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Google vs Apple vs Microsoft ~ ひと目でわかるモバイルOS戦争の構図

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今朝,面白いニュースが入ってきた。Nexus OneでGoogleと深い関係を持つHTCが,やはりGoogleの協力を得てAppleタブレット対抗製品を開発しているとの内容だ。報じたのはGIZMODESiliconAlleyInsiderだが,ニュースソースとなっているのはオーストラリア発ウェブ記事だ。

HTC To Launch Apple iSlate Competitor (SMART HOUSE, 2009/12/31)

この記事の信憑性は不明だが,興味深いのは Androidではなく Chrome OSでタブレット開発をすすめているという点だ。

 

■ GoogleとApple,タブレット開発に見る設計思想の違い

Googleは現時点ではAndroidとChrome OSをクールに切り分けている。公式ブログでの見解は次の通りだ。

Google Chrome OS は、Android とは別の独立した新しいプロジェクトだ。Android は当初より、電話機からセットトップボックス、さらにはネットブックに至る、さまざまな機器で動作するように設計した。Google Chrome OS は、ほとんどの時間を Web 上で費やすユーザー向けに現在製作を進めているもので、小型のネットブックから大きなデスクトップパソコンに至る各種のコンピュータで動作するよう設計している。Google Chrome OS と Android が重複する分野は確かに存在するが、選択性はすべての人々にとって、そして当社にとっても利益となる革新をもたらすと考えている (日本語訳: Japan.Internet.com記事

Androidはモバイルインターネットにおける多様な機種や通信方式に対応するOS,Chrome OSはブラウザをベースとしたシンプル設計のOSということだ。双方に互換性はなく,Chrome OS上では2009年末に1.2万種,2010年末には10万種を超えると予想されるAndroidアプリは稼動しない。

それに対して,AppleタブレットはMacOSではなく,iPhoneOS(4.0と噂されている)搭載と予想されている。これは10万種を超えたiPhoneアプリによる差別化を意図しているものだろう。

ちなみにBarnes&Noble社NookなどAndroid搭載タブレットも複数メーカーにより開発進行中で,うち一部はすでに発売ないし出荷されている。

nookとその仲間たち―最新eブックリーダー、スペック比較表 (TechCrunchJapan, 2009/10/22)
7インチAndroidタブレット WebStation 予約開始、389ドル (Engadget, 2009/12/6)

つまりGoogleは,アプリ互換性を重視したAndroidタイプと,ネットブック型のChromeOSタイプの2系列でタブレット・コンピュータへの進出をすすめていると予想される。

ここで頭の整理のために,モバイル・インターネット時代の主役であるスマートフォン,タブレット,ネットブック,ノートPCという主要4端末に対して,OS覇権争いの構図をチャートでまとめてみたい。

 

■ マイクロソフト,グーグル,アップルのOS戦略の構図

まず全体像を俯瞰するために,横軸を三者,縦軸を主要分野として,その特徴を図にしてみよう。

Wars1_2

(図はクリックで拡大できます)

大型の順に上から,ノートPC,ネットブック,タブレット,スマートフォンとし,それぞれに対してMicrosoft,Google,Appleが構想するソフトウェア構造を三層(下からOS,ブラウザ,アプリ)であらわしたもので,黄色は三者に依存しない"Web+ブラウザ",白い部分は未発表の部分だ。

図の左側,Microsoftはシンプルな戦略で,PCにおけるWindowsの圧倒的優位性をいかにトップダウンするか(小型化していくか)に焦点が絞られている。ここでタブレットは既存のものではなく,次期タブレットとして開発中のCourierを対象としている。

それに対して図の右側,AppleはMacOSを持つものの,スマートフォンとiTunesで獲得した先行優位性を生かすべく,PC系とモバイル系を切り離し,iPhoneOSをいかに多様なモバイル端末に浸透させていくかに力点をおいている。

中央に位置するGoogleは,前述の通り,PCブラウザの拡張であるChromeOSとモバイル環境用に開発されたAndroidを並存させていく両刀戦略をとっている。おそらく彼らはiPhone/AndroidのネイティブアプリとHTML5普及(HTML5がきれいに普及すればアプリのOS依存がほとんどなくなる)を共に睨んでいるのだろう。近未来的にはiPhone対抗でAndroidを前面に出しつつ,長期的にはシンプルで美しい設計のChromeOS(プラスHTML5)上にコンテンツを集約したいと考えているのではないか。

