検索サイトにもとめられる時代性 ~メルマガ連載記事の転載(2013/09/02 配信分)
この記事は、メルマガ「デジタル・クリエイターズ」に月1回連載中の「データ・デザインの地平」からの転載です。
連載 「データ・デザインの地平」第33回 検索サイトにもとめられる時代性
検索処理を主機能とするWebサイトにとって、重要な要素とは何でしょうか。
堅牢なサーバー、更新頻度の高いデータ、高速処理、わかりやすいデザイン...。それらに加え、今求められているのは、「時代のニーズに寄り添う柔軟性」ではないでしょうか。
今回は、物件情報検索を例に、検索処理のインタフェースについて考えてみます。
働き方の変化に合った、インターネット対応情報の提供
SOHOや在宅勤務も増えた今、インターネットが仕事の生命線という人は少なくありません。現時点では定時間勤務の人も、いつ何時、リビングをオフィス化するようになるかもしれません。
そのような人たちが物件を探す時には、インターネットの対応度が最優先ポイントになります。
筆者が複数の物件検索サイトを試したところ、絞り込み条件の項目には、インターネット対応、高速インターネット対応、ブロードバンド、フレッツ光、インターネット無料、などがありました。しかしながら、その詳細を知るには、個々の物件の管理会社に問い合わせる必要があります。
フレッツなのか、auひかりなのか、CATVなのか、はたまた、光対応であっても配線方式はどうなのか、速度の期待値はどの程度なのか.....。大きなデータをやりとりする業務では、下り速度よりも、上り速度が重要です。期待する速度が得られそうかどうか、仮に得られない場合、オーナーや(分譲賃貸の場合)管理組合から、個別引き込み工事の許可が得られるのかどうかも確認しておかなければなりません。
地方では、政令指定都市や、理系学部の大学のがある地域でもなければ、ネット対応物件の数自体が限られます。
インターネットのインフラの充実した場所には、仕事が集まり、人が集まります。それが山奥であってもです(※1)。
人口の少ない地域の物件でインターネットの充実度を伝えることは、大きなPRポイントになるのではないでしょうか。
※1 徳島県の例。高速ブロードバンド網を整備してIT企業の誘致に成功しているそうです。
人口比と世帯構成に合った、設備情報の提供
団塊の世代が退職して田舎に移住したり、少子高齢化により、高年齢者の独居や二人世帯は珍しくありません。広い家も駐車場も不要になることを見越して、(ミニハウスやログハウスを建てるのでない限り)1LDKのマンションや高齢者専用賃貸住宅、グループハウス、シェアハウスに移り住む人も、増えていくと考えられます。
(健康な高齢者には関係ありませんが)ロコモティブ・シンドロームなどで足腰に問題を抱える人々にとっては、少ない動作で快適に暮らせるコンパクトな住まいが必要です。彼らは、高層階から眺める夜景の美しさよりも、わずかな歩数で屋外に出られる利便性を優先するのではないでしょうか。防災の面からも、万が一エレベーターが停止した時に、歩いて屋外に脱出できたり、給水車からの水を自力で運べる低層階が望ましいでしょう。つまり、「2階以上」かどうかよりも、「1階」あるいは「エレベーター付き物件の2階」を検索できることが重要なのです。
「バリアフリー(段差、浴槽の深さ、居室から手洗いまでの距離、廊下を車いすで通れるかどうか、手すり工事の許可の有無)」「過熱燃焼防止付きの調理機器」「緊急時通報装置(取り付け可能/指定業者紹介/既設)」「管理人常駐(買い物代行などのコンシェルジュの有無」、地理的には「総合病院までの距離」「コンビニまでの距離」「公共機関の交通の便」「近隣で利用可能なデイサービス」なども重要です。
また、敷地面積や隣家との距離よりも、庭先で倒れていても誰かが発見してくれる、常に人目のある立地条件が望ましいともいえます。
そして、少子化が進めば進むほど「保証人不要」「保証人代行会社利用可」といった条件を必要とする人が増えていきます。
これらの条件の何割かを満たすものとして、高専賃(高齢者専用賃貸住宅)があり、徐々に増えてはいますが、その情報は、物件ではなく、介護サービス扱いです。物件検索サイトよりも、介護ポータルサイトや住宅費を助成する自治体のサイト、建設を請け負ったゼネコンのサイトに掲載されていることが少なくありません。
物件検索サイト、介護情報サイト、自治体の助成情報ページが連携して、横断的な検索が可能になれば、目的の情報にたどりつきやすくなるでしょう。
