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「人工知能とドローンが織りなす超近未来のA世界」

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書評「虹を待つ彼女」、著者・逸木裕

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人工知能とドローンがキーワード。シンギュラリティという言葉に代表されるように、人工知能によって世の中がどう変化していくのか、より正確に言えば人間界がどのような扱いを受けることになるのか、気になっている人は多いはず。その一つの答えがここに記されているとも思います。

何ができて何ができないのか、何が起こりえて何が起こりえないのか、そのような基本的な概念や具体的な事象についても登場人物が言及し、人工知能の開発企業が訴えられ、ストーリの中で裁判沙汰になるシーンもあります。その解決法は? 

企業に迫られる対応や開発者自身の揺れ動く感情も、特定の職業を題材とした小説としても、大変興味深いものがあります。

というのもそういったコンテンツは、著者自身が作家を生業としているのではなく、ウェブエンジニアでありプログラマーであるところに源を発しており、深みがあり説得力があります。池井戸潤さんが元・銀行員としての立場から「半沢直樹」やその他の作品を作り上げられているのと同じですね。同じく、特定の職業を題材にした作品としては、最近では、北川景子さん主演のドラマ「家を売るオンナ」もそうでした。

人工知能の開発者である主人公が、いちいちロジカルなのにも舌を巻きます。東野圭吾さん原作で、福山雅治さん主演の「ガリレオ」シリーズを彷彿とさせます。極限状態での冷静な判断のシーンで、お前は「アカギか!」とも。

バーチャルな世界と現実の世界、晴と雨、理系と文系、人工知能と人間、感情とロジック。新しい価値・概念・技術を導入する際に生じる、リスクとベネフィットの関係。様々な対比も表現されています。

人間界に新しい価値観を導入するまでの「プロトタイプ製作→原理実証→(必要に応じて第二プロトタイプ)→実機製作→社会実装」といったプロセスについても描かれていて、先日もとある中小企業の経営者の方と、どのようなリスク(訴訟や法に触れる可能性)があり、実際に起きた際にしっかり対処できるのか、またそれらは容認できる規模のものなのかなどについて話した内容とも方向性として合致するものでした。

カテゴリーとしては、当然「横溝正史ミステリー大賞」でありますから、ミステリーなんだと思いますが、描かれている恋愛的な要素も特殊で、江戸川乱歩さん作で、羽田美智子さん主演の映画「人でなしの恋」の現代版・未来版ともいえるような側面もあるかともいます。この恋愛要素はこの作品の肝ともいうべき点ですので、これ以上は言及いたしませんが、とにかく老若男女を問わず、またどのようなお仕事、どのような立場にいらっしゃる方でも楽しめる要素が潤沢に組み込まれています。

IT業界の最近の流行の人工知能を題材としていますが、この話題に疎い方にもわかるよう比較的平易な表現がなされていますし、また展開が徐々に複雑になっていくと、それまでの復習のような台詞もあり、読者への配慮も怠っていない作品となっています。

是非、いずれ映画館でみたくなるような内容で、読後感も切なくもあり、どこかすがすがしい感じも残るような、印象に残る・余韻に浸れる作品です。

作品中には4つのゲームが登場しますが、実在すれば(実在させれば)どれもちょっとやってみたいなぁと思うのは私だけでしょうか?

ミステリーらしく、次の展開を予測しながら、時には期待通り? 時には大きく裏切られ、鳥肌が立つようなシーンもあるのではと。
なにより、著者の幅広い知見がこれだけの要素を盛り込み、多くの方から支持されそうな作品を作り出していると思われます。このようなすばらしい作品を世に送り出してくださった著者の逸木先生に感謝申し上げます。

最後にタイトルについてですが、「虹を待つ彼女」の「彼女」は「女」でもなく「少女」でもなく、はたまた「オンナ」でもなく「彼女」でないといけない明確な理由が最後の方で明らかになったというのが個人的な感想です。この書評のタイトルで「世界」の前に「A」をつけた意味は、是非作品をお読みいただければということでこの場を締めたいと思います。個人的にもブログ全体のタイトルとして使用しております。

今回も折り目がいっぱいつきましたで、写真を!
「折り目」の意味についてはこちらの「良い本とは」の項目をご参照ください。

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