オルタナティブ・ブログ > イメージ AndAlso ロジック >

ヴィジュアル、サウンド、テキスト、コードの間を彷徨いながら、感じたこと考えたことを綴ります。

歌を忘れる恐怖の先に・・・ギタリストが手を負傷するということ。~6弦のカナリア・エピソード(11)~

»

episode11TitleImage600_re.png

2019年4月。ギタリスト・大関慶治氏の人生を大きく変える事故が起こった。結成30年記念ライブを目前にして、両手を負傷したのだ。
その怪我を引き起こしたのは、香害だった。
それまでに、何があったのか。そのとき、何があったのか。

2010年、海外製柔軟剤、上陸。重なった、DOTS。

大関が、身体の異変に気付いたのは、2010年頃。
きっかけは、誰もがその名を知る、強い香りの、海外製の柔軟剤だった。

「あれが発端だとおもう。でも、そのときは、まだ軽度だった。
2018年以降の曝露に比べれば、その柔軟剤なんて可愛いもの。今は、臭いどころではなく、痺れたり倒れたりするので。
ここ数年に発売された製品は、100倍ぐらい強烈だとおもう。」

その年、職場の健康診断を受診した。X線検査で、影を指摘された。結核痕だった。指定された病院を受診した。
自覚症状は何もない。結果はといえば、「痰からも胃液からも結核菌は発見されなかった。」
だが、ルールに則って、DOTSの対象となったという。
DOTS(Directly Observed Treatment Short Course)は、結核抑圧を目的として構築されたシステムだ。結核治療薬は、結核菌の耐性化を防ぐためにも、指定された薬剤を、指定された期間、服用する必要があるとされる。そのため、飲み忘れや自己判断での中断を防ぐ方法がシステム化されているのだ。

「1か月半、4種類、その後、3種類。トータル半年服薬するしかなかった。」

服薬を始めてすぐ、体臭に異変が現れた。頭髪から、薬の甘いニオイとシャンプーのニオイが混ざって立ち昇っていた。

生来、嗅覚は鋭い。香水、整髪料などに含まれる香料によって、喉が痛くなることがあった。
その症状が、外国性柔軟剤の上陸で、顕著になった。そのうえに服薬が重なったかたちだ。

原因を知りたかった。ネットを検索した。行き当たったのは、石油由来の合成界面活性剤の有害性に関する情報だった。
「柔軟剤、キッチン洗剤、ハンドソープ、シャンプー、リンス、トリートメント、などなど、どれにも含まれていた。こんなことを気にしていたら生きていけないと、割り切った。」
だが、「自分のシャンプー後のニオイに、柔軟剤と同種のものを感じてしまう。これは何とかしないとマズイ。危機感を覚えた。」

DOTSは、年をまたいで、2011年で終了。
翌2012年になって、大関は、ライフスタイルの見直しに着手した。添加物の多い日用品を、低リスク製品へと置き換えていった。
「石けんシャンプーにシフトして、家じゅうから石油系界面活性剤を除去するよう努力した。」
しかしながら、時すでに遅し。症状は硬直状態のまま。快方に向かうことはなかった。

そうして迎えた、2018年の冬。状態が悪化した。

2018年。職場に拡がる香害。無理解に、耐えて働く日々。

大関の勤務先は、郵便局。郵便番号を記憶し、効率化のための改善提案をし、新入スタッフのために手順書を作る、模範的な局員だった。
一方で、ウィークエンドには、ライブに出演して、熱狂の渦を作り出す。合間に、メンバーたちとともに曲を作り、アルバム制作を進めていく。
充実した、人生。ずっと同じ日々が続くものとおもっていた。

それは幻想だったのか。短期間で、職場の空気が、変化した。
全国に急拡大していく、香り付き製品。
日本中の空気が汚染されていくさまを、大関は嗅覚で捉えていた。

6月、「シャボン玉石けん」が、新聞全面広告に踏み切った。
「『香り』が生み出す体調不良があります。香害を知ってください。~ 香害は生活者だけでなく、我々のような洗浄剤メーカーも、誰しもが自分のこととして捉えるべき健康問題です。」

香害が激化する中、それでも、ライブ出演は続けていた。
2017年、『TERROR SQUAD』は、マレーシア、クアラルンプールで公演。
翌年7月には、札幌ツアー。8月には、中国公演。8月25日(土) 深圳、26日(日) 広州、と、2か所で演奏して、大成功を収めた。公演を収録したツアードキュメンタリーは後にDVD化されている。

episode_20180825600.png

(写真:『TERROR SQUAD』Live at 深圳。左から、大関、宇田川、ジョーカー、前川。提供:大関氏)

