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キラードメイン×ブランディング~「.日本」が要らない、たった一つの理由

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「.jp」とかぶる

「.日本」というのは、国際化ドメイン名(IDN)を ccTLD(国別トップレベルドメイン)でも使えるようにするという方針のもとで進められているもので、とくに日本だけの話ではない。しかし、私には、その利用価値を見出すことができない(本来、総務省がパブリックコメントを募集しているときに出すべきだったのだが)。

そもそも私は、3年前に「国際化(日本語)ドメイン名は普及するか」というエントリを書いたように国際化ドメイン名(IDN)についても否定的である。「JPドメイン名の累計登録数」を見ると汎用JPの約74万のうちASCIIドメインが61万、日本語ドメインが13万である。意外に多いと思われるかもしれないが、ASCIIドメインは多少値下がりしたものの3000円/年くらいかかるのに、日本語ドメインは数百円/年という極端なキャンペーンが行われているに他ならない。中には汎用JPを登録すると日本語JPを無料でサービス、というキャンペーンである。そのようなキャンペーンは以前から行われており、先のエントリを書いた時点(2007年4月)の登録数を見るとASCIIドメインが41万、日本語ドメインは13万弱と、日本語ドメインはこの時点からほとんど増えていないのである。

また、先のエントリでは itmediа.co.jp というドメインを取り上げているのだが、ここに IDN が使われていることにお気づきだろうか(ドメイン名をテキストエディタにコピー&ペーストするとわかりやすいだろう)。実際には、属性型ドメインは取得条件があるから簡単ではないが、汎用JPや .com のような gTLD であれば、誰もがこのような紛らわしいドメインを取得できてしまう。もちろん不正な目的での登録は規約違反だが、フィッシング詐欺に使おうとする輩がそのようなことは気にしないだろう。なお、IE ではステータスバーには Punycode が表示されるので移動前に気づくこともできるが、FireFox では IDN のままステータスバーに表示されるようだ。

もっとも、日本語ドメインにもいくらか利用価値はある。「日本語JP活用事例」にある「試食会.jp」や「ユンケル.jp」などは典型的な例だが、日本語やカタカナ語はローマ字であらわすときにブレが生じたり、正確な綴りがわからないことがある。たとえば、試食会.jp は、ローマ字では "sisyokukai.jp" というドメインだが、"si" や "syo" のような訓令式は珍しく、ともするとヘボン式で "shishokukai.jp" というサイトにアクセスしようとするかもしれない。あるいは多くの人は検索エンジンで「試食会」を探すかもしれないが、SEO によって不適切なサイトが優先的に表示されてしまう恐れもある。このような場合でも、アドレスバーに日本語ドメインを入力するよう誘導すれば問題を避けられる(そもそも綴りミスしにくいドメインを使うべき、というのが本シリーズの主張であるが、それは脇に置いておく)。

JPNIC が業者向けに行ったアンケート結果を見ても、ビジネスチャンスととらえる意見がある一方で、「.日本」と「.JP」が意味的に同じTLDであり……大きな混乱が予想される」といった意見が複数ある。まさにそのとおりだと思う。gTLD が追加される際には、実態はともかく新しい意味が与えられていた。既存の TLD と意味合いが似ていたものに .com(commercial)に対する .biz(business)があったが、当初は「業務目的」という条件を明示的に課していた(事実上、なくなってしまったが)。.info(情報提供)や .name(個人名)、.pro(専門職)、.mobi(モバイル)なども、新たな意味のために作られた TLD である。

しばしば“.com や .jp で取れなかった名前が取れる”という理由から、マイナーな TLD に走ってしまうケースも見られるのだが、本来そのような取り方をすべきではない。同じ名前の .com や .jp ドメインであまり好ましくないサイトが作られてしまう可能性もあり、ブランディング上の問題があるからだ。「.日本」と「.jp」でも同じことである。「.日本」では、たいていセカンドレベルでも日本語を使うことになるだろうが、同じ名前の「.jp」を別の人が取得していたら、その名前で「.日本」を使う気になるだろうか。たとえば「赤だし.jp」というドメインはイチビキという会社のサイトに転送されているが、「赤だし.日本」をサンジルシが取得して使えるようにしてよいだろうか。

既存名の登録者を優先するサンライズ期間という仕組みもあるが、そこで登録されなければ自由に第三者の登録を許してよいだろうか。上記のアンケートでは、それを避けるために「.日本」の登録を「.jp」所有者に限定するという案も出ている。それはしかし、企業などに「防御的な登録」をさせることに他ならない(無料でやるのならよいが、それは登録業者が反対するだろう)。もっとも「.日本」が実施されたところで、振り向きもされない可能性は高いのだが。少なくとも、GMO などが進めている .shop の方がずっと意味のある TLD になるだろう。

※本エントリは、個人ブログからの転載です(多少、改変しています)。

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