
Beyond 5Gが必要である或いは無いと困る世界という絵を誰も描けない。

うーん

もちろん関係各方面の色んな方が絵を描いていらっしゃいますが

いや、細かく言うとあるんです。もちろんあります。

遠隔医療とか映像によるコミュニケーションとかVRやらERやらで密なコミュニケーションが実現されるとか、4Gのサービスの始まった初期の頃ですらあった夢は今でも健在です。それらが不自由なく出来ることになればきっと色々楽しいんだとは思うんですが、例えば2.5G帯より上の5G帯のWiFiって全然飛ばないのにそれより上の更に遠くには飛ばないサブミリ波とかで十分な高速度を出すエリアをガッチリ作るために5メートルおきに基地局のアンテナが並ぶ世界を想像するとあまり楽しくない気もします。

更にその先にはそのインフラを誰が作るんでしょとか、誰が運用するんでしょとかまで考えてしまうのは業界の中にいるから仕方ないんですけれど、それが見当たらないのは私の観測範囲が狭すぎるからであれば良いなと思っています。でもどうなんでしょうね。

特に無線周りは日本語でしか実施されない試験の結果取得できる国家資格(アマチュア無線資格じゃないです)が必要だったりすることも有るんですけれど。

ちょっとだけ無線周りのお話をすると

細かい話をすると例えば本当に高速な無線通信のためには高い周波数帯の広い帯域を使える非常に小さな無線機のセルを高密度で作る(=5Ghz帯のWiFiのAPをいっぱい置くみたいな感じで理解してもらってもいいです)のが必要で、3.xGhzとか6Ghz帯で帯域広く取るぞとか話があるんですが皆さん1.9Ghz帯で高度な無線のビーム制御を普通にやっていたPHSがどれだけ繋がらないと言われてたか覚えてますか?

あるいはNSA 5G (Non Stand Alone 5G=なんちゃって5Gですね) とよぶ4Gの帯域を割譲して使うのはとりあえずエリアを広げるためには良いことだし、技術的にも既に限界に来てる4Gを早く止めるためにも個人的には必要だと思ってるんですが、5Gの本命の周波数より低いところであり、SA(Stand Alone 5G=5G専用)で使う周波数帯の電波よりも遥かに遠く迄届いてしまいます。

すると何が起きるか。

細かく説明し始めるときりがないですが、例えば遠くのNSA 5Gを電波が弱くなっても見え続けていて握り直しのしきい値を下回ってくれず近くの高い周波数のSA 5Gになかなか切り替わってくれないとか、屋内はLTEの屋内局やレピータしかない環境が殆どなのに屋外の低い周波数で飛んでくるNSA 5Gが見えてしまうので全然駄目なショッピングモールみたいな施設が普通に有るとか、実は色々起きますし、今でも起きてます。

ただ、そのまま放置するわけにも行かないので、事業者側としては設備の変更や更新、あるいは各種のパラメータ設定のチューニングでなんとかするわけですが、実はここで問題が出てきます。

共用設備でどこまで各事業者のチューニングが許容されるのか?

私自身が責任を持って出来る話ではないことは百も承知の上なのですが、百歩譲ってと例を出したRAN周りですら事業者各社ともエリア計画や置局設計のための方針、更には使っている機器のメーカーや運用方法などの違いから一様ではありません。更にコアネットワークの構成や運用の為の各機能の組み合わせとそこに関与するベンダーなど、恐らく全ての条件が違います。

乱暴に言うとAWSとGoogleとAzureの設備を全部一括して運用してそれぞれの看板でサービスする主体を作りましょうというのに近いとすら思えるレベルの困難さです。

これが4Gのネットワークを作り始めた頃であれば各機能が全部独立した筐体で動く機能の集合体だったのでまだ分かりやすかったのですが、5G以降は全部マイクロサービスの世界です。その意味で言うとセキュリティとかの話を全部忘れてよければ、要は世界中のどこで動こうが関係ないという話になります。当然ですが物理的な保守でなければ機能が動いているデータセンターに行く必要はありませんから、オペレーションや各種サポートの人間は世界中何処にいても良いという、普通のクラウドベースのサービスと同じ世界だったりします。

その場合、必要な機能、機能間のやりとりのプロトコルなどは規格上決まってる上で動くんですが、当然どの機能をどこまで必要とするのか何をどう動かすのか、どの機能をどう組み合わせて自社のサービスとしてユーザーに提供するのかは全ての事業者で異なります。当然提供するためのパラメータや運用にまつわる保守レベルの要求基準や要求品質も異なります。それら全てが事業者の主体性の問題であり、共用化することはそれらを否定することにもなりかねません。

そうです。
統合なんて最早無理なんですよね。

じゃあどうなるのって?
マジわからんのですよ

そして情報セキュリティとか

あと、昨今は海外の関連会社や関係会社での情報漏洩とか不適切な情報の扱いなどの事例も踏まえつつ国際間の個人情報の扱いを含めた情報セキュリティ関連の関係からオフショアオペレーションに強烈な壁が立ちつつあるケースが増えていて、AIだ何だで人材が足りんとかいう以前にそれらが使うはずのインフラが早晩維持できなくなる楽しい状況とかあったりするんですが、世の中的にはあまり話題にされないんで静かにしてはいます。

ただ、じゃぁAIでやればいいじゃんというレベルの話には少なくとも5年10年先の段階ではならないですね。もちろんパターン化出来るものはあるにせよ、全体として見た時の構成要素が多すぎてなにか起きた時の自動判別すら非常に困難だし、事象のサービス全体に対する影響を判断するのも事業者としての「人の判断」が必要なので、AIに出来るのは何かしら仕込まれた中での判断材料を提供するところまでで、最後は人が動く話。

やればできる?

少なくとも5Gの通信サービスを構成する機能は要はマイクロサービスで動く星の数ほどあるアプリの集合体であって、当然ですがそれらはROMに焼かれて固定されたものではありません、バグも出ればハングアップもするし機能追加やバージョンアップもある生き物としてのソフトウェアの集合体で、それらが生き物としてのネットワークを動かしているわけです。
100個の想定障害対応マニュアル作っても明日は101個目の例外事象が起きる世界。
その運用を全部自動化統合運用しようなどと考える人も、そういうデータセンターを持とうとしている企業すらも世界中の何処にもないですよ。

なお、そのインフラオペレーションの世界でいうとオフショアオペレーションが難しくなる局面と国内で確保できるスキルセットの質や量を考えた場合、更には自分自身の拙い経験を踏まえて考えた場合、「その場所」は国内にあったとしても「その場所」での共通言語は早晩英語になるんじゃないかとかも思っていたりしています。

ただそこでは多分RとLの発音の違いが判る判らないとか、小さい頃から英語やってないと駄目なんですよ上手く喋れないなら黙っててくださいみたいなこと言う人はあまり関係ないとは思ってます。それこそ自動翻訳とかが使えるでしょうし、更にいうと、そもそも「その場所」での登場人物各位はアメリカだろうがイギリスだろうがネイティブに英語しか話せない人はむしろ少数派になるような予感がしますし。

といった混沌とした世界を何となく想像してるんですが、でも私自身よくよく考えるとその世の中の行く末を気にする前に自分の余命とかの行く末の心配をしたほうが良いのは理解していますが。

---iwa

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