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新型コロナ: 「インフルエンザでも人は死ぬ」との比較※追記あり

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※2020/7/4重要な追記。トップページに案内されているとおり、オルタナティブブログ全体でコメント機能が無効化/非表示となりました。新たなコメント、過去コメントについては「はてなブログ」を参照してください。

※2020/4/1追記。「新型コロナ: お詫びとお願い」という記事を書きました。
※2020/4/5追記。本文冒頭に「まとめ」、最後に「CDCによる情報」を追加しました。

※2020/4/5追記。2002/4/13修正。
■まとめ
長くなったので要点のみまとめておきます。
新型コロナを「インフルエンザでも人は死ぬ」と同じようなものと考えることはできません
・「CDCによる情報」によれば新型コロナの致死率はインフルエンザの20倍程度になり、50人に1人が死亡します(※1)。
・致死率の低くなる若者でも500人に1人が死亡します(※1※2)。
若者でも2%(50人に1人)以上の確率で人工呼吸器や人工心肺を使うほど重症/重体化します(※1)。場合によっては後遺症が残ります
※1 CDCが推定する致死率は全体で「1.8~3.4%」であり2%として計算しています。また、20~44歳の致死率は「0.1~0.2%」、集中治療室に入る割合は「2.0~4.2%」と推定されており、それぞれ「0.2%」、「2.0%」で計算しました。
※2 若者の死亡率としてCDCの推定値の上限である0.2%を採用したのは、山中伸弥氏が中国のデータをもとに「20代、30代であっても、感染者500人に一人くらいが死亡しています」と表現されているものに合わせました。
※2020/4/14修正。コメント欄でのご指摘を受けて、まとめの表現を見直しました。CDCの推定における「死亡」の割合を全て治療が間に合っていたものと考えて「治療が間に合った場合でも50人に1人が死亡します」と表記していましたが、個人的見解とのご指摘があり、この表現を削除しました。CDCの推定に関する詳細は本文最後の追記を、修正内容についてはコメント欄をご参照ください。
※コメント欄に紹介したCNNの記事では、致死率は低ければ0.66%程度と紹介されていますが、それでも「インフルエンザと同じ扱いをすることは明らかな誤り」と明言されています。

■ インフルエンザでも人は死ぬ
厚生労働省の「新型インフルエンザに関するQ&A」というページには、季節性インフルエンザの感染者数と死亡者数について次のように書かれています。

例年のインフルエンザの感染者数は、国内で推定約1000万人いると言われています。
国内の2000年以降の死因別死亡者数では、年間でインフルエンザによる死亡数は214(2001年)~1818(2005年)人です。
また、直接的及び間接的にインフルエンザの流行によって生じた死亡を推計する超過死亡概念というものがあり、この推計によりインフルエンザによる年間死亡者数は、世界で約25~50万人、日本で約1万人と推計されています。

(新型コロナについて調べるまで知りませんでしたが)「超過死亡概念」とはインフルエンザをきっかけに肺炎になって死亡した場合に、死因を「肺炎」とした場合でもインフルエンザによる死亡者に含める考え方です。ワクチン接種などでインフルエンザにかからなければ死なずに済んだ数という言い方もできます。そして、この数字をもって「インフルエンザでも1万人死んでるのに、(現時点で)1000人50人(※)くらいの死亡で騒ぐのはオカシイ」(そして自粛による経済ダメージを考えろ、というオマケがつく)という意見があります。
はたして、新型コロナは騒ぐほどのものではないのでしょうか。
※2020/4/6、執筆時点(3/25)の感染者数を死亡者数と勘違いしていたようです。お詫びして修正します。3/25までの死者数は43人でした。なお、4/5までの感染者数は3271人、死者数は70人です。(出典:WHO)

■イタリアの状況
ニュースなどでさんざん報じられていますが、今や新型コロナによる死者数が中国を超えたイタリアは酷い状態に陥っています。こちらの記事によれば医療崩壊した現場のために、引退した医者や卒業前の学生に資格を与えて対応しているという状況です。都市は封鎖され、生活必需品除く全産業の生産が停止されています。教会では、感染者を看取った聖職者までが相次いで亡くなっているそうです。
現在のイタリアの死者数は6000人くらいですから、イタリアの人口(6000万人)を考えれば、日本のインフルエンザによる(超過死亡概念による)死者数と大差ありません。それでは、なぜ、こんなに問題になっているのでしょう。
イタリアの感染者数は、現時点で63927人です。1000万人が感染して1万人が死亡するインフルエンザと違い、感染者の1割弱の人が亡くなっているのです。もちろん死者の急増で医療が追い付いていないため平時なら治せる患者が治せないという理由もあるでしょうが、そもそもイタリアでは"まだ"千人あたり1人しか感染していないのです。それでも重症化する人がこれだけ多いために深刻な問題となっています。

