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企業Twitterは「顧客-社員-経営者」を結ぶ情報パイプラインとなる

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Twitterの社内への積極導入でもっとも有名な会社はザッポスだろう。

そしてそれを推進しているのは,自らTwitterフリークを公言してはばからないトニー・シェイCEOだ。

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【ザッポスで一番謙虚な男,トニー・シェイCEO】

 
■ ザッポスはピープル・ブランディングにTwitterをフル活用している

ザッポスでは,現在では約500名(全社員の1/3にあたる)が正直でオープンなコミュニケーションの手段としてTwitterに参加している。そしてそこでは自分が考えていることやその時に取り組んでいる活動について社内外に自由に発信することが奨励されている。

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【twitter.zappos.com オープンな社員のTwitterコミュニティ】

では,なぜトニー・シェイ氏は,社員の貴重な時間をTwitterなどに使ってしまうのか?遊んでしまうのではないか?情報漏えいやリスクについてはどう考えているのか?少なくともこれが一般企業の常識だろう。

ザッポスがブログやTwitterを通じて実践していることは「社員によるピープル・ブランディング」だ。一般常識のブランディングは商品やサービス,利用シーンなどに対して価値やイメージをつくりこむものだが,そのような商品と乖離したブランディングは直ちにツイートされて逆効果になりかねない時代だ。

正直に,オープンに,会社と社員とブランドが三位一体になるようなカルチャーこそ,一般生活者が求めているものであり,ザッポスがソーシャルメディアで社員を通じてプレゼンテーションしたいものなのだ。(さらに詳しくは こちら をどうぞ)

そしてその結果,ザッポスはマスメディアへの広告宣伝費をほとんどかけていないにもかかわらず,virtue社が2010年1月5日に発表した Top Social Brands of 2009 にて,スーパーブランドを押しのけ,全世界で60位に入る快挙を成し遂げた。ちなみに1位はiPhone,2位はDisney,ザッポスより下位には Macdnald's(62位),KFC(66位),IKEA(72位),Pepsi(73位)など巨額の宣伝広告費を投じるスーパーブランドが名をつらねていることからも,「ピープル・ブランディング」 がいかにパワフルかが推し量れる。

そして日本ではソフトバンクの孫正義社長だ。Twitterをはじめてすぐにそのパワーと効用にインスピレーションを受け,ソフトバンク全社員2万人にTwitterを利用を命じたことが報道されている。

 
■ Twitterが崩しはじめた,企業におけるベルリンの壁

一方で,ソフトバンクの発表を違和感を持って感じられたビジネスマンも多いことだろう。特に不正アクセス防止法や個人情報保護法などにより,日に日に(利便性と引き換えに)堅牢性を求められる企業情報システム部門にとっては,自社には縁遠い,あり得ない選択肢だと感じている方が多いのではないか?

しかし現実にはソーシャルメディアの企業活用は着実に浸透しており,米国大企業では70%以上がソーシャルメディアを,50%以上がTwitterを活用するにいたっている。

では,このTwitterの全社利用が意味するものは何か?

それは,企業が構築した堅牢な情報ファイヤーウォールを物理的に超えるだけでなく,企業内で頑なにクローズしていた組織的な壁をも乗り越え,生活者と社員が直接対話をしはじめるということだ。

まず今までの生活者と企業との関係を図式化すると次のようになるだろう。
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(以下,図はクリックで拡大できます)

左側はさまざまな生活者(顧客),右側が企業内の社員をあらわしている。企業サイドは生活者(顧客)とのコンタクトポイント(コールセンター,店舗,営業など)を極力絞り,企業内対話は生活者(顧客)と隔離されて行なわれることが一般的だ。さらにこの様子を分解すると次のようになるだろう。

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生活者(顧客)の声は,情報システムのファイヤーウォールでフィルタリングされるだけでなく,コンタクトポイント,担当部門と組織を通過するごとに劣化・変質していく。理由はシンプルで,人間は直接対話に弱いからだ。社内組織になればなるほど,生活者(顧客)との対話より社内や管理層との対話比率が多くなる。実際に企業に収益をもたらしているのは生活者(顧客)であるにもかかわらず,日頃接することが多く,かつ人事評価を左右する社内管理層に視点が向いてしまう。そのため,各段階の意思決定が顧客ニーズと乖離する結果となることが多い。

