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パロディ事件を振り返る

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日本でパロディに関する裁判にマッド・アマノ氏の「パロディ事件」があります。日本ではパロディが著作権侵害になる例としてよく持ち出されます。一方、フランスはパロディが著作権侵害にならないと明文で規定されています。アメリカもフェアユースがあるので、パロディを法的に許容する理由とされています。

Comics13_lo ■パロディ事件

パロディ事件については、wikipedia に項目があります。どのような写真だったかは、日本写真家協会の資料(PDF)で確認できます(ただし、小さな白黒画像です)。また、この事件については、マッド・アマノ氏自身もご自分のサイトで振り返っています(「パロディー裁判「盗作かパロディーか」」)。判例検索で、最高裁の判決文(高裁へ差し戻し)も見つかります。

こうした資料(とくに判決文)を読むとわかるのですが、この裁判で問題にされたのは(「パロディ」ではなく)「元の写真をそのまま使った」ということです。実際、この裁判が引用には主従関係が必要という条件を示しています。

さて、wikipedia の「パロディ」の項目にも書かれている通り、フランスでパロディが合法であることは明文で規定されているのですが、裁判は起きています。検索して簡単に調べられるのものとしては『ジャングルの恥タルゾン』というターザンのパロディアニメ(エロパロのようです)と、『ピーナッツ』(スヌーピーが出てくる漫画)のパロディ本があります。

ネットで検索するだけでは、これらがどの程度のパロディだったのか分からなかったのですが、どうやら原作を引用して制作されたものではないようです。つまり、あくまで原作は元ネタになっていただけだということです。これをマッド・アマノ氏の事件に適用させることは、妥当なことでしょうか。

■写真の著作権

写真家の丸田祥三氏が、廃墟写真について模倣されたと小林伸一郎氏を訴えた裁判があります。「小林伸一郎氏 盗作・盗用検証サイト」を見ると、“同じ写真”とは言わないものの、そっくりな写真であることに違いはありません。少なくとも同じ人が角度や時間を変えて撮った写真だと言われても疑問は感じないでしょう。

おそらく丸田氏は、これらの写真を撮るためにさまざまな場所を訪れたり、色々な試行錯誤があったのではないかと推察します。一方の小林氏は、すでに“絵になる”とわかっている場所を訪れて似たような(しかし同じではない)写真を撮るだけですから、ずっと手間がかからないはずです。

昨年、この裁判について知財高裁の判決があり、丸田氏は敗訴しました。「「廃虚」写真家が二審も敗訴 知財高裁」には以下のように書かれています。

判決理由で塩月秀平裁判長は「被写体が同じで構図が似ていても、写真の表現上の本質的特徴といえる撮影時期や角度、色合いが異なっている」と指摘、小林さんの作品は著作権侵害に当たらないとした。

もちろん、こういうもので「ここまでがダメ」と明確に線引きすることは難しいのですが、この程度の類似性では「別物」と判断されてしまうということです。どうやら写真の著作権は、かなり限定的にしか認められないようです。

■パロディ事件の判決文

写真の著作権がそれほど限定的なら、パロディ事件の写真も自分で撮影していたら問題なかったんじゃないのか、という疑問が浮かびます。実はパロディ事件の判決文の最後にはこう書かれています。

……このように解しても、本件において被上告人の意図するようなパロデイとしての表現の途が全く閉ざされるものとは考えられない(例えば、パロデイとしての表現上必要と考える範囲で本件写真の表現形式を模した写真を被上告人自ら撮影し、これにモンタージユの技法を施してするなどの方法が考えられよう。)から、上告人の一方に偏することとなるものでもないと思う。

最高裁は「自分で写真を撮っていれば問題なかった」と言っています。スキー場の写真を撮るための手間を考えれば、それが容易なこととは言えないかもしれませんが、少なくとも判決文では「パロディが問題なのではない」と言っているのです。

■パロディの許容範囲

フランスでパロディの明文規定があるとはいえ、実際に裁判が起きているのですから、フランスではパロディに一切の訴訟リスクがないと言えるわけではありません。一方、日本ではポケモン同人誌事件やときメモ同人ビデオ裁判などがあるので、フランスに比べればパロディの許容範囲はたしかに狭いと言えそうです。

いずれにせよ、パロディ同人誌も多いコミケは隆盛を極めていますし、その中心的役割を果たした故米澤嘉博氏は(それ以前に著作権問題が懸念されたとはいえ)手塚治虫文化賞の特別賞を受賞しているくらいです。かのローレンス・レッシグ氏の講演を聞いたときには、日本のコミケを絶賛しており「アメリカなら、すぐに訴訟沙汰になる」と話されていました。パロディの明文規定があるフランスには「ジャパンエキスポ」というコミケのようなイベントがあるようですが、これはアニメフェアのようなもののようです。

アメリカでは、マンガ・アニメは“子供のもの”(あるいは子供向けに作られている)という印象もありますし、マンガという枠を超えてキャラクタービジネスとしてのブランドを守る重要性はあるでしょう。それゆえ、日本でもポケモンやドラえもんのような子供向けのキャラクターには厳しくなり、大人向けのマンガ・アニメについては黙認されやすいという違いもありそうです。それを考えると、「日本ではパロディは著作権侵害だ」ということを、ことさら煽ったり、煽られたりする必要はないような気がします。

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