2019年。ライブ2週間前。倒れて、両手を負傷。

順風満帆の音楽活動とは逆に、労働環境は厳しくなっていった。汚染されていく空気の中で、耐えて、耐えて、働き続けるしかなかった。事故が起きたのは必然だった。

大関の苦闘を取り上げた、朝日新聞デジタルの記事、「香りに追い詰められたギタリスト、仕事も失い その時、仲間が動いた」の冒頭に、この一件が書かれている。

『意識が遠のき、道ばたで倒れ込んだ。』

職場の空気事情が悪化するなか迎えた、2019年、4月。
いつもと変わらぬ朝、いつもと同じように働いて、帰宅するはずだった。

勤続23年、仕事は性に合っており、楽しくもあった。大関は、いつも通り、出勤した。

ところが、この日、職場内には、売れ筋の柔軟剤と整髪料、両方の成分が充満していた。
曝露を防ぐ方法はなかった。しばらく仕事を続けたものの、ふらつき始めた。手元がおぼつかなくなった。仕事どころではない。早退を願い出て、許可を得た。
職場を後にして、駐車場まで歩くこと数十メートル。

突然、倒れた。

「意識を失いそうになって、ぶっ倒れた。失神というか、高熱でフラフラして意識朦朧の状態で、突然倒れる感じに近い。ヤバい倒れる!って理解する感覚だけは残っていた。」

数十秒、経っただろうか。意識が戻ってきた。左手の皮膚がズルリと剝けていた。表面がじんわり痛んだ。
車は運転できそうだった。薬局へ行き、キズパワーパッドを買った。貼ると、左手の表面の痛みは、軽減した。すると、右手が痛んでいることに気付いた。
皮膚の傷に気を取られていたのだった。

右手に痛みを感じつつも、一日欠勤した後、出勤。
郵便物のケースを持った瞬間、事の重大さに気付いた。
右手首がひどく損傷していることを自覚した。

2週間後に、重要なライブが控えていた。
『TERROR SQUAD 結成30年ライブ』が、『新大久保 EARTHDOM』で開催されることになっていた。

「ギターを弾けない。」

『TERROR SQUAD』の楽曲は、手数が多く、且つ、超高速だ。おまけに大関のスタイルは、できるだけ機材に頼らず、ピッキングで、出力される音を制御するというもの。手首の動きは重要だ。負傷したら、演奏できない。痛みが軽減したとしても、手の動きが完全回復しない限り、『TERROR SQUAD』の音楽にはならないのだ。

病院へ、行かなければ。
翌日。近くの総合病院に問い合わせた。労災の関係だろうか、受診は難しいようだった。さらにその翌日、年配の医師ひとりだけの個人病院を訪ねた。
レントゲンでは骨には異常は認められなかった。ほっとした。
だが、腱を損傷していた。痛み止めの飲み薬と、ケトプロフェンの貼付薬を、処方された。

湿布を貼ってみた。湿布を触った手で顔に触れたらしい。日焼けで、鼻の上がただれた。光線過敏症だ。それはまだいい。問題は、ピックを持つ右手だ。モノを掴むと激痛が走った。そのたびに、翌日は、発熱。それでも、服薬すれば、一時的に痛みは軽減した。

痛み止めを飲めば、どうにか弾けそうだ。その状態で、ライブに臨んだ。

だが、なんとか演奏は終えたものの、プロ・ギタリストとしては、納得できない結果。
「なんとかなってないレベルの醜態・・・」
お客さまに申し訳ない。メンバーや主催者にも。なにより、自身が、その音に、納得できなかった。
辛かった。以前の演奏を、取り戻さなければ。

ダメージを負った大関を、さらに副作用が襲った。
その薬は、大関の身体には合わなかったようだ。10日で4kg、体重が増えた。その後、さらに、4kgの増。
「痛み止めを飲んだら急に肥ってしまい、走ったり歩いたり何をやっても痩せなくて、諦めたら、8kgも増えていた。半年経った頃から何もしていないのに元の体重に戻った。半年もかかるとは。」
おもわぬ症状をやり過ごしながら、手の傷が癒えるのを待った。

