ピアノを弾く手の形はどうすればいいの?
子供の頃、タマゴを軽く握るような形で弾くように指導された方も多いかと思います
鍵盤の上に置く手が、ちょうどお椀をひっくりかえしたような形になります。
練習曲を弾くとき、この形が崩れると、先生に手の甲をぴしゃりと叩かれた、などという話をよく聞きます。
実は私も、習い始めの頃「手は丸い形で」と教えてもらいました。
しかし、先生を変わったとき「その手の形だけでは音色に限界がある」と言われました。
信じ切っていた形を否定されてショックだったのを覚えています。
その方法とは、基本的に手の指は寝かせます。指の腹で弾くような感じです。関節が急な角度で丸くなることはありません。
力を抜いて、自然に手を鍵盤の上に置き、親指と人差し指の間にできたゆるやかな楕円形が見えるようにします。あくまで自然な形です。
この手の形の方が、指先の鍵盤に当たる面積が広くとれるので、豊かな音が出ます。
指の腹を最大限に使って、いろいろな角度でタッチしていきます。
そうすることで音色に微妙な変化がつくのです。
手を丸めて弾くと、指先の小さな面積でしかタッチできないので、音色が単調になってしまいます。
細い針でつつくのと、太いこん棒で押すのとではどちらが安定した力が鍵盤に伝わるかということを考えてみれば分かります。
さらに寝かせた指で良い点は、可動域が広く、オクターブなどの幅のある音程を最小限の動きでつかみやすいのです。
私が、一番最初に驚いたのは、ロシアのピアニスト、エフゲニー・キーシンのリサイタルでした。
手の形だけ見ていると、子供の頃「やってはいけません」と言われてきた全てのことをやっています。
しかし、その演奏は、豊かでビロードのような音色、センスの良い自由自在なフレージング、どこまでも伸びていくスケールの大きい音楽で、圧倒されました。
そしてさらに驚いたのは、巨匠ウラディーミル・ホロビッツのVTRを見たときです。
指は、ほぼ寝かせっぱなし。
ところどころ、ちょっと指の角度を変えるだけで、ものすごい極彩色の音色が次から次へとあふれ出てきます。
画面だけ見ていると、まるでコタツにでも座っているような静かな様子で、動きもほとんどないのですが、強靭なテクニックでサラサラとどんな難曲でも弾いていきます。
こんなピアニスト、今も昔もまだ一度もお目にかかったことがありません。
とにかく衝撃でした。
その後、いろいろなピアニストを見てきましたが、お椀を返したような手で弾き続けている人はほとんどいませんでした。皆さん、さらに改良を加えて自分の手の形や体型によってオリジナル・スタイルで弾いています。
曲に合わせて出したい音色をパレットから選ぶように自由に弾いていいんだ、ということがやっと分かってきました。
どうしても欲しい音色があれば、指を二本使ってもいいのです。親指の付け根で弾いてもいいのです。
山下洋輔さんの肘打ちとまではいきませんが、最近ラフマニノフで拳骨を使い、周りに驚かれたことがありました。
弾くことは何年やってても大変ですが、手の形にとらわれず、音色の要求に従って選んでいくと、さらに演奏に広がりが出て面白くなってくると思います。
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