■強く規制されるヨーロッパ各国
イギリスでは、ボリス・ジョンソン首相がどうせ感染を防ぐことはできないという想定で、社会に規制を設けず免疫を持たせるという戦略を発表しました。しかし、この方針は翌日には転換され、強く規制されています。今、ジョンソン首相は「医療従事者を感染から保護するために自宅にいなさい」というメッセージを出しています。そして、そのイギリスでも、現時点での感染者数は8077人、人口1万人あたり1人という"低レベル"です。
ドイツでは、メルケル首相に予防接種した医者が感染していて自宅隔離に入りましたが、こちらも厳しい制限が課されています。
あまり話題になっていませんが、人口800万人弱の小国スイスは人口当たりの感染者率がイタリアに近づいており、こちらも6人以上の集会禁止(罰金あり)など、多くの規制が課せられています
しかし、どの国もイタリアの千人に1人よりは感染者率は低いのです。これでインフルエンザのように10人に1人が感染するという状況になったら、どうなるのでしょう。そこまで悪化しないと誰がいえるでしょう。

■致死率
新型コロナは感染したら即死というものではありません。(もし、そういうものだったら、もっと早い段階で発見され手が打たれていたかもしれませんが) 感染者数が急増している場合は、死者数の増加はある程度の間をあけて追いかけることになります。その点では、増加のとまっている中国の例が参考になります。現在、中国の感染者数は81171人、死者数は3277人ですから、そのまま割り算すると致死率は4%ということになります。無症状の感染者4.3万人を計上していなかったとのことですし、全員検査したダイヤモンド・プリンセスでは感染者の半数が無症状でしたから、感染者全体に対する致死率を低めに半分と見積もっても2%です。これは低い数字でしょうか。
前述した数字をもとにすればインフルエンザの致死率は0.1%ですが、その20倍です。「致死率が高いのは高齢者」というのはインフルエンザも同じです。だからこそ平均0.1%くらいの致死率でも、ほとんどの健康な若者はインフルエンザをおそれずワクチンを接種しない人が多いのです。2%というのはかなり深刻だと思います。そして、イタリアの例を挙げるまでもなく医療が追い付かなければもっと悪い数字になるのは必至です。
ドイツの致死率(現在0.4%)に期待してはいけません。ドイツでは大量に検査しているため偽陽性が1%としても半数近くが感染者でない可能性があります。さらに、検査したい人が検査しているため対象が若者に偏っており、死因を調べていないため致死率の高くなるはずの高齢者が新型コロナで死亡しても計上されないこともあるそうです。

■感染をとめる方法がない
現在、新型コロナは感染を予防するためのワクチンも治療薬もなく、対症療法による治癒に期待するしかありません。いくつかの既存の医薬品が効きそうという報道はありますが、ワクチンの実用化などには1年以上かかるとも聞きます。新型コロナが話題になっている間に、今年のインフルエンザは消滅したようですが、新型コロナの勢いは衰えることがありません。今は感染者との接触を避ける以外に、感染をとめる方法がないのです。
先に書いた通り、世界中で感染を抑え込んでいるのは強権によって行動規制した中国だけです。スマホで行動を監視し、感染した人を追跡するという徹底的な規制をかけることで、ようやく感染者の増加をゼロに近づけたのです。他の国に、そんなマネができるでしょうか。日本は、専門者会議が示した3条件(密室、密集、接触)を避けてくださいという、他国に比べても「かなり緩い要請」が呼びかけられているだけです。感染者の増加ペースが落ちてきた韓国をはじめ、あまり感染者の増えていないシンガポールや台湾は、日本より厳しい規制がかかっています。それでも、感染者増を防げているわけではありません
NHKスペシャルでも「これまでは運がよかった。これからもこの幸運が続くということは、まずない」と言っていました。イベントについても自粛"要請"だけで法的な規制がなされていませんから、弾数の分からないロシアンルーレットをまわしているようなものです。そんなに長く幸運が続くとは思えませんが、続いたとしても新型コロナへの対策のピークがずっと先になるだけで、収束(あるいは終息)するまでには何か月、あるいは何年も続くことになります。東京オリンピックの1年延期が決まりましたが、1年先にすべてが解決している気はまるでしません

