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【こっそり公開】誰でもできるけどほとんどのお店がやらない繁盛飲食店の仕組み

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美味しいとんかつを食べによく伺うお店が渋谷にありまして、「かつ吉」さんという老舗なのですが、三代目のご主人は同い年ということもあり、仲良くさせていただいております。
いつ行っても繁盛しているので、わたくしお昼などは開店直後の11時半に駆け込むほどです。あ、混雑想定時間の場合は席を予約させていただいたり。(基本的に一日一食中なので、行くのはお客さんがあるときだけですけどね。)

とんかつ(夏は冷やしかつ丼という変わりメニュー、冬は牡蠣フライが絶品だったりするので毎回まよって困るのですが)が美味しいのはもちろん、店員さんの対応も気持ちよく、誰をお連れしても恥ずかしくないお店。
また、一度お連れした方がかなりの確率で他の誰かを連れてリピートすることからも、お店の「完成度」の高さがおわかりいただけると思います。

同じ商売人として、そのヒミツには非常に興味があり、お邪魔する度にいろいろ気付いて感心しているのですが、今回はそんな繁盛店の仕組みの中で、誰でもできるものをこっそりご紹介しようと思います。
特に飲食店さんの参考になれば幸いです。

人気の小冊子なので、「売り切れ」の場合も多いのですが、お店を入るとすぐ、カウンターにこんな冊子が置いてあります。

Nougaki

手作りです。表紙は厚紙を折ったものですし、印刷のプロからしたら「お粗末」なんて言われてしまうかも知れません。また、いわゆる「編集」らしいことはほとんどされていない本当に素朴な小冊子。
中には、三代目のお父様が書かれた、お店に関するショートエッセイ(のようなもの)が十数編。全部で17ページの、本当にちょっとしたものです。

例えばこんなお話が載っています。(半分くらいはメニューに関する「蘊蓄」なのですが、あえてこのお話を引用させていただきます。) ※実物は縦書きです。


『箸置きについての繰り言』

九州の小さな定食屋に入ったら、テーブルの上に何気なく「箸置き」が置いてありました。
私は凄い優しさを感じました。

突然、変な疑問が湧いてきたのです。
「どうして東京の飲食店は、箸置きを置かないのだろう?」

私は店を作るために、檸、栃、楢などの堅木の材木を丸太買いしています。
「うちにある堅木の端切れで箸置きを作り、テーブルの上に置いたら、お客様はきっと喜んでくれるに違いない!よし……」

わが家のガレージで、その堅い木を、ますサイズに切って、それをグラインダーで形にしていきます。
凄まじい音と、猛吹雪のような木の粉。
私は、目にはスキーのゴーグルをかけ、ロには大きなマスクをして、粉まみれで一つ一つを形に仕上げていきました。

それに「漆」をかけるのが、我が社の社長の仕事です。
漆塗りは、明るい部屋では駄目なのです。
薄暗い部屋で、一つの「箸置き」に、彼は何度も漆をかけていきます。

そうやって六百個作り上げ、渋谷と水道橋と新丸ビルの「かつ吉」と「菩提樹」の四軒の店の全部に出す事が出来ました。

とても評判が良いので、すっかり嬉しくなりました。
ところが、たったニケ月で二百個も無くなっていたのです。

何と表現したら良いのか?
とても複雑な気持ちになっています。

こんなことがありました。
若いお母さんが、小さなお子さんを連れて食事にみえたのです。
テーブルの上の「箸置き」を指差して、お子さんが言いました。
「あツ、うちのと同じ!」

お母さんの顔は、ちょっと赤くなりました。

一九九九年三月二十五日
『かつ吉』の主人  吉田次郎


味わい深い、いい文章ですよね?

こういった、小さなストーリーでいいのです。
なんだかお店のご主人の人柄が伝わるようなちょっとしたお話を、料理を待っているお客様に読んでいただいたらいかがでしょう?

もちろん、友達や恋人と来店して、息つく暇もなく話し込んでいる人には無用のものですが、そんな人ばかりではありません。
しゃべるのもおっくうな倦怠期のご夫婦もいらっしゃるでしょうし、お一人様の女性もいらっしゃるでしょう。
そんなときに、こうしたニュースレターや小冊子が役に立つのです。

きっと、より興味を持って、美味しく料理を召し上がっていただくための、最高のスパイスになるはずですよー。

以上、繁盛店で垣間見た、お客様に楽しく食事していただくための工夫でした。
(ヨシダサンカッテニゴメンナサイ~)

(9/27追記)
この小冊子は、高倉さんと仰る超常連さんが、二代目吉田次郎さんの文章の中から15分程度で読めるように編纂されたものだそうです。お客さんが口コミツールを作ってくれるなんて、どれだけ愛されてるんだって、ますます感心してしまいました。m(_ _)m

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