この一件は、心理面にも、影を落とした。

「怪我や副作用よりも、ぶっ倒れるってことがショックだった。この恐怖心は今でも消えない。ギタリストがギター弾けない怪我するって恐怖以外のなにものでもない。また倒れて怪我してギターを弾けなくなったら、っていう恐怖心が、消えない。それで、酒浸りに。」

アルコールの摂取量が増え、さらに、さまざまな症状が出始めた。
「足の浮腫み、関節痛、凄い抜け毛、尿漏れ。普通に立っていられなくなって、ようやく、血液検査を受けた。」

肝臓が弱っていた。
「γ-GTPが1700を超えていた。一念発起して断酒したら、一気に改善した。」

以前の体重に戻り、肝機能も回復し、健康を取り戻した。そうこうするうち、手の怪我も癒えた。
もとよりハイパーポジティブな性格。恐怖心も、薄れはしないものの、とらわれる時間は減っていった。

だが、特定の日用品に反応する症状だけは、変わらなかった。

昏倒の原因を、大関は、香害だと言い切る。
「郵便物の仕分けをするときに、表面の物質が揮発する。それも、なくはない。だが、何よりも、日用品の問題だ。職場の空気を一変させた、柔軟剤や抗菌洗剤などが原因だ。」

とはいえ、その空気事情の悪化を証明するでデータはない。大関は板挟みになった。
病院では「労災の手続きしてください」と言われ、職場では「証拠が無い」と言われる。
倒れた場所も悪かった。上司曰く「目撃者はいますか?」
早退してイレギュラーな時間帯だったため、倒れた場所には、誰もいなかった。
「怪我した状態のまま職場に戻れば良かったんだろうけど、そこまで考えられなかった。職場を出てから倒れたので、証拠も無い。目撃者もいない。労災扱いにはならなかった。」

2020年。「曝露に耐える」から「リスクを伝える」へ、方針転換。

手の負傷は、それからの人生を考える契機となった。

「職場に広がる柔軟剤や過剰な香水を我慢し続けた結果が、これ。」
耐えるだけではだめだ。自衛して、リスクを伝えなければ。
「顔面が痺れて足が震えて、息を吸えなくて涙目になって、それでも、何が起きているのかわかっていなかった。かなり酷い状態になっていたのに、自分ではまだまだ大丈夫だと思っていた。」

市販のマスクを試してみた。香料は、やすやすと、マスクを通過した。これでは防げない。マスクを外した。

香害を感知する者ならわかるだろう。マスクでは、香害原因製品の成分を、防げない。
たとえば筆者の体感でいえば、柔軟剤香料に限って言えば、綿の二重マスクで1~2割、サージカルマスクで3~4割の軽減、N95でも半減がいいところだ。

5分10分の短時間を切り抜けるだけなら、しないよりはマシだ。だが、装着時間が長くなると、むしろ逆効果になると考えられる。マスクを掃除機のフロアーノズルに見立ててほしい。吸気すると、マスクの中心、鼻の部分に、成分を集めてしまうのだ。そして、呼吸で取り込まれないものがマスクに残る。布に付着するように設計されている成分だ。息を吐けばマスクの外に出ていくわけではない。生分解せず、減衰もしない物質が、鼻と口の周りに溜まることになる。

さらにシャットアウトできる割合が高いガスマスクでさえ、完全には防げないという。それ以前に、マスクを装着し続けるのは現実的ではない。ただでさえ、マスクをすると、呼吸しにくい。定年までの10年、いや、この国から香害が去るまでの間、毎日、職場での作業時間中、ずっと装着し続けることなどできるはずもないのだ。

上司に、相談した。数十メートル離れた、ひとりで作業できる場所を与えられた。だが、空調から、他の作業場の空気が流れ込んできた。
毎日職場で曝露しては、ダメージが積み重なっていく。朝、起きると、具合が悪い。出勤できない日が増えていった。
上司は、マスクの装着を強く促した。香害原因製品ユーザーへの配慮をもとめるのではなく、大関が自衛すればいい、という考えのようだった。
当時は、まだ、コロナ禍の前。マスクの着用経験をもつ人は少ない。もちろん、香害製品の成分についてのマスクの有効性に関する研究報告などない。
上司は、マスクさえすれば香害は防げるものと楽観視していたのだ。

大関はこの誤解を解こうと試みた。
香料原因製品を自粛するよう注意してほしい、いや、大関が対策をせよ。マスクをすればいいじゃないか。
仕方なく、上司の命に従った。すると、柔軟剤香料がマスク内に侵入。症状は、悪化の一途をたどった。

