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通信業界特殊偵察部隊のモノゴトの見方、見え方、考え方

ワイヤレスブロードバンドに纏わる神話について

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あまり通信ネタについては書かないようにしているんですが・・・と書きつつ時々書き始めている今日この頃、TwitterのTL見ててちょっと気になったことを一つ。何かって?いや、いわゆるワイヤレスブロードバンドに纏わる神話。

何それ?

いや、ワイヤレスのインフラのためには固定系のインフラが必要だというのが殆ど考慮されていないという話。

 

みんな無線の部分にしか目が行かないのは仕方ないのだけれど

色んな規格があります。XGP、WiMAX、LTE、HSPA+、WiBroなどなど・・・ で、それぞれ長所短所があり、向き不向きがあるわけなんで、実は一概に今後はこの規格で決まり!みたいなものってのは本当はありません。そもそも規格は規格で、最終的に事業者がどのようなサービスに仕立てるか、どんな仕様でサービスをするかっていうのが問題なんですが、そこに焦点が当たることってのは余り無くて、「要はどの規格?」論のほうが判りやすいのでその部分だけがハイライトされる傾向があります。

本質的に言うとどの規格であろうが使える帯域幅と圧縮方式の掛け算で(滅茶苦茶に乱暴ですが)サービスとして実装できる速度ってのが計算できちゃったりします。更には無線の制御方法によってどんな状況でどれくらい使えるものになるのかってのも結構わかるんですが、この部分はどちらかと言うと無線屋の仕事で一般的に話を理解してもらうのにはそれなりに時間をかけて説明する必要があります。

ただ、その話はさておき、とりあえずココで話のお題にしたいのが、無線の規格はそもそも基地局から先の話であって、実は別のところに強烈なボトルネックがあるんで、たとえば世界的に見て同じ「無線」規格であってもサービスの実装が大きく異なることがあるって言う話です。

 

無線サービスのための基地局に至る回線があるんですよ。必ず。

一般的に利用できる無線を使うシステムやサービスは乱暴に言うとラスト1マイルのケーブルを無くす事が一番大きな存在意義。マイクロ回線や衛星を使った中継回線の場合にはそれとは意味合いが違うので、ちょっと議論から除外。

で、実はバックボーンというかネットワークのセンターから電波を吹く基地局までの回線が別に必要になります。この部分に何を使えるかっていうのは通信規格自体や使われる通信機器によってある程度の違いはありますが、間違いないのは必ず基地局に至る固定形の回線が必要なんです。

で、それにどんな問題があるかって?

 

そこの選択、そしてそこで出る速度がボトルネックになるという罠

日本の場合、おそらく世界的に見ても非常によく管理された品質の良い固定回線が手に入ります。安いか高いかは別にして、間違いなくそういうものがあるんです。もちろん場所によって光を引けない地域とかDSL系でも駄目だとか言う地域、いわゆるデジタルデバイド地域は存在しますが、平均すると圧倒的に品質の良い回線が手に入ります。

ということで全国規模で見ても比較的広い地域で無線通信事業者が提供するスペックでのサービスを提供しやすい環境があります。

ただ世界的に見ると、たとえばアメリカあたりでも全土で品質の良い回線が手に入ることは少なく、そのアタリのバランスなどを考えて未だにいわゆる3GではなくGSM (2G) のサービスが広く残っているんですね。(ちょっと乱暴な言い方だけど) 因みに統計的に見ても、非常に大きな割合で全世界のケータイのサービスユーザーが3GではなくGSMのサービスのユーザーだったりします。それも簡単に3Gに移行なんて出来ない状況で動いているんですよ。

たとえばiPhoneがそもそも3Gをサポートしていなかったのはそういった理由もあるわけですが、採用しているデータの圧縮率などを考えると日本と較べた場合に信じられないくらい低速のサービスが提供されています。ましてや、たとえば開発途上国アタリを考えると・・・

 

品質の良い固定回線を用意できない地域や国では、無線でのブロードバンドの提供もできないという罠

固定系のインフラの整備が大変な地域だからこそ無線が生きる論。これはある意味正しいです。大変度合いが問題ですが、そもそも整備できない状況だと無線の基地局への回線すら用意できないことになりますから論外となります。次にある程度の整備は出来るが、たとえばFTTHのように各家庭にまで光を這わせるようなことは無理、という状況であれば、サービス提供のための基地局に繋がるアクセス回線を何とか確保して・・・というコトは可能かもしれません。