covid19graph.png

そして、もし日本で自粛要請を解除したら、ヨーロッパの後を追うことになるでしょう。医大入試の男女差別の理由が「女性には過重労働させられないから」だったことを思い出してください。過労死ラインが残業月80時間と言われているのに、厚生労働省が医者の残業時間を月155時間に"抑えましょう"と言っているくらいなのです。日本の医療制度に、そんなに余裕はありません
インフルエンザのように1000万人が感染したら致死率2%としても20万人が死亡します。とめる方法がないのですから、もっと悪化するかもしれませんし、そうなったらそもそも医療が追い付かず致死率は上がるでしょう。
日本は感染者が見つかるのは早かったものの、早くから自粛を要請して多くのイベントがしたがったおかげで感染の広がるペースは欧米ほどではありません。他国を実験台にするということではありませんが、このまま推移できれば、他国のようすから今後の方向を決めることができるでしょう。わざわざ率先して感染爆発を引き起こすようなことはすべきではないのです。

※2020/4/5追記。
■アメリカCDCによる情報
先日、テレビで村中璃子氏がCDCによる致死率を紹介されていましたが、その元情報がありましたので、ご紹介します。
"Severe Outcomes Among Patients with Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) -- United States, February 12-March 16, 2020"
(コロナウイルス2019(COVID-19)患者に関する深刻な結果)
2/12~3/16の間にCDCに報告された4226の症例を分析したもので、このうち年齢が分かっている2449人をまとめた一覧表が最後に掲載されています。こちらに引用します。

年齢 入院 集中治療室 死亡
0~19歳(123例) 1.6~2.5% 0% 0%
20~44歳(705例) 14.3~20.8% 2.0~4.2% 0.1~0.2%
45~54歳(429例) 21.2~28.3% 5.4~10.4% 0.5~0.8%
55~64歳(429例) 20.5~30.1% 4.7~11.2% 1.4~2.6%
65~74歳(409例) 28.6~43.5% 8.2~18.8% 2.7~4.9%
75~84歳(210例) 30.5~58.7% 10.5~31.0% 4.3~10.5%
85歳以上(144例) 31.3~70.3% 6.3~29.0% 10.4~27.3%
合計(2449例) 20.7~31.4% 4.9~11.5% 1.8~3.4%

※範囲の下限は現時点でのそれぞれの人数による、上限はそれぞれの状態を含む(?)値。
※2020/4/8追記。「入院」項目の20歳以上の数値が「集中治療室」の値と同じになっていました。お詫びして訂正します。

念のために、コメント欄でも引用した厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第1版」(PDF)という資料p.6にある「中国での新型コロナウイルス感染症患者44672人の患者データより」の致死率データも引用します。

年齢 死亡
0~9歳 0%
10~19歳 0.2%
20~29歳 0.2%
30~39歳 0.2%
40~49歳 0.4%
50~59歳 1.3%
60~69歳 3.6%
70~79歳 8.0%
80歳以上 14.8%
合計 2.3%

CDCのデータに幅があるものの、致死率については中国のデータとあまり変わりません。年齢が若いほど致死率は低く、高齢者の致死率は高くなっています。しかし、CDCのデータで注目すべきは「集中治療室」の値です。つまり、この比率は人工呼吸器やECMOと呼ばれる人工心肺が使われるケースです。どちらがどれくらい使われているかは分かりませんが(人工心肺は、本来一時的に使うもので、医者が交代で24時間付きっきりになります)、多くが人工呼吸器だとしても、この時点で後遺症の心配をしなければならないような状態です。
すでに上記で触れましたが、若者の致死率が低いといっても0.2%というのは「500回に1回死亡事故を起こすような乗り物、怖くて乗れませんよね」(山中伸弥氏)というレベルです。しかし、最低でも2.0%の確率で集中治療室に入る(人工心肺を使われるほど悪化する)ということは「50回に1回は後遺症が残るかもしれない大事故を起こす乗り物」ということになります。これが「若者」に対する数値です。「500人に1人が死ぬだけで499人はなんともない」というものではありません。
多数の感染者を出しているニューヨーク州のクオモ知事が「数万の人工呼吸器が必要」と訴えていました。現時点で1万人に8人"しか"感染していないアメリカで、すでに重症/重体の患者が5787人います。集団免疫を狙って何"割"というレベルで感染者が増えたら、その何百倍もの重症/重体患者が生まれることになります。人工心肺が足りなくなれば、この人たちも「死者」になってしまうでしょう。
それでもなお「インフルエンザでも人は死ぬ」と同じように考えられる人がいるのでしょうか。

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