職場での理解を得られず膠着状態のまま、耐えて勤務を続けた。
早退や欠勤の回数が増えた。休職するしかなかった。その期間は、徐々に長引いた。

ポジティブ思考で踏ん張ってはいたものの。メンタルも、徐々に削がれていった。
「またぶっ倒れて大怪我したらどうしよう、という不安は、もちろんある。でも、さらに堪えたのは。その症状を、精神的な問題だと誤解されることだった。曝露すればビリビリと顔が痛むし、頭も痛いし震えるし、嘔吐する。これを根性論で片付けられては、職場の空気事情は改善しない。汚れる一方だ。」

従業員側の工夫にも忍耐にも、限界がある。

大関のライフスタイルは、香害が来襲する前から変わっていない。ライフスタイルの変化によって、不調が生じたわけではない。それは大関だけではない。同じライフスタイルを継続しているにもかかわらず、香害によって、突然、不調に陥る人が増えているのだ。
食生活をはじめ、健康体を目指すライフスタイルを、心がけることはできる。それぞれの個体が、健康に影響するものを見極めて、控えることも、ある程度は必要だろう。大関は、自身に影響する人工甘味料などをできるだけ避けているという。
だが、それよりも、香害を取り除くことが先ではないのか。これは、優先順位の問題だ。

2022年夏には、週1回のスタジオ練習以外の外出は難しくなった。もちろん、香害に包まれての勤務など不可能だ。自宅に引きこもる日々が続いた。

9月。久しぶりに出演したライブで、出番間に柔軟剤の暴露に見舞われるアクシデントが発生した。

これからの音楽活動への影響を危惧した。
大関は、SNSで、香害を訴え始めた。

「抗菌消臭洗剤・柔軟剤・消臭スプレー・制汗シート・香水・整髪料などなどに『ニオイ強いな・・・』って思ったら要注意。オレみたいになる前に逃げましょう。子どもやペット飼ってる人はこれ系禁止。」

2022年。ステージで曝露。ギタリストとしての進退を考える。

香害による被害を訴える声は、2020年頃から大きくなっていった。消費者団体や、自治体も動き始めた。
だが、規制がない以上、実効性に乏しく、香りブームの中、香害原因製品は、着実に販売数を伸ばしていく。

そんな中、それらの製品の成分が、演奏中の大関を襲った。
2022年の秋だった。

「演奏中に倒れそうになった。原因は、客席から漂ってきた、無香料の除菌消臭スプレーだった。」
このライブハウスでは、客席とステージの空調は別だ。だから空調が味方するはずだった。
ところが、除菌消臭スプレーの成分は、柔軟剤香料とは漂い方が違っていた。

膝がガタガタと震えた。これはマズイ!とおもったときには、もう頭が働かなくなっていた。これまで数えきれないほど、曝露を繰り返してきたが、この症状は、初めてだった。
ヴォーカルの宇田川が、大関の窮状に気付いた。すぐに、マイクスタンドを移動した。立ち位置を変えると、すこし、頭が働き始めた。

その成分は、数メートルほどの距離を超えて漂ってきた。大関は、逆に数メートル下がりながら演奏を続けた。
最終的には、ギターアンプの後ろまで下がってステージを終えることとなった。

香害に配慮しようとして、洗剤や柔軟剤のニオイを消すために、消臭スプレーを使う。もちろん、「無香」と書かれている製品だ、ところが、その成分はといえば、リスクのある物質だ。配慮が裏目に出る。それは稀なことではない。メーカーの宣伝戦略は、それほど巧みだ。かといって、すべての消臭目的製品が大関にとって危険かといえば、低リスク製品もある。

伝えるべき情報量の多さが、大関を困惑させる。ライブに先立ち、大関は、リスクある洗剤の一覧表を、配布してはいた。だが、そのリストに、消臭スプレーは含まれていなかった。香害原因となる製品の情報を伝えきれていなかったのだ。