一方,生活者はインターネットツールやソーシャルメディアを自由に活用できるため,今や企業内を大きく上回る情報収集や分析能力を持っており,顧客ニーズとマッチした企業か,信頼おける企業かどうかが常にチェックされ,乖離するブランドは退場を余儀なくされる時代となった。

その時代変化を鋭く察し,競合他社に先手を打ってTwitterを導入することで,透明性を持って顧客と対話する新しい企業文化を取り入れようとしているのが.ザッポスであり,ソフトバンクであると言えるだろう。

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この図のように,Twitterを全社導入すれば,生活者(顧客)と企業の間の壁が透明に近くなり,生活者と社員が人間対人間として対話しはじめることになる。さらに分解すると次のようになる。

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この図のように,生活者と社員の対話における情報は二通りある。ひとつは赤いライン「生活者の声」,もうひとつは青いライン「経営者や社員の声」だ。

このうち,「生活者の声」はダイレクトに全社に届くのが好ましいが,「経営者や社員の声」はそう単純に考えることはできない。企業機密しかり,個人情報しかりだ。そのため,経営者と社員,社員と生活者の間に,片方向だけ機能する半透明のフィルターを用意する必要が出てくることになる。

 
■ 生活者と企業間におくフィルターの仕組み

そしてそのフィルターは,システムとしての仕組みと,組織運営としての仕組みの両面で検討する必要が出てくるだろう。

システムとしての仕組みは,シンプルなもので言えば,GroupTweet のようなクローズドなグループでTwitterを利用できる仕組みや,CoTweet のような多人数でアカウントを共有する仕組みなどの機能だ。

またもう少し統合的なものであれば,Salesforceが新しく発表したTwitterとも連係するコラボツール Salesforce Chatter はかなりすすんでいるし,Yammer のような企業向けミニブログサービスもTwitterと連係するようになるのではないかと思っている。

またZapposの社員Twitterポータル,twitter.zappos.com なども面白いアプローチだ。いずれにしてもこの分野は2010年,2011年と大量のソリューションが出てくるだろう。

そして,もうひとつ,組織運営の仕組みも同時並行して確立してゆく必要がある。これがいわゆる「ソーシャルメディア・ポリシー」と総称されているものだ。

例えば,先ほどの例でいくと,企業から顧客へ漏洩してはいけない情報としては次のようなものがある。

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これら個人情報や機密情報の漏洩をシステムだけで完全にプロテクトすることは(遮断する以外には)不可能であり,ソーシャルメディアを前提とした運用ガイドラインを策定し,就業規則を含む既存の各種規程を再整備し,それに従った社内教育をすすめ,ソーシャルメディア活用とリスク管理を社内に浸透される必要が出てくるのだ。

ちなみに以下の記事によると,米国CiscoSystemsの調査(2010年1月13日発表)によると,米国企業の75%はソーシャルメディアを活用し,50%はミニブログ(Twitter)を活用しているが,ソーシャルメディアポリシーを策定している企業は20%に留まっているとのことだ。

企業の75%がSNSを利用、しかしポリシーを設定しているのは20%のみ

このポリシー策定については,米国では2010年,日本では2011年に本格的に企業が導入しはじめると筆者は予想している。

 
■ 企業Twitterの本質は,顧客-社員-経営者をつなぐ情報パイプライン

最後に注意したいのは,それならば「社外」と「社内」に完全分離すればよいという発想は安易だということ。顧客から隔離された社内ソーシャルメディアは,ドライブ要素に乏しく,好きな人だけアクセスしている時間つぶしツールになりかねないからだ。

この点,オルタナブロガーである吉川氏が鋭く指摘されているので参照してほしい。
SMART4Bの感想と社内Twitterの可能性について (2009/5/28)

 
これは私見だが,ソーシャルメディア,特にTwitterというツールの本質的な素晴らしさは「顧客-社員-経営者をつなぎ,信頼の絆を深める」ことにあると思う。

そしてTwitterは「社員力を活かし,最高の顧客サービスを実現する」ことを目的として活用した場合に,その潜在的なパワーが最大限に企業内でも活かされるのではないだろうか。

   

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