ツェルニーを練習するとピアノが上手になるの?
つい先日、ピアノの先生をしているU先生と話す機会がありました。
「永井さん、生徒にツェルニーって弾かせてる?ほとんど意味ないと思うんだけどなあ」
ピアノを少しでもやったことのある方なら、ツェルニーの名前は聞いたことがあると思います。
カール・ツェルニー(1791年~1857年)は、作曲家でピアニスト。ベートーヴェンの弟子でもあります。
温和な性格で、人の悪口など言えない性分。
反対に、師匠は性格の激しいベートーヴェンです。
ある時など、レッスンで癇癪を起こしたベートーヴェンが、ツェルニーの腕に噛み付いたこともあるそうです。ベートーヴェンの弟子はさぞかし大変だったであろうと想像します。
気が弱かったせいもあり、演奏家としてよりも作曲家、ピアノ教師として活躍しました。
ツェルニーは、ピアノの難しさを知り尽くしており、技術克服のための練習曲をたくさん作曲しています。
U先生、「ツェルニーってつまんないでしょ?生徒はほんと弾きたがらなくて。高3で音大受験希望なのに、まだツェルニー弾いている子がいてね。受験課題はショパンの練習曲なのに。」
ツェルニーは、段階的に難易度が上がるように作られています。
やさしい順で、100番、30番、40番、50番・・・というように進みます。
50番を終わると、一応「ショパンの練習曲を練習できるくらいには力がついている」とされています。
楽譜の解説冒頭に、
『あまりおもしろくないでしょうが、そうした意図の上からも、決して途中でやめることのないよう各自努力してください』
とあります。
U先生の言うとおり、テキスト自身『面白くない』と宣言しているくらいです。
現在、ピアノ中級程度の練習曲があまり存在していません。
他にも数種類のテキストがありますが、音楽的に深いか?弾いていて楽しいか?と聞かれれば、似たり寄ったりだと思います。
曲想は、実質本位。
目的はシンプルで、あくまで「メカニックの練習」なのです。
スポーツで言うと、競技以外のトレーニングのようなものだと思います。
音が機関銃連射のように並んでいます。難易度が進むにつれて、音の量も多く、速くなっていきます。
ツェルニーの曲集は、一曲が2~5ページくらいの短い曲で構成されていて、各曲の課題がはっきりしています。
例えば、親指の練習であったり、左手の動き、分散和音、オクターブ(手を広げる)の練習など、各テーマだけに集中するのです。
そして、ほとんどが単純な音構成になっていて、すぐに譜読みができてしまうのです。
ショパンの練習曲のように、音楽内容追求のため1曲に数ヶ月かける、などということはありません。
さっさと譜読みをすませて、だいたい2週間に1曲のペースで、どんどん進んでいけるところが良い点です。
そうすることで、最短の時間で様々なメカニックがいつの間にか身についているというわけです。
この頃は、メカニックを演奏会用の曲からマスターする指導法もあります。
しかし、短い時間で効率よく鍛えるには、ツェルニーは良く出来ているテキストだと思います。
趣味のピアノならあまりお勧めしませんが、音大などを目指すのであれば、やっていて損はないと考えます。
フランスの作曲家クロード・ドビュッシー(1862年~1918年)の練習曲集の第一曲、「五本の指のための練習曲、チェルニー氏による 」(ハ長調)という曲は、生真面目なツェルニーの練習曲を明らかに皮肉っています。
でも、この曲集もかなり芸術的レベルが高くて、結局中級レベルでは難しいのですよね。
現代の才能ある作曲家の方、どなたか良い練習曲を作曲してくださいませんでしょうか。