そのライブから一夜明けて、大関は、素直な心のうちを、facebookに吐露した。

「見てくださった方、誘ってくださった方々、ありがとうございました。話しかけてくださった方々、まともに返事も出来ず申し訳ない。
香害や化学物質過敏症に関して今までも発信してきましたが、ライブ中にここまで演奏困難な状況になったのは初めてでした。膝がガクガクし頭も回らず、下がれるところまで下がるしか思いつきませんでした。マーシャルの後ろまで下がりました。
ここまで来ると、今後自分の演奏活動に関してどうするべきか考えなければならないレベルになってしまう。メンバーやサポートと相談します。
昨日も今日も、大御所の先輩方が心配してくれて、泣けてきました。宇田川に『大関くん大丈夫か?』って話してくれたそうです。ありがとうございます。迷惑かけっぱなしでごめんなさい。
でももうそろそろ無理。仕事も3か月以上休んでいます。
つらくても笑顔はできますが(それがゆえに苦しさが伝わらないのかもだけど)、今日はもう無理でした。」

そして大関は、元気いっぱいだった頃の写真を、twitterに投稿した。
「オレは香害がなければ、こんな感じで無駄に元気なんだよ。メーカーはとうとう、オレを演奏困難な状態まで追い詰めた。」

episode_au600.png

(写真:『TERROR SQUAD』スタジオにて。左から、前川、キャッツ、宇田川、ジョーカー、大関)

それでも、持ち前のポジティブ思考で、前を向く。
「このまま負けるのはイヤなので頑張ります。」

決意を固めた、次のライブ。
バンドマン仲間たちが動いた。

『BAREBONES』が、無香害を呼びかけたのだ。自らのレコ発という、重要な節目のライブで、花を添える共演者『TERROR SQUAD』のために、
その発信に、共演者たち、来場者たちが、呼応した。ライブハウス側も、細やかな心配りで対応。日本初の無香害ライブが、実現したのだった。

歌を決して忘れない!仲間たちに、音楽に、カナリアが見出した希望。

旧twitterからXまで、香害を訴える投稿に見られるのは、2018年以降の被害の声の多さだ。

大関も、症状が激化したのは、2018年から。
「ここ数年で悪化もしくは発症してる人多発してますよね。今年は更に発症者が増えそうな気がします。」

筆者が香害に気付いたのも2018年、都会のネットショップで購入した布製品への強烈な移香がきっかけだった。そして、2019年春、居住地域に突然、香害が来襲。ブログでの啓発を始めたのだ。

ジャパンマシニスト社刊行の「マイクロカプセル香害」(古庄弘枝著)に掲載されている製品年表によれば、現在売れ筋の柔軟剤が2008年に登場、ビーズの採用が2010年8月、マイクロカプセルの商標登録が2012年5月、2018年1月に香り長持ちアロマカプセル、となっている。
この「香り長持ち」をうたう製品は、大関をはじめ、健康被害者たちが、吸気したときのパウダー状の感覚から「粉粉」と呼び、最も恐れているものだ。
2018年は分水嶺だったのだろう。その頃、急激に体調不良を生じた健康被害者たちの中には、香りを長持ちさせる技術が影響したのではないかとみている人も少なくない。

電車通勤者の多い都会ではとくに、被害が深刻化していった。消費者センターへの訴えが増えた。
国会や議会でも質問が相次ぎ、地方自治体での啓発が進み始めた。
今では、一人の啓発者の始めたパネル展が、各地で開催され、盛況だ。マスメディアにも、取り上げられる機会が増えた。
香害のリスクは、確実に、知られるようになってきた。

そうした社会の小さな変化を追い風に、バンドマン仲間たちは、フレグランスフリーを推し進め、大関はライブに出演し続けている。この2年、演奏不可能な状態には陥っていない。

従来、化学物質曝露によって倒れるのは、工場などの現場で働く、技能者や技術者だった。
筆者自身、倒れてはいないが、業務上の曝露経験がある。両手の皮膚がなくなってしまい、2年ほど、包帯でペンを固定して、仕事を続けた。ただ、大関氏の場合とは異なり、勤務先がホワイト企業だった。社長はじめ役員たちが対応策を提案してくれたことにより、回復した。そのような経験から、仕事道具としての両手が損傷する厳しさと怖さは想像できる。

そうした曝露による被害が、恐ろしいことに、今では、日常生活の中で、生じている。住宅街で、職場で、学校で、病院で、公共交通機関で、曝露する。民間人が巻き添えになっている。
もはや、産業公害ではない。労働災害をも超えた。消費者曝露、生活公害とでも呼べるほどの状況だ。
しかも、健康診査で何の問題もなく、元気に働いていたひとが、ある日突然、倒れてしまう。
大関も、そのひとりだ。ハードな海外ツアーを楽しむ体力がある。日用品公害さえなければ、強靭で頑健だ。同じように、「健康なのに、なぜ?」という被害者が増えている。

にもかかわらず、日用品公害の原因となる製品は、手を変え品を変え、続々と市場に投入される。人気のあるアーティストを起用した華々しいキャンペーンは、思考を手放した消費者をとらえて離さない。

大気汚染、海洋汚染、健康被害、物損。この問題は、ひとりひとりの消費者が、リスクを知り、正しく恐れ、ライフスタイルを見直さなない限り、終わらない。

息できる空気を取り戻すまで、カナリアは、歌い続ける。癒えた右手で持つピックに、祈りを込めて。

episode_last.png


いよいよ今週末!!「True Thrush Fest 2024」に『TERRROR SQUAD』参戦!!