ただ、たとえば非常に人口密度の低い地域などでは間をに電線なり光なりを這わせてゆくのは大変な仕事になるので、勢い途中の部分をパラボラ対向の無線で飛ばしたりしちゃいます。日本でも無くはないのですが、たとえば東南アジアなどに行くと、郊外に立っている巨大な携帯電話のアンテナ鉄塔にはかなりの割合で真横に向いたパラボラアンテナが付いてます。

そして、そのパラボラアンテナがどの程度の帯域幅で使えるどいういう無線規格で動いているかが問題。そう。そこで充分に速度が出ないとその先の無線でどれほど早く通信できる状態を作っても駄目なんですね。

ボトルネック。

因みにパラボラ対向での無線の場合、多分皆さんが想像するほどには速度は出ないことが多いです。それが、たとえば音声通話であれば・・・3Gあたりでも強烈に圧縮して非常に低いビットレートで送りますからそれなりの回線数を収容することは出来ます。たとえば16Kbpsとか8Kbpsとかを1回線でつかって、それが100回線分収容するために必要な途中の帯域幅は?なんてのもとりあえず乱暴には計算できます。せいぜい一桁Mbps出ればOKですね。

でも、そこでたとえば下り10Mbpsなんて速度を出そうとしたとき、基地局に伸びる回線がそれに見合わない低速の回線だったら?

アウトです。ということで、そんなサービスは提供できません。

 

システムはバランス。通信サービスもバランス。その地域、その国ごとでのバランス。

LANの中で手元はGiga bitのルーターが動いていても、たとえばとなりのルーターとの間に挟まったHubが100Mbps上限のものだとパフォーマンスでないですよね。全体でバランスが取れていないと駄目。これは通信事業者も同じ。無線の部分で見ると、無線区間で非常に早い速度を出せても、ソコに至る回線が細いと駄目。そもそも固定回線の整備が出来ない状況であれば無線のインフラを整備するのも無理。東南アジア?アフリカ諸国?中南米?それぞれみんな大変です。

無線の高速インフラを提供するためには、高速かつ品質の高い固定回線が必要。

このことを考えたとき、実は日本の通信サービス自体が世界的に見て・・・少なくともアジア全体で見たときにある部分突出したガラパゴス状態になってるんですが、それを忘れて各国の無線ブロードバンドの普及状況がどうのこうの、どの規格がどの国のどの事業者で採用されてどうのこうの、更にはどんな端末が今後出てくるからどうのこうのとか、更に更にクラウド環境の進展でシンクライアントが無線環境で使えるための通信資源がどうのこうの・・・(あ、ここは注釈が必要ですが、日本以外の国で企画されたものは比較的低速で動くものが前提になるはずで、もともと開発要件もそのレベルに合わせてあるはずですから日本での要求とは乖離する可能性がある、と言う意味です)といった議論自体が的を外すことになりかねません。

たとえばアジアで見たときに韓国はどうよとか中国は違うんじゃないのとか個別に色々と話があるのはもちろん理解していますが、乱暴ではあっても平均的なところを俯瞰する必要があるんじゃないかな?と通信屋、というか無線屋は思うんです。

 

※因みにホボ世界中の国や地域でもちろん固定系も無線系も夫々の形でサービスされていますが、誰がどうやってその地域にそのシステムを導入したか、どうやって決められたか、(多くの場合国営もしくはそれに順ずる形をとってるトコロや海外から進出したトコロも含めて)事業者はどういう立場を取っているのか、メーカーや各種のサプライヤーはどのように立ち回っているのか、事業として成り立つためにどうしてるか、更にはそもそもの規格を誰がどのようにしてどこで決めているのかといった深い話になると大変なので、ココではあえて触れません。

Comment(2)

コメント

湾岸ミッドナイトという漫画のセリフを思い出しました。細かくは覚えていないんですが、「エンジンのパワーを上げたらそれに合わせて足回りも良くしたくなる。足回りを良くするとエンジンをパワーアップしたくなる。」というような言葉です。「最後はエンジンブローだ。」と続くはずです(笑)。

yoheiさん、コメントありがとうございます。
 
いや、オーバーレブは駄目です~。そこはかつてのアイルトン・セナのようにギリギリのところまで使い切るってので押さえとかないと。なにしろエンジンブロックを壊してしまうと取り返しが付かないですからねぇ(笑
 
因みに「いや~、電気系統がね~」って話しだすと、これまたかつての片山右京みたいですが(笑

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