もう一つ面白い点がタブレットの利用用途だ。Appleジョブス氏が徹底的にこだわっているのはタブレットの利用シーンだ。(今までのタブレットPC不振の原因だ) そのためAppleは,「iPhoneアプリ」やKindleが火をつけた「電子書籍・雑誌・新聞」は当然のこと,会員制による「テレビコンテンツ・ストリーミング」(月額3000円と噂されている),「音楽ストリーミング」(そのためにLaLaを買収したのだろう)の実現のために着々と布石をうっている。彼らが想定しているのは例えば次のような既存常識を覆すタブレット像だ。



【米出版大手Time社によるスポーツ誌のタブレット向けデモ(2010年中頃に開始予定)】

それに対して,Googleは現在のところ明確なコンテンツ戦略はなく,標準化を推進することで外部パートナーの多数参入を期待しているように見える。またMicrosoftは2社とは一線を画し,次期タブレットと噂のCourierでは独自の「電子手帳機能」に注力するようだ。

Microsoft版タブレットCourierのリークインターフェース公開 (GIZMODE, 2009/11/6)

 
■ モバイル・インターネット普及予測を加味すると

ところでこの4カテゴリー端末の出荷台数をモルガン・スタンレーは次のように予想している。(単位は百万台)

Mob42_2_2

例えば2013年を見ると,スマートフォンがトップで656百万台,続いてノートPCが247百万台,ネットブックが63百万台,タブレットが49百万台となっている。

仮にこの2013年の数字を縦幅で示すと,さきほどの図は次のようになる。

Wars2_2

一目でわかるのは,普及台数でスマートフォンが最重要端末となることだ。2013年には誰もが24時間30センチ以内に身につけているスマートフォンとの連係が極めて大きなウェイトを占めることが予想される。

そしてこの図からあえて強者を抽出し,バトル状況を表すと次のようになるだろう。

Wars3

両刀使いであるGoogleは,ノートPC(およびPC)分野ではChromeOSを武器にMicrosoftと覇権を争い,最重要端末であるスマートフォン分野ではAndroidを武器にAppleと一騎打ちという構図が見えてくる。

そしてノートPCをめぐる争いでは「クラウド・コンピューティング」が主戦場となり,逆にスマートフォンでは「アプリ」が雌雄を決する最大の要因となるだろう。

さらにその過程において,Google内部における「Android vs ChromeOS」の構図(競合か共存か)も第3の戦いとして浮かび上がってくる。

例えば次のような融合パターンが現実的だと筆者は考えている。

  1. OS自体は共存させながらコンテンツのHTML5化を促進させ,AndroidネイティブアプリをHTML5ブラウザ上にシフトさせていく
  2. ChromeOS上でAndroidアプリを稼動させるミドルウェアを登場させ,Andoird特有の通信機能等をChromeOSにオプションとして付加し,ChromeOSに集約させていく

いずれにしてもこれらはスマートフォンやHTML5の普及スピードやシェア状況を睨んで進められていくだろう。

 

以前,Googleが「20%ルールでイノベーションのジレンマを巧妙に回避している」というブログ記事を書いたが,GoogleとApple(ジョブス氏)との事業方針の違いは実にわかりやすく,大変に興味深く感じている。

ジョブス氏率いるAppleは,一極集中,徹底的に精魂こめて一つの製品を生み出す。そのため情報は非公開,クローズを貫く。ただし製品開発はあくまでマーケット志向,コンテンツ志向で,ハイエンド商品を適正価格で提供することにこだわりを持つ。そんな彼らには熱狂的なロイヤルカスタマーが多く顧客満足度も極めて高い。

一方の新世代企業Googleは,シンプルでオープンなコンセプトを打ち出し,常に業界標準を狙う。製品やサービスは拡散志向で,そのかわり良いものが淘汰されていくシステムには徹底的にこだわる。テクノロジー志向が強く,ローエンドというより無料サービスにより顧客を最大化する戦略を常套手段としている。Appleとは別の意味でブランドバリューは絶大だ。

もっとシンプルにいうと,ジョブス氏のやり方は人間くさく,グーグルのやり方は神に近い。
近未来的にどちらに軍配が上がるか予想するのは困難だが,長期的にはジョブス氏の存在に大きく依存しているアップルが不利であることは間違いないだろう。


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