今はまだ「高齢者可」物件自体が極端に少ないのですが、人口比や世帯構成が変われば、それに合わせて提供する機能も変わらざるをえないでしょう。
自然環境の変化に合った、耐震化情報の提供
東南海・南海地震や豪雨などへの懸念から(※2)、天災への備えを条件として、物件を検索しているユーザーもいることでしょう(今回このような記事を書いたのは、筆者自身が住居の耐震化情報を検索していたからです)。
耐震性の低い建物から防災目的で移転する場合は特に、立地条件(地盤、地滑り、土石流、浸水、など)、構造(木造/鉄筋/鉄骨/軽量鉄骨、など)、階数(長周期に共振/キラーパルスで崩壊)、築年(新耐震基準かどうか)、過去の天災での損傷箇所があるかどうか、壁の配置、屋根材、耐震診断の有無、評価係数が「一応倒れない」1.0未満の場合耐震補強をする予定があるかどうか、などが重要なポイントになります。
たとえば、築年数でソートするだけでなく、耐震基準法改正の1981年以降という条件で絞り込んだうえで、他の条件でソートできると便利かもしれません(※3)。
また、家族の中に足の弱った高齢者や病人がいて避難がままならないケースでは、住みたい地域名を指定して検索するのではなく、避難が必須とされる地域「以外」を条件として指定したいかもしれません。
耐震診断や耐震化工事の予定、補修の必要な箇所があるなら、その写真を掲載したうえで「大家負担による修繕を申し受ける場合、家賃○○円アップ」などの情報を掲載することも考えられます。「家具不要物件、しかも防災ベッド枠付き」「レトロな木造のメリットと、シェルター組み込み済みの安心の両方がある家」「庭広し、シェルター設置可能」なども、アピールポイントになるかもしれません(?)。
住宅の所有者でなければ耐震診断・耐震補強の助成金申し込みができない自治体もあるので、耐震情報を提供することは有効だと考えられます(※4)。
※2 愛媛県では、7月17日に、愛媛県地震被害想定調査結果(第一次報告)が公開されています。
愛媛県人は気候が温暖だからか、危機感に欠ける面があるので、津波の3DCGアニメーションは必見でしょう。
※3 1981年以降であっても、1983年頃までの場合は、新耐震基準なのかどうなのかは100%確実に判断できるわけではなく、いつ設計し、認可され、着工したかは、別途確認する必要があるようです。
耐震補強方法にはいろいろな種類がありますが、個人的には、廊下シェルターがあればと思います。昭和の木造住宅では、廊下の片側に居室、もう片側に水回りというレイアウトがままあるからです。廊下の壁が補強されていれば、居室からも風呂場やキッチンからも逃げ込めます。
また、家の周りにスペースがある場合、一回り大きな鉄骨フレームを建てて、家との間をエアバッグで覆ってしまうといったものがあればとも思います。
※4 筆者の居住する地域では、耐震診断と補強の助成対象者は「対象となる 住宅の所有者」であり、借家人は申請できません。
大家が同意すれば、借家人も助成を申請できたり、評点「1・0」未満の改善補強や部分補強でも助成が受けられる制度(墨田区、足立区など)や、耐震シェルターや防災ベッドの設置を補助する制度(一宮市など)があれば、もっと耐震化は進むと考えられます。
検索システムは、人生の時間の使い方の教師
社会背景は刻々と変わります。ユーザーの知りたいことと、情報提供側のPRポイントがズレると、マッチングの機会が失われます。
今回は、物件検索を例に述べましたが、それ以外の検索サイトや(ローカル稼働の)検索アプリにおいても、同様です。すべてのユーザーを満足させるシステムの開発は不可能ですが、できるだけ多くのユーザーにメリットを与えられるように改善していくことはできます。
ユーザーの要求がさらに細分化すれば、検索条件の追加や変更だけでなく、検索項目の自由設定も必要になるでしょう。
優れた検索サイトとは、ユーザーの抱えている問題が思考を要求するものであるときは答えを与えず、思考を要さない問題であるときは即座に回答を提示するものです(※5)。
検索サイトが、急激な社会変化に逐次対応するものになれば、ユーザーは画面に張り付いて目をさらにする時間から解放されます。
ユーザーは、検索する自分を客観視することによって人生の時間の使い方を学び、ITエンジニアは自らの開発物によって、ユーザーがより良い時間の使い方をできるように支援することができるのです。
※5 困ったことに、いずれは、ユーザーが「かく生きたい」という漠然とした人生の夢や目標を与えるだけで、人生の成果を最大限に引き出す情報を提供するお節介なサイトが出現するでしょう。我々は自分の頭を使って考えることをやめてはなりません。