「知的財産戦略の推進について」へのパブリックコメント
「新たな「知的財産推進計画(仮称)」の策定に向けた意見募集」に対して、以下の内容を意見として送りました。
《要旨》
1. インターネットを通じた“放送”定義の拡大。
2. 著作権保護期間について、延長の代わりに登録制度を導入。
3. 納本制度の適用拡大。
4. 私的録音録画補償金制度の廃止。
5. レンタルCDの見直し。
《全文》
1. インターネットを通じた“放送”定義の拡大。
近年、実在の放送局による放送との同時再配信が“放送”として認められましたが、今なおインターネット単独での配信が放送とはみなされません。このため、日本のネットラジオは simulradio のような放送局によるものだけで、米国における live365 のような個人ベースのネットラジオを開設できません。このような“同時再配信”(および地域制限)の要求をインターネット“放送”の定義から外して、JASRAC や RIAJ が、個人のネット放送局に対しても著作権および原盤権の再生に関する包括契約を結べるようになることを希望します。
なお、ネットラジオなどの登場により、既存の著作権ビジネスにネガティブな影響を与えることを意図していません。法律上の放送の定義が拡大された場合でも、著作権管理団体は“オンデマンドを含まないストリーミング配信”や“十分な能力を持つ DRM の強制”といった条件をネット放送局に課すことで、十分な権利保護を維持できると考えます。あるいは、これらの条件を外す代わりに高額の許諾料を設定することもできます。地域制限を廃止することによる地方局への影響についても、「配信数の上限(または配信数に比例する包括許諾料金)」を設定することで事実上の影響はないか、極めて軽微なものに抑えることができます。
※live365における非商用ネットラジオでは「同じアーティストの曲を連続させない」「一定時間内に同じアルバムから使えるのは3曲まで」「ストリーミングの録音不可」「同時配信数の上限(数10程度)」といった条件を課しています。
2. 著作権保護期間について、延長の代わりに登録制度を導入。
著作権保護期間の延長については、従来の50年から70年に単純に延長するのではなく、ベルヌ条約の規定(50年)を上回る分については登録制の導入を希望します。
著作権者が判明している場合の著作権保護を重視することに反対ではありませんが、単純に著作権保護期間を延長すると、権利者が不明の“孤児作品”を利用できなくなる期間も延長されることになります。権利者不明の著作物を利用する規定はあるものの、利用が敬遠されることは十分考えられます。現在の保護期間を超えたものについて登録制(一定年数ごとの更新も必要)を採用すれば、許諾を得るための権利者が不在になることはなく、一方登録や更新がなされなくなったものについては自由に利用することができるようになります。
3. 納本制度の適用拡大。
国立国会図書館法に規定された納本制度では「映画フィルム」が含まれているものの、現実にはほとんど機能していないと聞きます。報道によれば、フランス、カナダはすべての映像作品に納本制度があるそうですが、日本でも映像作品を含む広範な著作物に対して納本制度を強制することを希望します。
著作権保護期間の延長に反対する理由として「著作物が失われていくことへの懸念」が挙げられています。しかし、発行された時点で保存を考慮されていない著作物は、著作権保護期間を待つことなく早い段階から失われていくのが現実です。納本制度を映像作品にも適用することは、保護期間の延長に反対する理由を減らすことにもなります。
さらにインターネット上のコンテンツについても納本制度の適用を考えることができます。インターネット上のコンテンツは、その性質上、どこにも記録されることなく失われていくことがしばしばあります。Internet Archive(Wayback Machine)などの組織において網羅的な収集・記録は行われていますが、これらは robots.txt などで収集を拒否されている場合には適用されません。このため、管理者不在などにより失われていく情報や著作物が存在します。こうしたものについても出版物と同じような納本制度を設けることで、永続的な保存を実現できます。しかも、自動収集ではなく、自発的な登録を行うことにすれば、ライブラリ化にかかる技術的な負担は軽くなります。
なお、納本制度で収集された著作物を、図書館の書籍と同じように、いつでも誰もが無料で視聴できるようにすることまでを求めるものではありません。指定された施設において、資料として一部の視聴のみを開放する、全体を視聴する場合は有料化する(その一部は納本者に還元される)、保護期間内は複製を認めない(保護期間を過ぎたものは、自由に複製できる)といった制限を設けることができます。こうした制限は、誹謗中傷や不適切な表現が認められる作品に対する配慮としても必要と考えます。
上記のように著作権法で納本制度を広範に定義した上で、その適用を逃れようとする場合には、著作権法による保護を受ける権利も制限する、という規定を設ければ、納本制度の積極的な活用が進み、著作物の保護を促進できます。
4. 私的録音録画補償金制度の廃止。
私的録音録画補償金については廃止することを希望します。
音楽ビジネスが数千億円、映像についてはテレビだけを考えても数兆円規模のビジネス規模と言われる中、これらの補償金の規模は数億~10億円程度のものであり、補償される金額は相対的にはきわめてわずかなものです。ピーク時ですら40億円程度のようです。これにより、それぞれの団体が宣伝する「文化の保護」に有意の影響がもたらされるとは考えられません。こうした金額によって文化の保護が実現できる(補償金がなければ保護できない)ということであれば、現在販売されている著作物、あるいはテレビ局が支払う著作権料などを、それに合わせて値上げすれば済む話であり、補償金という回りくどい制度をとる必要はありません。
もともと、購入したCDを音楽プレーヤーに転送するといった場合、たしかに「複製」は行われているものの、そこに補償しなければならないような損失が生じているとは思われません(ただし、レンタルCDについては後述)。テレビ番組を録画してCMをスキップされることは無料放送というビジネスモデルに影響を与える可能性はありますが、深刻な影響を与えているという実証はされておらず、またテレビ局に支払われる補償金は、そのビジネス規模に対して数千分の1程度であり、補償の意義を持つ規模になっていません。
5. レンタルCDの見直し。
レンタルレコードに始まった現在のレンタルCDは、世界でも例のない日本固有の制度と言われていますが、それだけ特異な制度でもあると考えます。この制度を見直すことを希望します。
レンタルCDは、貸本や貸ビデオと違って、たいていの場合に「借りた物を複製(リッピング)する」ことが推測されるものです。CDには、ジャケットや歌詞カードにもある程度の価値は認められますが、本質的な価値はCDに記録されている音楽そのものです。そして、レンタルレコードが合法化された当時と違い、現在は時間的にもコスト的にも非常に手軽に収録されている音楽を複製できる状況にあります。「借りた物を返却後も使える状態にして返すというレンタルビジネス」の正当性には疑問があります。
たとえば、「レンタルCD店で借りたCDの複製は私的複製としない」など、まさに「CDを借りる」、つまり通常のレンタルビジネスと同じように“正当に利用できるのは借りている間だけ”という規定を追加することが考えられます。また、こうすることで上記の補償金の必要はほとんどなくなるものと考えます。
なお、一般の知り合い同士の CD の貸し借りにまで適用することは想定していません。ただし、「CDの大人数での貸しまわし(および複製)」については議論の余地があります。
※本エントリは、個人ブログからの転載です(多少、改変しています)。