【読んでみた】ピンで生きなさい:会社の名刺に頼らない生きかた(久米信行さん)
わたくしが勝手に師匠と慕っている、老舗国産Tシャツメーカー久米繊維工業の久米信行さんの新刊が出ました。このタイトルを拝見してから、気になって仕方のなかった本です。
今年、久米さんの勉強会に参加できたご縁で、ブログに書かせていただいたり、フェイスブックでもやり取りさせていただく中、ラッキーなことにサインをして早速お送りいただきました。ありがとうございます。
一回目、まずはがっついて勢いで読み、二度目は付箋を貼りながらゆっくりと、そして今朝、三度目は付箋を貼った箇所だけを、いろいろ妄想しながら読みました。(名古屋名物ひつまぶしかい!)
おもしろかったです。
ピンで生きなさい、と言われると、起業をすすめる本なのかなと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これはむしろわたくしのような勤め人の方、そして就職を控えた若いみなさんにお薦めしたいですね。
わたくしは、久米さんが書きたかったのは、戦後のどん底から高度経済成長期を経て、バブルが弾けるまで、国の浮き沈みのひと通りを経験した日本人が、これからどう立ち振る舞っていけば、世界の方から親しまれ尊敬される民族になれるかということなのでは?と読みました。
なぜなら、何度も出てくる明治大学での「物足りない」教え子たちへの叱咤激励がひとつ。これはもちろん、明大生がダメだと言っているわけではなく、同世代の、これから日本を背負って立つ若者たちへの、心を鬼にしてのエールだと感じました。
また、われわれ大人にも手厳しい。お役所仕事や大組織の事なかれ主義、エリートほど大得意の問題先送り体質、酒場で愚痴をこぼしながらも長いものには巻かれるサラリーマン根性などについて、ビシビシと愛の鞭を振るわれています。
人間、大人になるほど自分のことは変え辛いもので、耳が痛いお話も多かったのですが、同時に「そうそう!そういうことを目指したかったんだけどなかなか輪郭が出せなくて。」ということを軽やかに代弁、ベクトルを提示してくださっている部分も多く、共感のアドレナリンが噴き出す一冊でもありました。
その中で、特に「大きな会社のサラリーマンというレールに乗る危うさ」の部分について、自分にもズドンと思い当たることが。
わたくしの前職は医薬品メーカーの顔も持つ、中堅の商社の営業マンでした。商社ということもあり、武勇伝の塊のような猛者社員がたくさんいました。
まさに歩く伝説といった感じの上司や先輩に、地味で大人しいわたくしは大いに刺激を受けたものですが、逆にそうではない人も少なくなかったのです。どう見ても一生懸命仕事をしているようには見えない中年の先輩社員、、、
良くも悪くも日本企業の「めったに解雇されない」という雰囲気の上にあぐらをかき、のほほんとしている人たち。正直、給料泥棒だと思いました。まだ若かったので、目に見えない部分を知らずにそう思っていただけかもしれませんが、大まかには間違っていないはずです。
そういった先輩たちを見ていて、この「ぬるま湯」に浸かっていては、いつか自分もこっち側の人間になってしまうのではないか?後輩にこんな風に見られるようになったら恐い、そう思ったのです。
そんな折に、すごいタイミングで「手伝ってくれないか」という誘いがあったので、考えた結果、従業員7人の小さな文具店つばめやに転職を決めたのでした。
もちろん、そのまま商社に残って突き進む道もあったのですが、大きな組織ゆえの「何をするにも根回しが必要」「社内営業も重要」という部分にどうしても馴染めず、小さな所帯のほうがフレキシブルかつスピーディで、結果が出しやすいだろうと安易に考えてしまったんですね。
「たら」「れば」を言っても仕方ありませんが、そのまま前職にとどまっていたとしたら今はどんな人生を送っていただろう。たまに考えます。
しかし、今思えば、当時の自分はもうすでに「ぬるま湯」に浸りきっていて、真剣に前進しようとしていなかったのではないか?という思いが強いですね。
だって、本書に書かれているような、「ピンで生きる」ための要素を、何ひとつ持ち合わせてはいませんでしたから。
例えば、社外での勉強、異分野の方との交流など、会社の看板なしに生きていくためのきっかけになるようなことを、まったくしていませんでしたし、今から思えば恐ろしくなるほど本を読まない時期でした。
そう、極めて視野の狭い、ただの会社人間だったんですね。そういう意味では、なんでも自分でやらなければならない零細企業への転職は、正解だったのかもしれません。
小さな会社で仕事をしていく中で、特に重要だなと思ったのが、「師匠」の存在です。
人種のるつぼ、いろんな人材がいた商社と違い、社員数名の文房具店には「師匠」がいないわけです。(もちろん経験豊富な先輩方は師匠に違いないのですが、同じ業界の同じ会社の中では新しいことは学べません。)
「ぬるま湯どころじゃない。自分で外に師匠を求めないと、このまま井の中の蛙だ。」
つまり、零細企業というところは、逆にピンで生きていくしかない場所だったんですね。
それ以来、何をするにも勝手に師匠を見つけて、真似しながら学ぶようになりました。メルマガの師匠、文章の師匠など、最初は仕事上のスキルに関する師匠が多かったのですが、そのうち生き方、人柄や趣味に関する師匠も増えていきます。こうなると自分のチャンネルも増えて、どんどん楽しくなっていったのをよく覚えています。
そんなお歴々の中で、久米さんは「遊ぶように働き、働くように遊ぶ師匠」という感じでしょうか。
絶妙のバランスで「公私混同」もしくは「働遊混合」しながら進化し続ける久米さんの姿は、追っかける対象としてはもう最高です。言い換えると、「50歳のときにあんな風になっていたい師匠」でもありますね。(笑)
もちろん久米さんにもたくさん師匠がいらして、今回の本でも「師匠を持つすゝめ」をじっくりと書いておられる。そしてこれが、この本の根底にある重要な流れのひとつだと思います。
さて、わたくしもつばめやに来てこの12月いっぱいで10年間が経ちます。最初から「10年間はお手伝いがんばります。」と言って転職しましたので、そろそろ集大成をしっかりして卒業を考える時期。
ですから、わたくしにとってこの本は、果たして自分がどれくらい「ピンで行きていける人間に近づけたか」をチェックするために、これ以上ないタイミングで現れてくれた奇跡の本でもあるのです。
チェックの結果ですか?もちろんまだまだ全然ダメですよ。(笑)
でも、ピンで生きる師匠方は、きっと全員同じことを仰ると思うんですね。「自分なんてまだまだ」だと。
そんな諸先輩の意識や存在を感じながら、久米さんが冒頭で書かれている、
本来、誰もが持っているピンで生きる力を取り戻す人が、全体の一割、さらに二割現れたとしたら、組織も日本も大きく変わる。
ただ、景気がよくなって経済が回復するだけではない。
多士済々の個性的な人、元気で行動的な人が増えて、社会全体が明るく楽しくなる。
ことを真剣に祈りながら、ひとりでも多くの方にこの本を読んでいただきたいなと、切に願う今日このごろ、みなさまいかがお過ごしでしょうか。( ´ ▽ ` )ノ
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