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Aaron Swartzを追い詰めたのは著作権か

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RSSの開発やredditの共同経営者として知られる Aaron Swartz が先月自殺しました。実のところ RSS や reddit は知っていても、Aaron Swartz 自身のことはよく知りませんでしたし、彼の活動に注目もしていたわけでもありません。たまたま Creative Commons を通じて Lawrence Lessig から哀悼のメールが送られてきたときも、少し興味を持って調べたという程度でした。

多くの人が彼の素晴らしい業績を称賛し、死を悼んでいる反面、彼を自殺に追い込んだのが厳しい著作権であり、さらに非親告罪がもたらした弊害だと主張するものが散見されました。WIRED では「ドミニク・チェン特別寄稿:天才A・シュワルツの死が知らしめた、ある問題について」という記事で、次のように取り上げています。

このたびの彼の早すぎる死は、わたしたちの情報社会における著作権システムの根本的な問題の幾つかを浮き彫りにしました。1つは著作権の非親告罪化がもたらす歪み。1つは著作物の共有を巡る損害と利益の不正確な認識。そしてもう1つは学術システムの限界です。

ドミニク・チェン氏は Creative Commons Japan の理事ですが、このような立場にある人の記事が大手のメディアに掲載されたことため、このような指摘が正しいものとして広まってしまっているようです。でも、Aaron Swartz を追い詰めたのは、本当に著作権なのでしょうか

Aaron Swartz の自殺を報じた記事、あるいは2011年の逮捕を取り上げた記事には「Swartz氏が有罪となった場合、最大35年の懲役と3年間の監視下での保釈が課せられる」(「Aaron Swartz(アーロン・シュワルツ)が自殺 RSS仕様の共著者、web.pyの作者、Redditの共同創業者」より)といったことが書かれていました。少なくとも、この時点で彼の容疑が著作権侵害だけではないことがわかります。アメリカでも著作権侵害による懲役刑は最長で10年だからです。

Aaron Swartz の逮捕に関する記事を調べてみると、そもそも容疑に著作権侵害が含まれていないことがわかりました。「ゲリラOA活動家による EJ大量ダウンロードが投げかけた波紋」(2011年9月の記事)には次のように書かれています。

容疑は(1)電信詐欺,(2)電子計算機使用詐欺,(3)保護された電子計算機からの違法な情報入手,(4)保護された電子計算機への損害などで,有罪となれば100万ドル以下の罰金と35年以下の禁固刑とされている。

※今では、wikipedia に詳細な内容がまとめられています。

冒頭の記事のように「JSTOR とは和解していたのに35年もの刑が科せられるおそれがあるのは、アメリカは著作権侵害が非親告罪化されているためだ」と非親告罪化を問題視するのは的外れであり、むしろ「非親告罪化しているアメリカですら、著作権侵害に問うことはしなかった」というのが正しい見方というものです。そもそも Aaron Swartz は「容疑をかけられていた段階」であって、実際に裁判で35年の禁固刑が課せられたというわけでもありません。

「Aaron Swartz を追い詰めたのは非親告罪化した厳しい著作権だ」と著作権法を批判している人は、状況を正しく理解したら「電信詐欺、電子計算機使用詐欺、保護された電子計算機からの違法な情報入手、保護された電子計算機への損害に関する刑罰は厳しすぎる」と主張することになるのでしょう。その賛否については、あえて触れません。ただ、優秀な技術者の死がデタラメなプロパガンダのために利用されているのは大変残念なことと言わざるをえません。

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