2024年9月15日(日) 『True Thrush Fest 2024 -JAPAN TEAM EDITION-』
開場:15時、『TERROR SQUAD』出演:16時-~16時40分
昨年のTTF、ライブ・レポート


化学物質過敏症の機序は多様で、原因疾患はひとつではなく、「発症の原因とトリガは異なる場合がある」可能性も示唆されている。
「大関氏に限っていえば」、本人の弁によれば、原因は海外製柔軟剤に重なった結核治療薬、トリガは合成香料や抗菌剤ということになる。
近年の研究には、これを裏付ける情報がある。
発症の背景に、腸内細菌叢の変化があり、変化を生じさせるもののひとつとして、抗生物質(抗菌薬)が有力視されているというのだ。腸内細菌叢や腸脳相関については、(社)化学物質過敏症・対策情報センター 代表理事 上岡みやえ氏が、論文を翻訳して発信している。
「正常な腸内細菌叢の役割」翻訳(2023年7月14日)「Role of the normal gut microbiota」(2015)
「脳腸相関:脳と腸、腸内細菌の相互作用」翻訳(2024年5月30日)「The gut-brain axis: interactions between enteric microbiota, central and enteric nervous systems」(2015)


音源情報(bandcamp)

1st,アルバム「the wild stream of eternal sin

2bd.アルバム「Chaosdragon Rising

『Chaosdragon Rising』 PV (Youtube)

『TERROR SQUAD』KOUICHI UDAGAWAとHIROYUKI MAEKAWA、そして、ギター・無香料職人のノケンことKENJI NONAKA、ドラム・NOZOMI HAYASHIの4人で結成する、メロディック・デスメタル・バンド『Another Dimension』が、6月12日に、2nd.アルバム「WORSHIP DEATH 」を発表。Youtube公式チャンネル


9月以降のライブ・スケジュール

最新情報やチケット予約については、『TERROR SQUAD officialTERROR SQUAD』サポート を参照してください。

  • 2024年9月15日(日) 大阪江坂MUSE『True Thrush Fest 2024 -JAPAN TEAM EDITION-』開場:15時
  • 2024年9月22日(日) 福山 Live Gym Mayhem『能登半島地震復興支援チャリティーイベント【K.J.F.R. MAXXXEST 2024】〜Keep Japanese Flag Raising〜』開場:17時
  • 9月28日(土)  新大久保 Earthdom
  • 10月13日(日)  新宿 Loft or ACB(KAPPUNK)
  • 10月19日(土)  鶯谷 What's Up
  • 10月27日(日)  松戸 Dugout2 Studio
  • 11月3日(日) 新大久保 Earthdom、『BREAK THE RECORDS pre. WAR FOR PEACE vol.27』、開場:17時

ご来場の方へ

本稿のとおり、特定の日用品に含まれる化学物質は、大関氏のパフォーマンスに影響します。さらには、いま健康への影響が生じていないひとたちにも、影響を及ぼす可能性があります。
ご来場の際には、香り付け・除菌・抗菌・消臭目的の日用品の使用に、注意を払っていただきますようお願いいたします。

たとえば、次のような行動をとることで、ベスト・パフォーマンスのステージを楽しむことができます。

可能であれば、高残香性柔軟剤および抗菌系合成洗剤で洗濯していない衣類を着用してください。
それが難しければ、当日着用する衣類を、水だけで、3回以上、すすぎ洗いしてください。
ライブ当日は、除菌消臭スプレーの使用を控えてください。
香水をお使いの方は、会場入り直前の一吹きは控えてください。
香り付き整髪料をお使いの方は、ライブ当日は、できるだけ無香料の製品を使用していただけると助かります。


※本稿は、関係者の公開ツイートや投稿をもとに、情報を再構成したものです。

「6弦のカナリア」目次

Comment(0)