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ヴィジュアル、サウンド、テキスト、コードの間を彷徨いながら、感じたこと考えたことを綴ります。

実は、電子書籍の進化に、焦っていたりする。(前回記事の補足)

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20年以上前、ELの用途開発プロジェクトに参加したとき真っ先に思ったことは、「これで仰向けに寝ころがってパソコンの画面みたいに本が読めたらいいのにな」だった。
ナマケモノまるだしの安易な考えだが、頭を覆う形で蛇腹になっていて角度調整ができるようなベッド幅の画面に、文字が表示できるんだったらいいのに、と思ったのだ。

想像してみてほしい。96cm幅もあれば、一画面に数ページ分が表示されるではないか。斜め読みができる。
電話帳以上に分厚い本だって、読みやすい。なにしろ、机の上に置くと目との距離が近すぎる。仰向けで読もうものなら、頭の筋肉を鍛えているのか、上腕二頭筋を鍛えているのか、分からなくなる。両方鍛えたい人には一石二鳥かもしれないが、生憎、筆者は、のったりゆっくりのナマケモノ(?)ときている。端末を持ったり、ページをめくることなく、「読む」という行為だけに集中できるのなら、その方がうれしい。
もっとも、当時は、ELは単色のバックライトとしての役割を果たすものであり、それは単なる夢想に過ぎなかったのだが。

ELに囲まれて過ごしたり、サービスマニュアルの仕事をしていたこともあり、ずっと、ある種の印刷物は電子化「されるべきである」と、思ってきた。(「全ての」印刷物、ではない。これについては、また後日述べる)。
だが、いざ、再生用小型端末が普及し始めてみると、ライターとしては、少なからず焦ってしまう。
前回記事で「電子書籍をライターとして歓迎したい、5つの理由」を述べたものの、現状はといえば、日々の生活に忙殺され、取り組みは遅れに遅れているからだ。

2003年のはじめ、オンラインブックを作成し、数週間の期間限定の販売テストを行った。
コラボレーション・ユニットPROJECT KySSの相方(フリープログラマの薬師寺国安)が作っていたサンプルプログラムを10個収録した、フルカラー20ページのPDF本である。DTPはAdobe InDesignで行い、表紙はPhotoshop、Illustrator、InDesignで仕上げ、PDF化。閲覧をロックした。購入者には、ロックを解除するためのパスワードとサンプルのアップロード先のURIをメールで知らせるという方法をとった。

この本はあくまで、PROJECT KySSサイトのユーザーのためのサービスとして企画したもので、テスト期間も短く、売上に貢献するほどのものではなかったが、見えてきたものはあった。
読者が業務上解決しなければ前に進めない問題を抱えているにもかかわらず、Web上には限られた情報しかない時点で、その解決策を具体的なコードで示す内容の本であれば、電子出版の可能性は十分にある。
「業務上問題の即時解決」「初物」「解説より即利用できるコード」であれば、ニーズとシーズはマッチする。

そんなこと、テストなんぞしなくても、誰にだって分かることではあるが、では、そういった本を書けるかといえば、これがなかなか難しい。

読者側の業務上の問題は、ライター側が同じ現場の人間なら、比較的予測しやすい。
「初物」を書くことの方が難しいのである。対象技術がアルファ版の時点から企画を始め、ベータ版の時点で執筆を始め、製品版になるや内容を理解している複数のスタッフで画面キャプチャを手分けして撮り直し、サンプルプログラムの動作確認も行い、編集とDTPと校正を最長でも1週間で行うぐらいのスピードが要求されるだろう。

電子書籍に将来性を感じた私は、ある電子出版会社に、筆者自ら出版人となるので取り扱ってもらえないか問い合わせてみた。よい感触を得たものの、結局上京する機会をつくることができなかった。しかし、このままではいけないと思い、電子出版物の制作や配布用の商標だけは取得しておいた。
が、何のアクションも起こすことができないまま、弁理士先生から「権利維持しますか、どうします~?」
うわ。何もしないまま、5年も経ってしまった。どうしよう。

何もしないままというのも癪で、200ページほどのXML本をWord原稿から直接PDF化して公開している。すでにデファクトスタンダードになった仕様をあらためて学びたい人の数など多くはないであろうし、無料につきサポートは一切なしと銘打っているにもかかわらず、ぽつりぽつりと、思い出したようにダウンロード数が増えていく。

電子書籍の企画だけは、筆者のハードディスクの中に多数眠っている。
出版権が現在PROJECT KySSにある本も、十冊ほどある。最新バージョン対応にリメイクして出版することも考えられる。が、マンパワーがない。内容の見直しは共著者に分担してもらえるだろうが、編集は私一人の作業だ。まだ一晩二晩の徹夜くらいは何ともないが、周りは私以上に高齢であって、私は一日たりとも寝込むわけにはいかないから、無理はしない。

来年こそ、紙の本はもちろん、電子の本も1冊ぐらい書きたいものだが、はたして。

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